開業50周年を迎えた小田急多摩線を、地元の「撮り鉄」目線でご紹介
47NEWS / 2024年7月26日 11時0分
【汐留鉄道倶楽部】川崎市麻生区の新百合ケ丘から、東京都の多摩ニュータウンを結ぶ小田急多摩線が6月1日に開業50周年を迎えた。最初は五月台、栗平、黒川を経てニュータウンの玄関口、小田急永山までが開通、翌1975年4月に小田急多摩センター、90年3月に唐木田まで延伸されて現在の10・6キロの路線となった。節目の年ということで、ユーザー歴19年で「撮り鉄」の筆者にとっての〝ホームグラウンド〟を撮影ポイント中心に紹介させていただこう。
新百合ケ丘を出ると、列車は高度を上げながら右にカーブして本線(小田原線)と別れ、五月台着。丘陵地帯を走る多摩線は高架区間やトンネルが多く、撮影場所はおのずと限られるが、五月台~栗平~黒川間は線路に沿って道路があり、周囲は住宅地ながら開放感がある。
新百合ケ丘を発車し、五月台に向けて出発した9000形。多摩線開業初日の記念列車に起用された。ユニークな顔立ちは「ガイコツ」とも呼ばれ、筆者も好きな電車だった。06年に引退した=05年8月
大リーグで活躍する松井裕樹、サッカー元日本代表の中村俊輔らの出身校、桐光学園高の生徒が利用し、サッカーJ1の川崎フロンターレの練習場からも近い栗平駅は、イベント列車や試運転列車の走行時、ホームの先端に「撮り鉄」が集まる。黒川側から来る列車を撮るには好都合だが、ホームは狭い。黒川へ向かって少し歩くとカーブしてくる列車を気持ちよく撮影できる場所があり、秋は「とんびいけ公園」の紅葉がアクセントになる。こちらがお勧めだ。
公園の少し先にある小学校近くの階段を上ると、広大な畑地(黒川東営農団地)に出る。サツマイモの収穫体験もできる畑の向こう側に、京王相模原線の若葉台駅付近が見える。この先、相模原線との距離はどんどん縮まっていく。
多摩線といえば「多摩急行」を思い浮かべる方もいるだろう。写真の広告のように、乗り換えなしで表参道方面へ行けるのが売りだった。ところが、18年の複々線完成に伴うダイヤ改正で多摩線の急行はすべて新宿行きに変更された。複々線のメリットで列車が増発された中、千代田線直通に慣れ親しんだ多摩線ユーザー(筆者もその1人)は、夕方ラッシュ時の遅れがちな千代田線との乗り換えに日々うんざりしている=06年5月
駅前に読売日本交響楽団(読響)の練習場があり、ホームの列車接近メロディーにクラシックを使用している黒川駅から、短いトンネルを抜けるとすぐに「はるひ野」着。2004年12月に開業した小田急で一番新しい駅だ。駅から次のトンネルまでの直線区間では、森をバックにオーソドックスな写真が撮れる。
唐木田からJR東日本・常磐線の取手まで足を伸ばしていた多摩急行。写真は五月台~栗平間で撮影した東京メトロ(営団地下鉄)6000系の我孫子行き。18年に引退したが、一部はインドネシアで活躍している=10年7月
トンネルを抜けると、よく紹介される撮影地がある。その名は「電車見橋」。通称ではなく正式名称だ。多摩線と京王相模原線が並走する形になるため、橋の両サイドから下を通る小田急、京王の電車を同時に俯瞰(ふかん)撮影できる。駅から歩くと遠いが、多摩東公園の駐車場からはすぐなので、車で行くのも手だ。
多摩線にもロマンスカーが走っていた時代があった。写真は唐木田駅に到着した千代田線からの「メトロホームウェイ」60000形MSE=09年7月
橋から降りて線路脇の道路から双方の電車の「顔」をそろえて撮ろうとすると、難易度はぐっと上がる。今回の原稿を書くにあたり、地元の利を生かして本数の多い午前7時台や夕方も含めて計4日間(各1時間ずつ)チャレンジしたが、イメージ通りの写真は撮れなかった。
多摩線、相模原線は並走しながら再びトンネルへ。抜けると永山駅に到着。次の多摩センターともども、駅名にはそれぞれの会社名を冠している。壁を隔てて互いの様子は見えない。永山を出ると、次の多摩センターまでが、本格的な並走区間だ。ほとんどが高架で、ちょうど中間地点あたりに両線をまたぐ歩道橋があるが、「電車見橋」とは違って目張りがされていて線路は見えなかった。
