「超少子化」の韓国、運動部のある学校が10年間で3割近く減った パリ五輪選手団は1976年以降で最小、スポーツ弱体化が憂慮される現場で何が
47NEWS / 2024年7月29日 10時0分
7月26日開幕のパリ五輪に韓国が派遣する選手団が、1976年のモントリオール大会後で最小規模となった。サッカーなど団体競技で出場権を逃したことが直接の理由で、人数が少なくても好成績となる可能性はあるが、韓国内ではスポーツの弱体化への憂慮が出ている。世界最低水準の「超少子化」で、スポーツをする子どもの絶対数が減り、小・中・高校の運動部は10年間で3割近くなくなった。スポーツをする環境にどんな変化が起きているのか。(共同通信ソウル支局 富樫顕大)
※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。
▽球技ほぼ全滅
4月、サッカー男子のパリ五輪アジア最終予選で韓国はインドネシアに敗れ、五輪連続出場が9回で途切れた。サッカーが人気競技であるだけに、韓国メディアは「韓国スポーツの危機」などと深刻さを訴えた。
パリ五輪の予選を兼ねたサッカー男子のU―23アジア・カップでインドネシアに敗れ、肩を落とす韓国の選手ら=4月25日、ドーハ(韓国サッカー協会提供・聯合=共同)
だが、団体球技はサッカー以外もほぼ全滅だ。パリ五輪に出場権を獲得したのは、ハンドボール女子だけ。全競技を通じての出場者は、最近の200~300人台を大きく下回る140人台となった。日本が今回、海外開催で最多の400人超となるのとは対照的だ。
開幕前から、伝統的に強さを誇るアーチェリー以外に、競泳の黄宣優(21)、金禹旻(22)、バドミントンの安洗塋(22)、卓球の申裕斌(20)などに金メダルの期待がかけられた。それでも、大韓体育会が掲げる金メダルの目標数は、2021年の東京大会の6個より少ない「5個」。2008年北京大会と2012年ロンドン大会で金メダル13個を獲得した後、下り坂が続いている。
韓国・鎮川の国家代表選手村で練習する競泳の黄宣優(右)と金禹旻=6月18日(聯合=共同)
▽才能より意志
韓国は昨年、女性1人が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が、0・72と過去最低を更新した。日本の1・26(2022年)と比べても著しく低い。
韓国は一部の小・中・高校に、それぞれ少数の運動部があり、エリート選手を養成してきた。しかし、少子化が進む中、運動部を有する学校は、2012年の5281校から2022年の3890校に約26%減った。
ソウル近郊の中学のテコンドー部コーチ、朴昌順さん(47)は「昔は才能がある選手を選抜したが、今はやりたいという意志が重要だ」と語る。約15年、中学生を指導しているが「客観的に評価するならば、以前の子どもたちの方が運動能力があった」と打ち明けた。
ソウル近郊の中学のテコンドー部で指導するコーチの朴昌順さん(左から2人目)=6月19日(撮影・金民熙、共同)
朴さんは「時代が変わり、子どもがけがをしないよう親が願い、格闘技をする子が減った」とも指摘する。韓国がかつて強かった柔道やテコンドー、レスリングは2021年の東京五輪で金メダルが一つもなかった。パリ大会では、柔道女子に在日コリアンの金知秀(23)=兵庫県姫路市出身=と許海実(21)=東京都江戸川区出身=が出場する。金メダルを取れば韓国の柔道女子としては28年ぶりとなる。
韓国・鎮川の国家代表選手村でポーズをとる(左から)柔道の金知秀選手、安昌林コーチ、許海実選手。安コーチも在日コリアンで、21年東京大会で銅メダルを獲得後、引退した=6月13日(撮影・金民熙、共同)
▽スポーツも“塾通い”
スポーツの費用も問題だ。ソウルの田銀姫さん(55)は、中学生の息子のバスケットボール部に月60万ウォン(約7万円)以上がかかった。建設労働の夫と、スーパーでアルバイトをする自身の収入では、捻出の負担は大きい。学校によって違いもあるというが、大会ごとに保護者が遠方まで送迎して応援したり、練習に差し入れをしたりするのも、金銭面や時間の負担が大きく、息子に「やめてくれたら助かる」と途中で断念させたという。
バスケットボールをしていた息子の写真を見せる田銀姫さん=6月18日、ソウル(共同)
韓国は受験競争が熾烈だ。統計庁の調査によると、2023年では小中高生の78・5%が習い事をしている。このうち高校生1人当たりの出費は月平均で74万ウォン、中学生59万6千ウォン、小学生は46万2千ウォンだった。
ソウルの塾が密集する地区を歩く高校生ら=2023年6月26日(撮影・金民熙、共同)
こうした“塾通い”は学業だけではない。エリート選手を養成する運動部に所属する生徒が、学校以外に個別レッスンやスクールにも月謝を払って通うことが広がっている。スポーツ心理学が専門の釜慶大の宋龍官副教授(44)は「野球などでは毎月数百万ウォンかかるのではないか。今は親の経済的な地位があってこそ、子どもが野球、ゴルフ、サッカーをできる」と話した。
▽「文武両道」への賛否
以前、運動部の生徒は、午前だけ授業に出るなど、一般の生徒が授業を受ける時間も練習することが一般的だった。しかし2011年から「将来のため学習権も保障しなければいけない」として、一定の成績を取らなければ大会参加を制限する「最低学歴制」が導入された。
「最低学歴制」に関する討論会で発言する、卓球アテネ五輪金メダリストの柳承敏さん=6月10日、ソウル近郊(共同)
けがなどで途中で挫折したり、プロにはなれなかったりした場合に備えるという趣旨には、養成現場に共感もある。一方で「勉強が苦手でもスポーツが得意な子どもも認めるべきだ」との批判や「練習が減り実力が低下した」との見方も多い。卓球の2004年アテネ大会金メダリスト、柳承敏さん(41)は、子どもらが「国家代表の夢を追うためではない別のこと(勉強)に時間を割いている」と訴えている。
取材に応じる韓国・釜慶大の宋龍官副教授=6月21日、釜山(共同)
一方、釜慶大の宋副教授は「科学的には、運動時間が減って競技力が落ちるというわけではない」との見解を示す。エリート養成以外の子どもらがあまりスポーツをしていないのが問題だとして「長期的に選手育成には底辺の拡大が必要だ」と話した。
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