討論会惨敗のバイデン米大統領のささやかれる「代替候補」、トランプ氏を圧倒しうる著名人とは 「もしトラ」恐れる民主党で議論巻き起こる
47NEWS / 2024年7月15日 10時30分
11月のアメリカ(米国)大統領選挙で再選を目指す民主党候補のジョー・バイデン大統領が討論会で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領に惨敗し、トランプ氏が大統領に返り咲く「もしトラ」を恐れる民主党の内部では代わりの候補を立てるべきだとの議論が巻き起こっている。政界関係者や現地メディアなどから代替候補として名前が挙がるのは女性初の大統領を目指してきたカマラ・ハリス副大統領にとどまらず、トランプ一族と意外な〝因縁〟がある有力州知事、大手ホテルチェーン創業家の知事ら多士済々だ。そんな中でも、大統領選候補になった場合にはトランプ氏を圧倒できるとの世論調査結果が出た著名人が1人いた―。(共同通信前ワシントン支局次長=大塚圭一郎)
▽3年半の雇用創出は「1万5千人」!?
6月27日夜(日本時間6月28日午前)、アメリカ南部ジョージア州アトランタで開かれた大統領選の候補者討論会。81歳とアメリカ史上最高齢の大統領となっているバイデン氏が入場する足取りは弱々しく、自らの政権の実績を強調する場面で失言を繰り返し、目がうつろで声がかすれ、言いよどむ場面も相次ぐなど失点続きとなった。
新型コロナウイルス禍からの経済回復を背景にアメリカの労働市場は持ち直してきたが、バイデン氏はこれまでの約3年半の自身の政権下で「1万5千人の雇用を創出した」と実際の約1500万人よりも〝過少申告〟する失態を演じた。
また、「メディケア(高齢者向け公的医療保険)を最後には破壊する」と言った後に押し黙ったため、今年3月の一般教書演説で「メディケアを守り、強化する」と強調していた高齢者支援の方向性を180度転換させたかのような失言となった。
敵失に乗じた78歳のトランプ氏は「彼(バイデン氏)は正しい。彼はメディケアをたたきのめし、メディケアを殺し、メディケアを破壊している」と訴え、バイデン政権の失点として印象づけようとする始末だった。
さらに、南部のメキシコ国境を越えてアメリカに入国しようとする移民が急増していると問題視されたバイデン氏は、国境管理を強化すると主張したもののろれつが回らなくなった。
トランプ氏はすかさず「彼(バイデン氏)が発言の最後で何を言ったのかを理解できなかった。彼も自分が何を言っているのか分からなかったと思う」と切り捨てた。
6月27日のアメリカ大統領選の候補者討論会で話すジョー・バイデン大統領=アメリカ南部ジョージア州アトランタ(AP=共同)
▽トランプ氏勝利が67%
CNNテレビが6月27日に有権者に対して実施した世論調査によると、討論会でトランプ氏が優勢だったとの回答が全体の67%を占め、バイデン氏の33%を圧倒した。
討論会での惨敗を受けて民主党は「完全なパニックに陥った」(AP通信)とされる。民主党が大統領選候補を正式に決める8月19~22日の中西部イリノイ州シカゴでの党大会に向け、代わりの候補者を立てるべきだとの声が噴出した。
バイデン氏は党大会で第1回投票に参加する代議員約3900人のほとんどを獲得している。ただ、バイデン氏が身を引いた場合には代議員が誰を支持しても構わないことになり、党大会での投票で過半数の票を獲得した候補が民主党候補に選出されることになる。
有力新聞ニューヨーク・タイムズ(電子版)は6月28日の社説で「バイデン氏が今できる最大の奉仕は、再選を目指さないと表明することだ」と撤退を要求した。
バイデン氏は討論会翌日の6月28日、南部ノースカロライナ州での選挙集会で「大統領職をやり遂げる方法は分かっている」と選挙戦を続ける意向を表明した。
しかしながら、民主党のロイド・ドゲット下院議員が7月2日に「バイデン氏が撤退という痛みを伴い、難しい決断を下すと期待を抱いており、敬意を込めてそうすることを呼びかける」とのコメントを出すなど党内の動揺は収まる気配がない。
