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ロシアが核戦略見直し決定、使用の歯止め外れることに懸念 その背景は、対ウクライナで核攻撃の可能性は?

47NEWS / 2024年8月14日 10時0分

6月7日、ロシア・サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラム全体会合に出席した同国のプーチン大統領。ロスコングレス提供(ゲッティ=共同)

 米国などがウクライナに対しクリミアなどへの米供与兵器攻撃を認めたことを受け、ロシアが態度を硬化。核兵器使用の原則を定めた軍事ドクトリンの見直しの動きを強めている。核使用の歯止めを外すことにつながる動きに懸念が高まるが、その背景などについてロシアの安保問題に詳しい畔蒜泰助(あびる・たいすけ)笹川平和財団上席研究員に聞いた。(共同通信=太田清)

 ―ロシアの軍事ドクトリンは現在、核などの大量破壊兵器で攻撃された事態のほか、たとえ他国による通常兵器による攻撃であれロシアが「国家存続の危機」に立たされた場合、核攻撃を行う権利があると規定しているが、その見直しを巡る動きがあると伝えられている。


モスクワの「赤の広場」で行われた対ドイツ戦勝記念日の軍事パレードで姿を見せたロシア軍の弾道ミサイル「イスカンデル」=5月9日(ロシア大統領府提供・タス=共同)


 「プーチン・ロシア大統領は昨年10月、(南部ソチで開かれた国際討論フォーラム)ワルダイ会議でドクトリン見直しの必要性について聞かれ『その必要はない』と答えていた。しかし、今年6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは『今は必要ではないものの、状況が変われば、(見直しの)可能性は否定しない』と立場を変えている」

 「その後、(核不拡散・軍備管理を担当する)リャプコフ外務次官が見直しの可能性に触れ、ペスコフ大統領報道官は見直しのプロセスを始めたと公式に認めた」


セルゲイ・カラガノフ氏=2022年5月(タス=共同)

 「さらに、プーチン氏が発言した国際経済フォーラムのセッションは、セルゲイ・カラガノフ氏という政治学者が司会したが、彼は1年前に『核先制使用』の必要性を唱える論文を発表し大きな波紋を呼んでいた。同氏が司会に立ったこと自体が、ロシアが欧米に送ったシグナルとも言える」

 ―なぜ今、見直しの動きが出てきたのか。

 「ロシアは、欧米がウクライナ支援を強化し、供与兵器によるクリミアなどへの攻撃を容認する姿勢を示していることを軍事的エスカレーションとみなしている。核のドクトリン見直しは、核使用の条件を柔軟化する姿勢を見せることで、こうしたエスカレーションに対抗する狙いがある」

 「ロシアがすぐに核兵器使用の準備をしているとは思わないが、欧米のエスカレーションをロシアとして適切に『管理』していきたいという意向があるのは間違いがない」

 ―ロシアは一方で、停戦交渉の用意があると繰り返し強調している。2022年2月に始まり、トルコのイスタンブールなどで行われたロシアとウクライナによる停戦交渉を経て、双方が基本合意したとされる「イスタンブール・コミュニケ」を土台にした交渉を主張している。

 「米誌フォーリン・アフェアーズは4月に、『戦争を終わらせたかもしれない交渉』との記事を掲載した。それによると、『イスタンブール・コミュニケ』はウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を放棄し永世中立国となることと引き換えに、国連安保理の5常任理事国やドイツ、トルコなどの関係国がウクライナの安全保障を提供するとの内容が骨子となっており、ロシアとウクライナはある時点で、ほぼ合意に達していたという」


2022年3月29日、トルコのイスタンブールで対面形式の停戦交渉を再開したロシア(右側)とウクライナの交渉団(タス=共同)

 「最終的に交渉は決裂した。同誌はその原因について、よく引き合いに出されるウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでの虐殺でウクライナ側が態度を硬化させたというものではないと指摘。ウクライナが事前に欧米に打診しないまま交渉を進め、安全保障提供などについて米国などの理解が得られなかったことに加え、米国もウクライナへの軍事支援を優先すべきと判断、ウクライナも支援があればロシアに勝利できると考え、交渉離脱を決めたというのが真の理由だとしている」

 「プーチン大統領は『イスタンブール・コミュニケ』を土台に交渉できるとしながら、『現在の現実を見据えるべきだ』とも強調している。現時点でロシアが優勢にある戦況を踏まえるよう求める発言で、要求のハードルを高めてくることが予想される」

 「交渉が始まったとしても、NATO加盟問題で難航することが予想されるほか、領土という厄介な問題を解決しなければならない。『イスタンブール・コミュニケ』ではクリミアの帰属について10~15年かけて解決するとする一方、ウクライナ東部・南部のロシア占領地については双方の首脳会議で決着を図るとして、触れていない。領土について双方の主張には大きな隔たりがあり、その解決は容易なものではない」

  ― * ― * ―

 畔蒜泰助氏 69年生まれ。早稲田大政治経済学部卒業、モスクワ国立国際関係大修士課程修了。東京財団研究員、国際協力銀行モスクワ事務所上席駐在員を経て現職。


7月19日、都内でインタビューに答える畔蒜泰助氏(共同)

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