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農産物よ、おまえもか―。野菜にも及び始めた値上げの波 価格高騰は勘弁、でも農家廃業も避けたいジレンマに消費者104人が出した答えは

47NEWS / 2024年7月20日 10時0分

青果店の店頭に並べられたキャベツ=2024年5月、東京都新宿区

 円安を背景に輸入する原材料や燃料の価格が高騰してさまざまな日用品が値上がりする中、野菜や果物、食肉などの農産物にも価格上昇の波が及び始めた。資材費や輸送費、人件費などとともに、輸入に頼る肥料や飼料、農薬の価格も高くなっている。食卓に欠かせない農産物の値段について消費者がどのように感じているのかを探るべく、東京都内の商店街を訪れて声を集めた。答えてくれた104人からは、「懐が痛むのは勘弁してほしい、でも価格転嫁できずに割を食った農家が廃業するのも避けたい」とのジレンマが浮かび上がった。(共同通信=音光香菜美)

 ▽キャベツにブロッコリー、トマトも値上がり

 アンケートは今年5月、東京都北区の十条銀座商店街と江東区の砂町銀座商店街、新宿区のあけぼのばし通り商店街などの古くからある商店街で実施した。


 記者腕章を付けて街頭に立ち、タブレットを見せて質問に答えてもらった。テーマは農産物価格の現状認識を中心に据えた。
 農林水産省の取材を担当する経済部の記者として、農業の窮状と価格転嫁の問題を消費者がどのように感じており、どのように行動するのか疑問を持ったことがきっかけだ。


 ▽「高い」が64%

 現在の農産物の価格水準をどう思うかの質問に対し、「高い」と答えたのは67人と全体の64%を占めた。「安い」と回答したのは6人にとどまった。
 具体的にどの食品の価格が高いと感じているのかを聴いたところ、目立ったのはキャベツやブロッコリーだった。他にはレタス、トマト、ニンジン、キュウリ、大根、白菜も挙がった。
 野菜以外でも、果物全般やオレンジジュース、食肉の値段が高いと指摘する声があった。私もスーパーで買い物中に、オレンジジュースの最近の著しい値上がりぶりが気になっていた。
 回答者は70歳以上の方が多かったが、意欲的に対応してくれる20代の方々もいた。
 年金生活者が多く、賃上げの恩恵を受けにくい高齢者ほど、食品の値上がりの打撃は大きい。ある80代女性は「毎日の食べ物は減らせないので、高くなると困る」と切々と訴えた。
 20代の女性は「輸入が増えるのも問題だし、おいしいものを食べられる環境が続くよい方法があればいい」と真剣に考えてくれた。


 ▽農家廃業容認の回答はわずか2人

 続いて「農業者が現在の価格水準では事業を継続できない場合、どのような対策が妥当だと思うか」と尋ねた。
 「継続できない業者が廃業する」という選択肢も設けたが、選んだのはわずか2人。農業は国の礎であるとともに安全保障の要であり、農家が撤退する事態になってはならないとの認識が大都市の東京でも根強いことが垣間見えた。
 最多の回答は「政府が補助金を出す」で51人、次いで「販売する食品を値上げする」が25人だった。補助金で農家の生計を支えることができれば、値上がり幅を抑えられる可能性もありそうだ。


街頭調査を実施した十条銀座商店街=2024年6月、東京都北区

 ▽政府の方針は価格転嫁促進による局面打開

 小麦粉や食用油といった、少数の大手メーカーが足並みをそろえて値上げを繰り返してきた加工食品に比べると、大小さまざまの農家が出荷している生鮮食品は価格引き上げを打ち出しにくい。このままでは高まる生産コストがのしかかり、農家は事業を継続できない危機にひんする。
 だが政府は、消費者が求める補助金ではなく、価格転嫁の促進によって局面を打開したい方針だ。
 農水省は農業団体や消費者団体の関係者を集め、適正な価格形成の仕組みをつくる議論を進めている。離農や後継者不足に悩む現状を脱却し持続可能な農業を目指して、生産と流通の段階で、資材費や燃料費、人件費の上昇分を価格に反映する方法を探っている。
 今回実施したアンケートでは、この議論について知っている人は36人だった。
 農水省の農業物価指数によると、2020年を100と置いたとき、今年4月の総合的な農産物価格指数は112・4だった。4年間で1割強上がった計算だ。
 一方、農家にとっての費用に当たる総合的な農業生産資材価格指数は120・2に達し、約2割上昇した。


 ▽農産物値上がりならば見直しが6割

 仮に農産物が値上がりしたらどうするのかとの質問には、同じ農産物または似た品目でより安い商品に切り替えるとの回答が43人、量や購入頻度を減らすとしたのが18人で、さらに「買わない」と答えた2人を合わせると全体の6割に達した。
 一方、「同じものを購入する」と答えたのは39人だった。


 ▽30%超の値上げ容認は8人だけ

 受け入れられる値上げ率を尋ねたところ、「10%以内」が47人で、「受け入れられない」も7人いた。

 これに対し、「30%超」の値上げでも容認するとの回答は8人にとどまった。日常的に買う食品だけに、価格動向にはとりわけ敏感だ。


 ▽政府は丁寧な説明を

 農産物の価格が上がるなら、どのような説明や施策があれば納得できるのか。この質問に対しては「価格が上がる理由(資材高や燃料高)についての説明」が44人で最も多かった。
 続いて「よりよい品質や環境負荷対策でコストがかかることについての説明」が22人、「価格を上げないことで、農家や事業者に与える影響の説明」は21人だった。
 ある60代女性は値上げについて「ちゃんと説明があれば納得できる」と話した。
 2024年春闘では、業績が好調な大企業の正社員に対する高水準の賃上げが実現した。その一方で、中小企業は価格転嫁が十分に進まず、収益が改善していない。結果的に大企業と中小企業との賃金の格差が広がり、社会的な問題となっている。
 こうした構図のかたわらで、農家からも価格転嫁が進まずに生産の費用負担が重くなり、苦しくなっているとの声が出ている。
 消費者の農産物価格に対する意識はシビアで、値上がりした食品は購入を避ける傾向が見られる。
 政府は価格転嫁を通じ、広く負担を求める方針を進めるのであれば、価格上昇を受け入れられてもらえるように消費者への丁寧な説明を尽くす必要があるのではないだろうか。

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