CNNが討論会後の6月28~30日に実施した世論調査では、民主党候補がバイデン氏以外になれば民主党の勝率が上がるとの回答が全体の4分の3を占めた。バイデン氏とトランプ氏の対決になった場合にどちらを選ぶかという質問では43%対49%だった。
アメリカのカマラ・ハリス副大統領=2023年11月1日(ロイター=共同)
▽最有力視されるハリス氏の弱点
仮にバイデン氏が撤退を表明した場合、代わりの候補として最有力視されているのが副大統領候補のハリス氏だ。
59歳で検察官出身のハリス氏は、2011年に女性として初めてカリフォルニア州司法長官に就任。連邦議会の上院議員を経て、21年1月にアメリカ初の女性副大統領となった。支持者らはハリス氏が「ガラスの天井」を破り、アメリカ初の女性大統領になることを期待する。
高い知名度に加えての強みは、副大統領候補として選挙戦に挑んでいるため民主党の大統領候補に差し替わっても「ハリス氏が(2024年)5月31日時点で約9120万ドル(1ドル=160円で約146億円)に達した選挙資金の大部分を管理できる」(米NBCテレビ)という点だ。
一方、大統領選で大きな鍵の一つを握る無党派層からの人気がいま一歩なのが弱点だ。ファイブサーティエイトが6月24日に実施した世論調査ではハリス氏の不支持率は49・4%となり、支持率の39・4%を大きく上回った。
私がワシントン支局在任中に無党派層の人から「ハリス氏は副大統領として担当している移民問題で成果を上げられていない」(首都ワシントンに住む男性)、「バイデン氏が大統領を任期途中で退任した場合、ハリス氏が大統領に昇格するのは嫌なのでトランプ氏に投票する」(東部マサチューセッツ州在住の男性)といった手厳しい声を聞いた。
ピート・ブティジェッジ運輸長官(アメリカ運輸省提供、共同)
▽42歳の運輸長官の名前も
政治メディアのポリティコが討論会前の今年5月28~29日に実施した世論調査で2028年大統領選で見込まれる民主党候補を同党支持者に尋ねたところ、ハリス氏(41%)に次いで多かったのがピート・ブティジェッジ運輸長官の15%、続いて西部カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の14%となった。これは28年大統領選に関する質問だったものの、24年大統領選でバイデン氏が撤退した場合の代替候補として名前が挙がっている顔ぶれだ。
42歳のブティジェッジ氏は、南部インディアナ州サウスベンド市長を歴任。2020年大統領選の民主党候補者争いに敗れた後はバイデン氏を支え、同性愛者なのを公言するアメリカで初めての閣僚となった。
2023年2月に中西部オハイオ州で貨物列車が脱線し、積んできた有害物質が流出した事故では現地入りが遅れたと批判を浴びた。だが、「人の話に真摯に耳を傾けるのが長所だ」(政界筋)とされ、今年3月に東部メリーランド州ボルティモアのフランシス・スコット・キー橋に船が衝突し、橋が崩落して6人が亡くなった事故が起きた際には西部ワイオミング、モンタナ両州への出張予定を取りやめて事故対応を最優先した。
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(同州提供、共同)
▽有力候補とトランプ一族の〝因縁〟
アメリカの州として最大の経済規模を誇るカリフォルニア州のニューサム知事は56歳。2004年にカリフォルニア州の主要都市の一つ、サンフランシスコ市の市長に36歳と史上最年少で就任し、カリフォルニア州副知事を経て19年に知事となった。州内で銃乱射事件が相次いだことを踏まえて銃規制強化の取り組みを急ぐなど「リーダーシップがあり、将来の大統領候補になる」(カリフォルニア州に住む男性)と期待されている。
ただ、ニューサム氏はこれまでに、バイデン氏が再選を目指す場合には立候補する意向はないとの姿勢を鮮明にしてきた。討論会後も「一つのパフォーマンスで背を向けることはない」とバイデン氏を擁護し続けている。
