JR西日本の株式1億円分を岡山県真庭市が取得へ、鉄道の存廃議論に発言力高める 市長「鉄道を必要としている市民への配慮は絶対に必要」
47NEWS / 2024年7月10日 10時0分
人口約4万人の岡山県真庭市が、JR西日本の株式を1億円分購入することを決めた。市内にはJR姫新線が走る。利用者が低迷するローカル路線を存続させるかどうかの議論が広がる中、株主になって発言力を高める狙いだ。路線を維持したい自治体と効率的な経営を重視する鉄道会社の新たな関係に注目が集まる。(共同通信=石井祐)
▽通学、通勤に欠かせない
雨が降るある日の夕刻、真庭市中心部の久世駅では、1両編成の列車から高校生らがホームに降りていた。隣接する津山市に通っているという高校3年の男子生徒(18)は「中学生の時から乗っている。列車がなかったら、車で送迎する家族の負担が増える。学生にとって必要な路線です」と話した。
別の男子生徒(18)は普段は自宅から約15キロの道のりを自転車で往復しているが、「雨や雪の日に鉄道は欠かせない」と言う。卒業後、通勤でも姫新線を利用する予定で「廃線になったら絶対に困る」と語った。
JR姫新線の久世駅=2月、岡山県真庭市
赤字が続く地方鉄道の再編に向け、鉄道事業者や自治体からの要請により「再構築協議会」が設置されるようになった。協議対象の目安は1キロ当たりの1日平均乗客数が千人未満の区間とされ、国、自治体、事業者などで鉄道の存廃を含め議論する。
姫新線は兵庫県姫路市と岡山県新見市を結ぶ。岡山県内の姫新線の区間は、2022年度の1日平均乗客数が132~640人。将来、存廃を含めた議論が始まることを懸念する真庭市は今年2月、JR西日本株取得のための資金1億円を2024年度当初予算案に計上し、議案は可決された。
▽配当200万円で鉄道の利用促進
JR西日本の決算短信などによると、2024年4月で発行済み株式は約4億8千万株、時価総額は約1兆5千億円。24年3月期の1株当たりの配当金は142円で配当総額は346億円だ。効率的な経営を求める傾向が強い外国法人などの株式保有比率は、3月末時点で33・78%に上り、外国法人などへの配当は100億円規模とみられる。
真庭市の取得額は時価総額に比べるとわずかだが、太田昇市長は「株主として資本参加することで、無責任に『残せ』と言うのではなく、地域の交通に一定の責任を持ちつつ、JRに必要な意見を伝え、維持を訴える」と話す。「実際に行くかはまだ決めていないが、株主総会で意見を届けることも可能だ」と発言力向上を狙う。
市への配当金は200万円程度を見込み、市民の鉄道利用促進策に充てる。株主優待で得た割引切符は市民に抽選での配布も検討する。株価下落の懸念には「JR西日本は不動産を多く保有し、経営は安定している」と話す。
JR中国勝山駅に停車する姫新線の列車=2月、岡山県真庭市
▽「地方路線の赤字補填を」
岡山県内では、JR西日本の要請に基づき、芸備線の再構築協議会が設置され、今年3月に初会合が開催された。真庭市は協議会の参加自治体ではないが、姫新線と接続するため危機感は強い。
太田市長はJRについて、旧国鉄時代の資産を承継してきたことから「国民の財産でもって成り立ってきた会社だ。都市部の路線や新幹線、不動産で稼いだ資金を地方の赤字路線に投入して補填する姿勢を維持すべきだ」と強調。「少子高齢化が進む中、弱者の足を確保しなければならない。災害対応や国防、過疎化といった観点からも、国は鉄道についてしっかり議論すべきだ」と注文を付ける。
取材に応じる岡山県真庭市の太田昇市長=2月
▽株式所得で発言力高めることが必要と識者
太田市長は京都府副知事を務めていた経験がある。関西電力株を持つ京都市の当時の市長が原発問題を巡って株主総会で発言した姿から着想を得た。他の自治体からも問い合わせがあるといい、太田市長は「(自治体の)首長の皆さんが(株の取得を通じて)鉄道を守ることに関心を持ってもらえれば」と期待する。
自治体がJR株式を取得した事例は他にもある。宮崎県の日南市と串間市が2016年度にJR九州株を購入。両市はJR九州と連携し、日南線の利用促進事業を展開する。
地方創生に詳しい福岡大学の木下敏之教授は、上場JR各社について「株主や資本の論理に基づいて路線の存廃を決める流れは加速する。各自治体が株を共同取得し、発言力を強めるしかない」と話す。
太田市長は過去の記者会見で「鉄道はネットワークとして連続性を持つべき。真庭市にとっては、姫新線で全国につながっていることが重要だ。鉄道を必要としている市民への配慮は絶対に必要だ」と強調した。一方、JR西日本の長谷川一明社長は「株保有にかかわらず沿線自治体は重要な利害関係者の一員で丁寧に対応させていただく」と記者会見で説明している。
JR姫新線の車両=2月、岡山県真庭市
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