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証券業界大手、畑違いのパプリカを大量生産 大和証券グループ本社、農業の「負のスパイラル」打破に挑む

47NEWS / 2024年8月16日 10時0分

「スマートアグリカルチャー磐田」のビニールハウスで生産されているパプリカ=2024年5月24日、静岡県磐田市

 生き馬の目を抜く証券業界の大手企業、大和証券グループ本社が大量生産に乗り出したのが、野菜のパプリカだ。低収益とされてきた第一次産業の農業に将来性を見いだし、得意とする投資とコンサルティングの事業の有力な対象になると位置付けている。農業は高齢化や作業の負荷から従事者が減り、耕作放棄地の広がりで生産性が低下し、収入も伸びず魅力の低迷で担い手がさらに減少してしまう「負のスパイラル」に直面している。大和証券グループは自ら野菜を栽培し、農業生産のノウハウをつかむことでこれを打破しようと挑戦する。(共同通信=徳光まり)

 ▽みずみずしいパプリカ

 静岡県磐田市の3ヘクタールの敷地に、「パプリカハウス」と名付けた高さ6メートルのビニールハウスがいくつも並ぶ。

 大和証券グループ本社の傘下企業、大和フード&アグリ(東京)がオランダの最先端のスマート農業技術を導入し、運営を統括している。人の背丈を上回る高さの枝から鮮やかな赤や黄色のパプリカが実を付けていた。

 冬から夏にかけて収穫するパプリカはぷっくりと膨らんでつやがあり、みずみずしい。栽培している高糖度の品種のパプリカとしては、国内最大級の生産量だという。


収穫したパプリカを持つ「大和フード&アグリ」の久枝和昇社長=2024年5月24日、静岡県磐田市

 ▽大和系とはあまり知られず

 生産の実務を切り盛りするのは大和フード&アグリの子会社、スマートアグリカルチャー磐田(静岡県磐田市)だ。約60人の雇用を抱える。

 栽培する作物にパプリカを選んだのは、天候に左右されにくいビニールハウスで生産できる園芸作物で、国内の競合相手が比較的少なく、さまざまな料理で使いやすいためだという。

 子会社の社名や商品名には「大和」の名前が付いておらず、事業の音頭を取っているのが大和証券グループであることは地元であまり知られていないという。


「スマートアグリカルチャー磐田」の生産設備。ビニールハウスは広大な敷地に林立する=2024年5月24日、静岡県磐田市

 ▽生産設備を「農業ファンド」に

 大和証券が主力とする証券業務は株式や債券、投資信託などの有価証券の引き受けと募集、売買などで、一見するとパプリカ栽培とは関連がないように見える。

 しかし、金融業界ではオフィスビルや物流施設、太陽光発電設備などの運営に携わる不動産投資信託や、インフラファンドが広がっている。こうした仕組みが、パプリカなどの野菜の生産設備にも応用できると大和証券グループはみている。

 ファンドは、個人を含めた投資家から集めた資金の受け皿だ。投資家は効率的な資産運用を狙ってお金を出し、出資に応じたリターンを得られる。

 オフィスビルのファンドならば賃料の一部が出資者に還元される。太陽光ならば売電収入が取り分になる。

 このようなファンドの仕組みを農業の生産設備にも採用すれば、野菜生産に伴う収益の一部を投資家に配分できるようになると想定している。

 さらに、「農業ファンド」を通じた投資によって新規案件の開発や、異業種参入が進むと期待を込める。


「スマートアグリカルチャー磐田」の大規模なビニールハウスの内部=2024年5月24日、静岡県磐田市

 ▽農業と金融の掛け合わせ

 大和フード&アグリの久枝和昇社長は、このような農業と金融の掛け合わせは「日本で成長する市場だ」と力を込める。

 大和フード&アグリは今年4月に「北海道サラダパプリカ」(北海道釧路市)への出資を発表。冷涼な気候のパプリカ生産地を確保した。

 静岡県磐田市の生産設備とともに稼働させることで、通年での安定供給が見通せる。こうした動きも、将来的な大和証券グループの農業ファンド事業を見据えた布石だとみられる。


「スマートアグリカルチャー磐田」で生産されるパプリカ。ビニールハウスの高さは6メートルに及ぶ=2024年5月24日、静岡県磐田市

 ▽コンサルティング業務も展開

 もう一つの大きな狙いは、農作物生産や食の分野のコンサルティング業務だ。 近年の物価高により、農業も肥料や農薬の価格や光熱費の上昇による打撃を受けている。

 ただ、静岡県磐田市でのパプリカ生産ではコスト削減などにより、大和証券グループが経営に本格的に加わった2021年以降に黒字経営を続けている。

 大和フード&アグリはパプリカを作ることで培ったノウハウを基に、農業への新規参入を目指す企業に助言するコンサルティング業務を2023年6月に開始。久枝社長を含む4人が相談に乗っている。

 その中の1人、藤田葵さんは「生産候補地選びや事業構想などの初期段階の相談も多い」と説明する。他の業務には設備の設計や、技術面でパートナーとなり得る企業の選定、人材募集や補助金の取得、販路開拓や自治体との交渉への同席も含まれる。


大和証券グループ本社が入るビル=2019年5月7日、東京都千代田区

 ▽大企業向けが中心

 これまでに手がけたコンサルティング業務は大企業向けが中心だ。大和フード&アグリの久枝社長は「資金を自社で用意できる大企業に助言し、参入は自らのお金で挑戦してもらっている」と説明する。

 農業は現状では、個人事業主が担い手の中心となっている。企業が組織だって大規模に展開している事例は限られており、ファンドを立ち上げられるほどのダイナミックな投資対象は少ないのが実情だ。


パプリカの商品を説明する「大和フード&アグリ」の久枝和昇社長=2024年4月18日、東京都千代田区

 ▽個人がパプリカ生産設備に投資も

 大和フード&アグリの久枝社長は「コンサルティングを通じて事業者を育て、大和が農業ファンドを持つことも視野に入れたい」と語り、自社のパプリカの生産設備もファンドの投資対象にすることを視野に入れる。

 大和証券グループが農作物生産の当事者として思い描く未来は、大規模な事業者による効率的な農業だ。収益が上がり、就農者が増え、日本の大きな課題である食料安全保障の強化につながると期待する。

 個人投資家にとっては株式や債券などの有価証券に加え、農業ファンドも投資対象としてより一般的に検討されるようになる日もそう遠い先ではないのかもしれない。

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