台頭する極右と高まる移民・難民排斥の機運、欧州はどこに向かうのか 専門家の見方は~青山学院大の羽場久美子名誉教授
47NEWS / 2024年7月4日 11時0分
6月に投開票された欧州連合(EU)欧州議会選の結果、EUの政策に懐疑的な極右や右派の政党が議席数を増やした。その背景にあるのが、ヨーロッパ全体で高まる移民・難民排斥の機運だ。ヨーロッパで今何が起きているのか、そしてどこに向かうのか―。欧州国際政治の専門家である青山学院大の羽場久美子名誉教授に、現状と今後の展望を聞いた。(共同通信=立田成美)
青山学院大の羽場久美子名誉教授
―これまでのヨーロッパの移民・難民への対応は。
2015~16年、内戦や地域紛争の影響でシリアなどから100万人以上の難民がヨーロッパに押し寄せた。当時、ヨーロッパはドイツ・メルケル政権を中心に積極的に受け入れたが、ドイツで難民による集団暴行事件やテロが発生するなど治安が悪化。また「ヨーロッパの玄関口」であるイタリアやハンガリーで移民受け入れに反対する動きが加速すると、ヨーロッパ全体で流入に対する市民の不安が急速に高まった。
イギリスのEU離脱はまさにこうした流れの中で起こった。EU内では人の移動が自由なため、イギリスの権限で入国を止めることはできない。イギリスは2016年に国民投票を実施し、離脱を決定。2020年に正式にEUから離脱した。
ロンドンの国会議事堂近くの広場で、イギリスのEU離脱を喜ぶ人たち=2020年1月(共同)
―2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻がヨーロッパに与えた影響は。
侵攻によって多くのウクライナ人らが戦禍を逃れて難民となり、一時800万人以上がヨーロッパにあふれた。加えてウクライナへの武器輸出支援が各国の財政を圧迫している。戦争はいまだ終結の兆しがなく、市民の不満は募るばかりだ。
ヨーロッパでは経済成長の停滞や物価高によって将来への不安が高まっている。とりわけ高齢者は、手厚い社会保障費が移民・難民の生活支援に奪われてしまうとの危機感を抱いている。社会保障費を逼迫させているのは、実際は少子高齢化やエネルギー価格の高騰など別の要因だが、全て移民らのせいにされてきた。
各国で都市部の若者が選挙に行かなくなった結果、高齢者や比較的保守的な地方住民が有権者に占める割合が大きくなっている。彼らの移民・難民への反感が、現在の極右や右派の台頭につながっている。
ルーマニアのホテルに避難するウクライナからの人々=2022年3月(AP=共同)
とりわけイギリス、フランス、イタリアでは、移民・難民を国民の既得権益を侵す脅威と見なして排斥する勢力が急成長した。フランスは欧州議会選で、マクロン大統領の与党が極右政党、国民連合(RN)に2倍の差で敗北。追い詰められたマクロン大統領は賭けの解散総選挙に打って出たが、現状では凶と出る可能性も高い。右傾化の流れは今後の各国の選挙でもさらに拡大するだろう。
EU欧州議会選の結果に歓喜するフランスの極右政党、国民連合(RN)の支持者=6月、パリ(AP=共同)
―イギリスやデンマークなどでは移民・難民を他国に移送しようとする動きが加速している。どう見るか。
政治的理由で逃れてきた難民が本国に送還されると、拘束されたり身に危険が及んだりする可能性がある。イギリスやデンマークが移送先として挙げているルワンダは1994年に民族対立による大虐殺があった国だ。もしルワンダからの難民が強制送還された場合、逮捕されたり命を奪われたりするリスクがある。
そもそも移送政策の根底には、有色人種への差別や偏見がある。難民の中でもウクライナ人など白人は受け入れるが、アフリカ系や中東系、イスラム教徒(ムスリム)の難民は入国を拒否されるといった差別が現実に起きている。深刻な人権侵害だ。だが残念ながら、移送を検討する国がさらに増えつつある。
イギリスからの移民の受け入れを予定している宿泊施設=1月、ルワンダ首都キガリ(共同)
―移民・難民を巡る問題をどのように解決すべきか。
現在、戦地に武器を送って戦争を継続させているのは米欧側という見方もできる。大量の難民を生み出す原因となっている戦争や紛争を、国際社会が団結して止めることが最優先だ。
その上で、ヨーロッパ各国は移民・難民を排除するのではなく仕事を与え、国内の労働力とすべきだ。少子高齢化が進むヨーロッパは、深刻な労働力不足に直面している。彼らに言語習得や職業訓練の機会を提供し、仕事を与えて経済回復と国の発展の礎とするという発想の転換が必要だ。
移民・難民を巡っては、少子高齢化が進む日本もヨーロッパ以上に深刻な課題を抱えている。このままでは約40年後に生産年齢人口が4割減少し、他方65歳以上の高齢者が4割弱を占めるとも試算されている。日本で暮らす外国人に対して排他的な態度を取るのではなく、互いがより良く生きられる社会を築いていく努力が必要だ。遠い国の問題ではなく、ぜひ自分事として考えてみてほしい。
地中海で救助した移民・難民を運ぶイタリア沿岸警備当局の船=2023年9月(ロイター=共同)
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