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為替介入は国を守る戦い「必要があれば制限なくやる」 通貨政策を指揮する神田財務官にインタビュー

47NEWS / 2024年8月5日 10時30分

インタビューに答える財務省の神田真人財務官=7月、財務省

 円相場は4月、一時1ドル=160円台を付け34年ぶりの円安水準となった。政府・日銀は過度な円安ドル高を食い止めるため、為替介入に踏み切った。一方、介入の効果は一時的で限界もあるとの見方は根強い。
 為替介入を指揮するキーパーソンが財務省の財務官だ。7月末で退任した神田真人財務官が在任中に共同通信のインタビューに応じ、介入の考え方や、財務官として関わってきた国際会議の舞台裏を明かした。(共同通信=野沢拓矢、飯田裕太)

 ―歴史的な円安ドル高水準となっています。背景をどう考えますか。
 「為替の背景は森羅万象で、これで決まるというのはありません。今のマーケットでは日米の金利差とか金融政策の動向とよく言われています。投資家のリスク許容度も重要ですし、統計で言えば、金融政策の考慮要因にもなる物価動向や雇用環境もあるし、国際収支なども関係あるでしょう。ただ今の相場はこういった要素で説明できず、一番大きな要因というのは、やはり僕は投機だと思っています」

 ―国民生活にどんな影響がありますか。
 「一般論として、円安だったら輸出や海外展開企業の収益がよくなりますね。ただ他方で輸入価格が上昇すると企業や消費者には負担になります。今は、やはり急激な円安が輸入価格の上昇を通じて、国民生活あるいは事業活動の負担増になるというマイナス面の影響がずっと大きく、懸念を持っています。ゆっくりであれば適応していけるけども、急に変わると家計や企業は対応できません。ですから投機による過度な変動があれば、私としては適切に対応していくしかないのです」

 ―今年4月から5月には計9兆円を超える規模の為替介入を実施しました。
 「変動相場制なので為替レートは市場で決定されるのは大原則です。ただこの期間はまさに投機的な動きを背景として、過度な変動が見られました。従って為替介入に踏み切りました。その行動によって過度の変動をかなり抑制することができました。有効であったと考えています」

 ―その後2カ月ほどで円相場は介入前の水準に戻りました。一時的な効果しかないのではないですか。
 「為替介入の意義は、過度な変動に対して安定を図るというのが目的でありますから、特定の水準を維持することを目的にしたことは1回もありません」


 ▽国際合意を順守、各国から批判はない
 ―過度な変動について、財務官は「経済のファンダメンタルズを逸脱した値動き」といった表現をしています。何を意味しているのですか。
 「ファンダメンタルズは経済の状態を表す、基礎的条件のことであって、いろいろなものがあります。例えば金融政策、金利、国際収支、物価動向、要するに経済の状態全体ですね。為替相場はこういった経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要ですけれども、投機的な動きを背景にファンダメンタルズでは説明できない過度な変動が生じる場合があります。そうなると、企業、家計に悪影響を及ぼす。従って政府として適切な対応を取ることが求められるわけです」

 ―為替介入は相手国の通貨の価値にも影響します。理解は得られているのでしょうか。
 「私は、為替や金融政策に限らず、米国を含めて各国とは本当に毎日のように話し合っています。各国当局とは極めて緊密に意思疎通しており、国際合意も順守しているので、各国からの批判は出ていません。これからもしっかりと緊密な連携を続けていきたいと思っています」

 ―円買いの為替介入では市場で外貨を売ります。原資となる日本の外貨準備は約200兆円です。限界があるのではないでしょうか。
 「外貨準備が介入原資の基本であることは事実ですけれども、必ずしもそれに限られるものではありません。他に何があるのかというのは申しませんが、今後も必要な対応をとる上で原資に限界があると認識したことはあまりありませんし、そもそも200兆円を使うような事態は全く想定していません」

