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実は多い?男性の更年期障害。気分の落ち込みやイライラ、加齢のせいと思った症状は更年期が原因かも 仕事との両立、動き出した環境整備

47NEWS / 2024年7月22日 10時0分

更年期障害の検査キットの結果を示したLINE画面

 2023年夏ごろのこと。関西地方に住む会社員の男性(39)は「日常生活もままならないほどの疲労感」に襲われた。起床するのがつらい。体が重い。会社に遅刻しそうになったり、気分が沈んで仕事に身が入らなかったりした。

 以前から心療内科に通院しており、抑うつ傾向が強く出ているのかと思った。インターネットで症状を調べる中で男性の更年期障害を知った。「これかな」と思い当たり、病院を探して検査を受けた。すると、男性ホルモンの値が基準よりはるかに低く、やはり更年期障害の疑いを指摘された。

 更年期障害は女性の健康課題だと思われがちだが、男性の間での認知度が低いだけで、症状が当てはまる人は実は多いとみられている。企業や自治体は仕事との両立に向けた環境整備に動き出した。(共同通信=越賀希英)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

 ▽職場で「平静を装うのがつらい」
 更年期障害の治療開始から間もなく10カ月。男性は投稿サイトの「note(ノート)」に「ダーシマックス」のクリエーター名で自らの経験を発信している。治療は男性ホルモンを補充する注射を打つものだ。注射を打って2~3日たつと「朝の目覚めが全然違う」と効果を実感するという。

 現在、2週間ごとに通院しているが、注射してから1週間をピークに効果が徐々に落ち始め、次の注射の前に疲労感が出てくる。そのため男性ホルモンを補充する塗り薬も補助的に使っている。

 出勤できた場合でも「職場で平静を装うのがつらかった」と振り返るが、現在は男性ホルモンの値が上昇。「体力も体調も改善して良かった」と胸をなで下ろす。

 自身の経験を伝えることで「同じような症状の人たちにとって情報源が増えたらいい。男性更年期への注目度が上がれば、治療方法も増えるのではないか」と考えている。


取材に応じてくれた男性。更年期障害の疑いを指摘され、自身の治療経験を発信している(提供写真)

 ▽疲れやすい、男性機能の低下…症状はさまざま


佐々木クリニック泌尿器科芝大門の佐々木裕院長(提供写真)

 佐々木クリニック泌尿器科芝大門の佐々木裕院長によると、男性更年期は男性ホルモンのテストステロンが低下することで起きる。症状はいらいらや気分の落ち込みのほか、疲れやすい、男性機能の低下などさまざまだという。40歳以降から男性ホルモンが減少し、どの年代でも起こり得る。

 受診の窓口は泌尿器科やメンズヘルス外来で、男性更年期に当てはまるかどうかを調べる「AMSスコア」という質問票で判定する。採血でホルモンの値を測定する方法もある。治療法はホルモンを補充する注射や、漢方薬の使用などがある。食生活にも密接に関係しており、生活習慣を整えたり、軽い有酸素運動を無理のない範囲で取り入れたりするのも有効だという。


 女性が閉経に伴い急激にホルモンが減るのに対し、男性ホルモンは緩やかに減る。このため「疲れているだけ」、「加齢によるものだから」などと捉えて、更年期だと気づきにくい場合があるのも特徴だ。

 ▽潜在的な患者はもっと多い
 厚生労働省が2022年に実施した調査で、「男性にも更年期にまつわる不調があること」を「よく知っている」と答えたのは、40代以降の男性で約1~2割にとどまった。

 さらに「医療機関への受診により、更年期障害と診断された、または診断されている」と答えた男性の割合は40~50代で1%台だった。

 この結果について佐々木院長は「男性更年期障害が知られていないため、正確な数字の把握につながっていない。知らないから数字が低いだけで、潜在的にはもっといるはずだ」との見方を示す。

 受診に訪れる患者には「部下にいらいらしてしまうので調べたい」、「(自身の振る舞いで)家族が困っている」といった動機もあるという。佐々木院長は「周りの人はプライドを傷つけるような言い方や接し方はせず、優しく支えることが大切だ」と強調する。

 「更年期」という言葉に抵抗感がある人も多く、受診のハードルは高い。その場合は、男性ホルモンの状態をセルフチェックできる検査キットも販売されている。TRULY(トゥルーリー、東京)は、毛髪を切って郵送すればLINE(ライン)で検査結果や専門家のアドバイスを受けられるサービスを展開している。


トゥルーリーの二宮CEO=5月、東京都渋谷区

 ▽休暇整備、性差の理解促進が重要に
 加齢による体調の変化と向き合いながら、仕事との両立ができるよう制度を整備する企業もある。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券は2024年4月、女性向けの生理休暇を刷新し、男女問わず更年期も対象とした「ヘルスケア休暇」にした。1カ月につき2日まで有給扱いになる。

 女性社員から「更年期障害で年次有給休暇をたくさん使ってしまう」と悩む声が届いたことが見直しのきっかけだった。男性社員から要望がでていたわけではないが、男性にも更年期があることから「性別で区別しない」(担当者)と決めた。

 SMBC日興証券も同様の休暇を導入。年間12日取得できる。生理休暇の改定を検討する中で、更年期障害は女性のみを対象とする予定だったが、男性社員から要望が上がったことも参考にした。「さまざまな症状や状況で悩んでいる社員が職場にいることを全社員に理解してほしい」と説明している。

 鳥取県は2023年10月に特別休暇を新設し、保健師が職員からの相談に応じる体制を整えた。2024年5月末までに25人が休暇を取得し、そのうち男性は9人だった。

 制度が十分に活用されるには職場の理解が不可欠だ。トゥルーリーは企業のヘルスケア研修も手がけており、男女の更年期についてオンラインで学べるセミナーを提供している。性別によって症状の出方に違いがあることなどを知ることで、職場の環境改善につなげるのが目的だ。

 二宮未摩子最高経営責任者(CEO)は「タブー視されてきた悩みは男性にもある。お互いの性差を理解し、助け合うことが大切だ」と話している。

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