電車見橋から、左が小田急線。右が京王線の電車。先のトンネルまで数百メートルの間で、両方の電車を絡めて撮影するチャンスは比較的多い=24年6月
「撮り鉄」には残念な区間も、「乗り鉄」は楽しめる。筆者が乗車した相模原線の電車が、ほぼ同時に小田急永山を発車した多摩線の電車との〝デッドヒート〟となり、途中から京王がぐんぐん引き離したと思ったら、多摩センターに近づくと京王が先に減速し、小田急が鮮やかに〝差し切った〟ことがあった。
京王が先にスピードを落としたのは、駅の構造に関係がありそうだ。乗り合わせたのは都営新宿線から直通する多摩センター止まりの区間急行。2面4線の外側の1番線(待避線)に入線する際、ホーム手前のポイントで進路を変える必要があったため早めに減速したのだろう。多摩線のホームも2面4線に見えるが、かつて使用されていた外側の待避線は、現在本線と接続していない。ポイントは撤去され、ホーム脇に分断されて残った錆(さ)びた線路が寂しげだ。
電車見橋(写真後方)をバックに線路際から撮影。4本の線路の内側同士ですれ違うと両方の「顔」がもっと近づくはずだったが、この写真は外側同士が並んだもの。トリミングして、何とかそれっぽくなった唯一の1枚=24年7月
ともに多摩ニュータウンと新宿を結ぶ小田急と京王は「ライバル」視される。ただ、京王相模原線が10両編成で新宿か都営新宿線の本八幡まで直通するのに対し、小田急は本数が少ないうえに半分程度が多摩線内で折り返す6両編成の各駅停車。運賃も京王の方が少し安い。朝のラッシュ時には小田急が多摩センター始発の「通勤急行」を設定、速くて座れる点をアピールして健闘しているが、永山、多摩センターとも1日の乗降人員で京王に水をあけられている。
話がそれてしまったが、多摩センターはニュータウンの中心地であるとともに、多摩線唯一(?)の観光地、サンリオピューロランドの最寄り駅で、商業施設も充実している。沿線に大学が多い多摩モノレールの始発駅でもあり、ホームからは小田急、京王の電車と、その上を走るモノレールを絡めて撮影できる。
唐木田の車両基地で、壁際(その上は清掃工場)のちょっと盛り上がったところにあるのが4、5番線。「撮影会でもここまで立ち入れるのは初めて」とのことだったので、貴重なカットかもしれない=24年6月
さて、この先は相模原市の橋本駅へ向かう京王線と別れ、多摩線は終着駅の唐木田へ。広々としたホームの先には、巨大な車両基地(喜多見検車区唐木田出張所)がある。小田急が6月2日に企画した「多摩線開業50周年記念ツアー」で、筆者も初めて敷地内に入った。ずらりと並んだ車両を撮影しながら、担当者の案内で最も奥まったところへ。留置線は21番線から33番線まで番号が付いているが、唐木田駅からまっすぐにつながっている壁際の2本の線路は「本線と同じ扱い」とのこと。唐木田のホームは1~3番線、その先の車両基地内の当該線路は4、5番線となっていて、留置線より少し高い位置にある。担当者は「将来的に何がしたかったか、想像できる造り」と説明した。
多摩線には、唐木田から町田市内を経由してJR横浜線の相模原、さらにJR相模線の上溝まで延伸する計画がある。計画そのものは具体的だが、採算性以外にもリニア中央新幹線や米軍基地も絡むさまざまな問題があり、実現に大きく動き出す気配は感じられない。4、5番線の先の壁にトンネルが掘られ、線路が延びる日は来るだろうか。ほんの少しだけ期待しながら、気長に待とうと思う。
小田急多摩線位置図
☆共同通信・藤戸浩一 今回は多摩線の「歴史」についてはほとんど触れられなかったが、多摩センター駅から徒歩約5分のパルテノン多摩で「鉄道が街にやって来た~多摩ニュータウン鉄道開通50周年~」の企画展を開催中だ。永山まではまず小田急が開通したが、京王はその4カ月後に京王よみうりランドから一気に多摩センターまで「先着」した。ニュータウンと鉄道の歩みがわかりやすく展示されているだけでなく、ゆかりのある小田急、京王の歴代車両をパネルと模型で紹介。活躍したと思う形式を投票する「総選挙」も実施され、鉄道ファンにも楽しめる内容だ。多摩線の訪問がてら、足を運んでほしい。入場無料で11月10日まで。
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