 ―為替介入の回数や頻度に制限はないということですか。
 「必要があればやるしかないですよね。投機ですごく変動があったら、それはもう戦いですから国を守る。それはもう制限はないです」


円相場について取材に応じる神田真人財務官(右端)=4月、財務省

 ▽国際協調の分野で日本への期待は高い
 財務官は為替政策の場面でメディアに登場することが多いが、財務省に関連する国際業務全体を総括する。近年は、ロシアによるウクライナ侵攻や気候変動問題、国際租税など各国との協調が欠かせないテーマが増えている。昨年は日本が先進7カ国(G7)と東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3の議長を務めた。

 ―海外の政府高官とはどのようにコミュニケーションをとっていますか。
 「コロナ禍を経てオンライン会議が激増しました。もちろん対面の会議も復活しています。確認してもらったら、財務官になって60回以上も海外出張をしていました。幸いなことにカウンターパートの政府高官や国際機関のトップの人たちは数十年来の友人が多いのです。何か困ったら電話、メールなどいろんな手段で気軽に相談しています。もちろん内容によっては機密保持のため特別なルートを使います」

 ―世界情勢の不透明感が高まっています。日本が果たすべき役割は。
 「気候変動や途上国債務の問題などはG7だけでは解決できません。多くの国々を巻き込んで世界規模で協調した取り組みが必須なものばかりです。世界経済が直面する課題の議論に日本が積極的に貢献していくことは極めて重要で、各国からもわれわれに対する期待は高いです」

 ―日本への期待が高いのはなぜですか。
 「それは汗をかいているからです。一生懸命に提案をして非常に複雑な利害調整をし、成果に結び付けています。また米国、EU、中国でもない、日本の独特な立ち位置に期待をする国々は多い。ある意味中立的な日本に対しての期待があるんだと思います」


日中韓とASEAN会議であいさつする神田真人財務官(前列右から2人目)=2023年12月、金沢市

 ▽経済力に比べ、かなり背伸びをした交渉
 ―日本は先進国としての立場が弱まっているとの声もあります。交渉の場で感じますか。「それは本当に大変です。この数十年、新興国が急速に成長した一方で、日本経済はずっと成長しませんでした。日本の存在感というのは経済的には激減したと言ってもいい。正直言うと、経済力から見ればかなり背伸びをして、気合と努力でやっていると感じることはあります。しかしさきほど申し上げた通り、いろいろな国際フォーラムにおける日本への期待、具体的な貢献はむしろ大きくなっていると感じていますし、それは続けていかなければいけないと思います」

 ―ウクライナ支援に関連して、6月にイタリアで開かれたG7サミットでロシアの凍結資産を活用した新たな支援で合意しました。日本はどのような形で支援に加わりますか。
 「文字通り毎晩会議をしています。日本は融資を巡る諸条件が整えばウクライナに融資を行う考えです。交渉に差し支えがあるので具体的なことは申し上げられません。だんだんと論点は煮詰まっています」


G20財務相・中央銀行総裁会議の初日討議を終え、取材に応じる財務省の神田真人財務官=7月25日、ブラジル・リオデジャネイロ(共同)

 ―神田さんは2021年から3年間、財務官を務め、7月末で退任します。最も印象に残っている仕事は何ですか。
 「新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵略などこれまで経験したことがないような激動の国際情勢でした。一つの仕事に絞るのは難しい。G7議長国として議論をリードしたウクライナ支援、対ロシア制裁、国際金融機関改革。クリーンエネルギー関連製品のサプライチェーン(供給網)において、低中所得国がより大きな役割を果たせるように協力するパートナーシップの「RISE(ライズ)」の立ち上げもありました。経済安全保障はけんかばかりになってしまいがちなのですが、ウィンウィンのことをやれたのは良かったなと思っています」

 「本当に困難な問題が山積しています。より良い世界を実現できるチャンスだと考えて、これからも頑張りますし、私の素晴らしい仲間たちも引き継いでくれると思っています」


インタビューに答える財務省の神田真人財務官=7月、財務省

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