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20年性風俗店を渡り歩いた女性が「業界脱出」に成功できた理由 韓国の相談所、心のケアや大学進学も支援

47NEWS / 2024年7月11日 10時30分

性売買の温床とされる繁華街のカラオケ店を巡回する「相談所」のスタッフ=3月28日、ソウル(撮影・金民熙、共同)

 ソウルのある繁華街の一角。ネオンが光る「ノレパン(カラオケ)」が軒を連ねる。この地区には女性が個室で接客する店が多く、性売買の温床とされている。性売買に従事する女性の自立を支援し、業界からの脱出を手助けする組織(「相談所」などと呼ばれる)の活動に3月、同行した。

 相談所の女性スタッフらは一店一店くまなく巡回し、相談所の連絡先が記されたライターや手鏡、ばんそうこうといった日用品を店主らへ手渡していた。
 一度入ってしまうとなかなか抜け出せないと言われる性風俗業界だが、体系的なサポートにより、多くの女性が新たな一歩を踏み出している。関係者の証言も交えながら、支援の実態に迫る。(年齢は取材当時、共同通信ソウル支局 富樫顕大)

 ▽「自信を回復する時間」
 相談所によるアウトリーチ(訪問支援)は2004年に施行された「性売買防止法」に基づく。店主らは「こんな物よりダイソーの物の方が良いよ」、「アガッシ(女の子)は持って帰らないかもしれないよ」などとつれない反応だが、露骨に拒むことはない。

 スタッフらはその間、勤務する女性の数をさりげなく聞いたり、店内のATMの設置状況をチェックしたりして、性売買の現状把握にも努める。


性売買の温床とされる繁華街のカラオケ店を巡回する「相談所」のスタッフ=3月28日、ソウル(撮影・金民熙、共同)

 韓国には、性風俗産業で働く女性のための相談所が全国に約30カ所ある。未成年を専門の対象とした相談所も、これとは別に20カ所近くある。政府や自治体から民間団体が委託を受けて運営するものだ。女性が業界を離れた後の仮住まいとなる「シェルター」や「自立支援センター」もあり、同様の形で運営されている。

 多数の相談所や自立支援センターを受託運営する組織「性売買問題解決のための全国連帯」のソウルの相談所には、年間約150人から連絡がある。そのうち自立支援センターにまで通い、業界脱出への道を開くのは20~30人ほどだという。


自立支援センターに通う女性らが作った編み物を見せるスタッフ=2月28日、ソウル(撮影・金民熙、共同)

 全国連帯の李ハヨン共同代表(42)は「性売買をやめても、すぐに新しい仕事を探すのは非常に難しい。自立支援センターは自信を回復する時間だ」と語る。英語やパソコンの学習といった支援センターのプログラムに通えば、最大月150万ウォン(約17万円)の手当も出る。それぞれの過去の経験を明かし、理解し合うことを通じて心のケアにつなげる時間もある。


「性売買問題解決のための全国連帯」の李ハヨン共同代表=2月28日、ソウル(撮影・金民熙、共同)

 ▽最初は半信半疑だったが・・
 性風俗店を約20年間渡り歩いた40代女性は、同僚の女性に相談所の存在を教えてもらい、連絡を取った。ただ最初は「相談所は私を助けるように見せかけて、どこかに売り飛ばすのではないか」と半信半疑だった。「私の周囲はいつもそんな人たちばかりだった」と女性は話す。だが「法律に基づく相談所」だと分かり、安心して心を開くことができたという。

 化粧代や衣装代などで借金が膨らみ、売上金では返済できず、性売買から抜け出せない―。韓国の性売買業界でよく見られるケースだ。女性は相談所で、こうした金銭面や医療に関する支援を受けた。「店で働いていた時は毎日店主に悪態をつかれていた。相談所では、私に悪態をつく人もいない。じめっとした特有のにおいがある性売買の店と違い、何か『きれい』な感じだった」


インタビューに応じる「脱性売買」に成功した女性=3月26日、韓国(撮影・富樫顕大、共同)

 女性は1年ほど自立支援センターに通った後、大学に進学。福祉施設でのインターンも経て「脱性売買」に成功した。

 「性売買の女性というだけで、『道を誤った』とは言いたくない。熾烈に生きたのだから」と前を向く。性売買の日々は「過ぎ去ったこと」であり、「その後の自分の人生を生き抜く」ことが大事だと、気持ちを整理できているという。

 ▽日本の支援団体とも知見共有
 韓国の取り組みは日本にも影響を与えている。2024年4月、東京都内で日本の一般社団法人「Colabo(コラボ)」と韓国の相談所関係者らの意見交換会が開かれた。Colaboは東京・歌舞伎町で、性売買などに巻き込まれないよう少女らに声をかける活動を行う。仁藤夢乃代表(34)によると、モデルにしたのは韓国だ。

 意見交換会では、歌舞伎町周辺で大勢の女性らが性売買の客待ちをしている現状に、韓国の参加者から「日本の政府や自治体、市民社会はなぜこんな状況を許しているのか」と嘆く声も上がった。

 日本では、性被害などに直面する女性らを対象とした「困難女性支援法」が2024年4月に施行されたが、支援拡充は道半ばだ。Colaboの細金和子理事(73)は、今回の施行をきっかけに「実体のある変革につなげなければいけない」と力を込める。


「Colabo(コラボ)」と韓国の相談所関係者らの意見交換会=4月18日、東京都内(撮影・富樫顕大、共同)

 ▽「処罰撤廃を」
 韓国の公的支援も、活動が及ばない地域があったり、外国人女性への支援が不足していたりと、さまざまな課題を抱える。2024年5月には、韓国警察が、観光名目で韓国に入国し性売買に従事したとして日本人女性らを摘発する事件もあった。

 日韓の法律には、いずれも性売買に従事した女性を処罰する条項が残る。韓国の相談所関係者や女性団体らはこのことを問題視しており、2024年3月には、ソウルの国会前で処罰条項撤廃を訴えて声を張り上げた。

 「犯罪者という烙印を押すと、社会的弱者である性売買の女性を、さらに劣悪な場所へと追いやってしまう」


ソウルの国会前でデモを行う韓国の女性団体ら=3月22日(撮影・金民熙、共同)

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