最後の国鉄特急形電車を追う 伯備線で381系がラストラン
47NEWS / 2024年7月12日 11時0分
【汐留鉄道倶楽部】2024年6月、全国で唯一残っていた国鉄特急形電車の定期運行が終わった。岡山―鳥取―島根を結ぶ特急「やくも」の381系で、多くのメディアが「ラストラン」と報じたように、事実上の引退といえる。しばらくは一部の編成が残って繁忙期に走るものの、完全引退は時間の問題とみて差し支えないだろう。
戦後十年ちょっとの時期に、クリーム色に赤帯をまとった明るい車体で鮮烈なデビューを飾った国鉄特急形電車が、最後の時を迎えようとしている。筆者は鉄道史に残る一大事を、東京に流れるニュースで見守るつもりだったが、連休を取れる幸運に恵まれたので、現地に行って381系の雄姿を目に焼き付けることにした。
出発前に下調べをしたところ、1日15往復あるやくものうち、381系は5往復に減っていた。車体カラーは3種類ある。カラーごとの運行本数は、白地に赤が印象的な最新の標準色「ゆったりやくも色」と、復刻版の「緑やくも色」が1・5往復ずつ、同じく復刻版でクリームと赤の「国鉄色」が2往復。ほかの10往復は新型の273系だ。
JR西日本と山陰観光連盟が公表した381系の運行予定を見て、山陰線から伯備線へ向かうコースを選んだ。羽田空港から飛行機で島根入りし、出雲空港にほど近い山陰線の沿線を訪れると、既に数名がカメラを構えていた。それほど有名な撮影地でもないし、平日にもかかわらず、筆者の後にも数名がやって来た。
伯備線の直線区間を走る381系「ゆったりやくも色」編成。特急「やくも」の定期列車から撤退した後も、たまに走る見通しだ
いずれも狙いは381系だが、好みによって撮りたい列車が異なるのが面白い。筆者のような中高年は国鉄色に愛着があり、若年層は緑やくも色に慣れ親しんでいる。構図にしても、望遠系、広角系、画面いっぱいに車両を入れるか、風景の中に車両が入ってくるか、といった違いがあり、立ち位置も変わる。
一番人気の国鉄色が遠くに見えると、誰ともなく「来た、来た」と声を出したのを合図に緊張が走り、談笑でにぎやかだった山間の農村地帯が本来の静けさを取り戻した。数十秒後、いや十数秒後だろうか、国鉄色が通り過ぎると、会話が戻ったのもつかの間、半分以上の人が立ち去って別の撮影地へ向かった。筆者ら数名は緑やくも色まで撮影し、その後ほとんどが移動した。
伯備線の鉄橋を渡る381系「国鉄色」編成。この色の国鉄特急形電車は、美しさと貫禄を持ち合わせた「ザ・特急電車」だった
翌日は宍道湖をバックにしたカットを狙い、さらに別の田園地帯にも行った。「自分しかいないだろう」と思って訪れた場所でも独りぼっちにはならなかった。どこへ行ってもカメラを持った人と出会い、381系の人気ぶりを実感した。
山陰線を離れてからは、伯備線の有名撮影地が点在する鳥取県日野町に宿泊した。同町は撮り鉄の悪行を伝えるニュースでも有名になった。大混雑を覚悟しながら、「いつかはここで撮りたい」と思っていた場所を訪れた。そこそこの数の鉄道ファンはいたが、筆者が訪れた際はありがたいことに総じて平和だった。
トンネルを抜けた列車がカーブを曲がりながら鉄橋を渡る写真が撮れる通称「ネウクロ」。筆者が最も行きたかった撮影地だ。381系やくもの定期列車最終日の前日である14日に訪れると、やはり人気スポットとあって、既に5~6人が集まっていた。テレビ局も取材に来た。
381系の後継として特急「やくも」を担う273系。斬新なデザインと配色で新たな人気者になりそうだ
インタビューを受けた若者は「午前4時半に来たら既に三脚がありました」と答えていた。その気合の入れように驚いていた記者さんに逆取材したら、「カメラマンと一緒に、松江を午前5時半に出発しました」とのこと。思わず「めっちゃ早いじゃないですか。お疲れさまです」と言ってしまった。町役場、県庁、警察の巡回もあったが、厳戒態勢という空気はなく、ほのぼのとした雰囲気だった。
憧れのスポットで、快適な撮影を昼過ぎまで楽しんだ。「1時間後のやくもまで撮りたい」という欲も出てきたが、後ろ髪を引かれる思いで撤収した。翌日の勤務に向けて、何としても当日中に帰京する必要があったからだ。ネウクロで撮りたかった「1時間後のやくも」を根雨駅で撮影し、岡山方面行きの普通電車に乗った。
その普通電車が新郷駅を出て足立駅に着くと間もなく、同区間に落石があったとして運転がストップした。15分近く止まっていただろうか、「これはまずいな」と思ったら電車が動き出し、予定していた新幹線に乗り継ぐことができた。
伯備線の根雨駅で交換する「新型やくも」273系(左)と381系。新旧交代の儀式に思えた
後で山陽放送のウェブニュースを見ると、その普通電車に乗って巡回していた社員が、線路近くに石を見つけて運転士に伝えたという。社員が現地に向かって石を特定したところ、最大辺のサイズは約50センチとかなり大きかった。
伯備線は一部区間で約2時間にわたって運転を見合わせ、やくものダイヤにも影響があった。もしも欲望に負けてネウクロに残っていたら、その日のうちに東京までたどり着けただろうか。何ごとも腹八分目である。
☆共同通信・寺尾敦史 381系は、カーブで速度を落とさず走れるように車体を傾ける「自然振り子式」を国内で初めて実用化した車両でした。1973年に長野―名古屋間の特急「しなの」に導入、やくもには伯備線が電化された82年に投入されました。
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