そんなニューサム氏には「(大統領)在任中にあらゆる主要な問題でしくじってきた」とこき下ろすトランプ氏の一族との〝因縁〟がある。2006年に離婚した元検察官のキンバリー・ギルフォイルさんは、トランプ氏の長男と20年に婚約している。
ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事=2024年1月24日、ミシガン州(AP=共同)
▽拉致被害未遂にひるまなかった女性知事も
ポリティコが2028年大統領選にふさわしい民主党候補を同党支持者に尋ねた質問で、5%を獲得して4位だったのは中西部ミシガン州の52歳の女性知事、グレッチェン・ウィットマー氏だ。2019年に知事となったウィットマー氏も確固たる信念を持って州政を担っているとの評価を受けており、バイデン氏が撤退した場合の代替候補になるとささやかれている。
新型コロナウイルス感染者が急拡大したため感染拡大防止のために厳格な外出制限を実施したウィットマー氏に反発し、別荘から拉致しようとしたとして民兵組織メンバーら十数人が訴追されたことは社会を震撼させた。
ウィットマー氏はひるむことなく2022年の知事選に挑み、共和党の女性候補に大差を付けて再選された。銃犯罪の抑止に向けて銃規制を強化する州法案を成立に導いた。
ケンタッキー州のアンディ・ビシア知事(同州提供、共同)
▽大手ホテル創業家の知事に期待も
他には南部ケンタッキー州のアンディ・ビシア知事や、トランプ氏を舌鋒鋭く批判している中西部イリノイ州のジェイ・プリツカー知事に期待する声もある。
46歳のビシア氏は、スティーブン・ビシア元ケンタッキー州知事を父に持つ。司法長官を経て2019年に42歳の若さで知事に就き、23年の知事選で再選された。
プリツカー氏は大手ホテルチェーン、ハイアットホテルズアンドリゾーツの創業家の59歳。短文投稿サイトでトランプ氏のことを「(ウクライナに侵攻したロシア大統領の)ウラジーミル・プーチン氏の友人というだけではない。プーチン氏になりたいのだ」と指摘し、トランプ氏が大統領に返り咲けば独裁的な政権運営をすると警鐘を鳴らす。
イリノイ州のジェイ・プリツカー知事=2023年6月28日、イリノイ州シカゴ(AP=共同)
▽トランプ氏を圧倒の著名人とは…
しかし、ロイター通信とイプソスが7月1~2日に有権者に対してトランプ氏と対決した場合にどちらかを選ぶかを尋ねた世論調査ではハリス氏、ニューサム氏、ウィットマー氏、ビシア氏、プリツカー氏のいずれもトランプ氏を下回る支持しか得られなかった。
これに対して大統領選候補になった場合には50%が支持すると回答し、トランプ氏の39%を圧倒した著名人がいるのが目を引く。バラク・オバマ元大統領夫人で、60歳のミシェル・オバマ氏だ。
元ファーストレディーのミシェル・オバマ氏=2018年11月12日、イリノイ州シカゴ(ロイター=共同)
▽事務所は「立候補はしない」と明言
苦学をしながら弁護士となり、黒人初のファーストレディーとなったミシェル氏は2018年出版の自伝がベストセラーになるなど「バラク氏をしのぐ人気がある」との呼び声も。会ったことがある東部コネティカット州在住の黒人女性は「言葉に説得力があり、とても魅力的な人だった」と振り返る。
ミシェル氏の事務所は「ミシェル氏は大統領選に立候補はしない」と明言し、バイデン氏の再選に向けた選挙戦を「支援する」と強調している。
だが、前提となるバイデン氏が大統領選から撤退し、「もしトラ」を食い止める切り札として待望論が広がった場合には翻意の可能性も残されているのかどうか。首都ワシントンのホワイトハウスの次の〝主〟が誰になるのか、アメリカのみならず同盟国の日本を含めた世界中がかたずをのんで行方を見守っている。
首都ワシントンのホワイトハウス=2024年4月5日(共同)
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