「難病の客からは1人90万円を」過剰な訪問看護、背後にいた人物とは 福祉ビジネス、違法な助言をするコンサルも
47NEWS / 2024年8月23日 10時0分
ホスピス型の有料老人ホームや精神障害者を対象にした訪問看護を巡り、運営事業者による不正、過剰とみられる診療報酬の請求が相次いで明らかになっている。一部では、介護・福祉を専門にした経営コンサルタントが関わっていた。取材で内部資料を入手すると、そこには「いかに稼ぐか」という視点からの生々しい手法が並ぶ。コンサルによっては、法令違反となる診療報酬の請求まで助言。私たちの税金や保険料が無駄に使われていることが分かる。こうしたコンサルは近年増えているとみられるが、実態が明らかになるのはまれだ。直撃取材にコンサルたちが語ったことは―。(共同通信=市川亨)
▽「別表7、8」がカギ
今回、コンサルから過剰な診療報酬請求のアドバイスを受けていたことが分かったのは、大阪市の「アプリシェイトグループ」。千葉、京都、大阪3府県で有料老人ホームや訪問看護などを運営している。
有料老人ホーム「アプリシェイト東淀川」=4月、大阪市
老人ホームの一つ「アプリシェイト東淀川」(大阪市)では、難病や末期がんの入居者を対象に、必要以上に訪問看護を提供していたことが社内のLINE(ライン)や看護師らの証言で分かっている。
同社と契約を結びコンサルとして助言していたのは、高知市にある有限会社「ナースケア」の和田博隆社長。和田氏は看護師資格を持ち、自身でも高知市で有料老人ホームや訪問看護ステーションなどを経営している。
和田氏の助言内容を記したアプリシェイトの社内文書には、次のような一文があった。
「別表7の顧客からは1人当たり90万をあげないといけない」
これはどういうことか。「別表7」というのは、医療保険を使った訪問看護で厚生労働省が定めた20の疾患の一覧表を指す。末期がんやパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病が挙げられている。
もう一つ、気管切開や重度の褥瘡など特別な管理を要する「別表8」というのもある。
訪問看護の頻度は原則週3回と定められているが、別表7、8に該当する患者の場合は、毎日3回まで診療報酬を請求できる。看護師らの判断で毎回、複数人で訪問することも可能で、そのたびに加算報酬が得られる。末期がんや難病の人の場合、きめ細かいケアが必要になることがあるからだ。
社内文書の一文は「難病などの入居者からは1人当たり月に90万円の診療報酬を得ないといけない」という意味になる。ただ別表7、8の患者全員が常に1日3回、複数人での訪問が必要なわけではない。あくまで患者の状態に応じて判断すべきだが、制度を逆手にとって診療報酬をなるべく多く取ろうという意図が感じられる。
▽「売上増加を早速やってもらいます」
アプリシェイトの社内文書には、ほかにも和田氏の助言がいくつも記されていた。
「夜間早朝・深夜加算 フルでとりきる」
これは夜間などに訪問看護をした場合に得られる加算報酬を最大限、請求しようという意味とみられる。
「和田先生のアドバイスを踏まえ、できる売上増加を早速やってもらいます」
「看護師抜きで管理者と和田先生で話す時間を多めに設け、売り上げ上昇のための対策を話しました」
次のような文言もあった。
「特指示の積極的な依頼」「特指示で介入できないか作戦立てていきます」
「特指示」とは「特別指示書」の略だ。訪問看護には医師の指示書が必要なのだが、患者の症状が悪化した場合などに医師が特別指示書を出すと、別表7、8と同様に頻繁な訪問が可能になる。診療報酬を多く得るため、医師に特別指示書の発行を頼んでいたとみられる。
アプリシェイトグループで働いていた看護師=3月、大阪市
アプリシェイトの複数の看護師はこう憤った。「私たちが必要ないと思っても、会社の指示で訪問看護をさせられていた。入居者のためではなく、お金もうけが目的だということがはっきりした。許せない」
▽「そういうことをすると、ダメになる」
和田氏はどう答えるのか。6月、大阪府内のアプリシェイトの老人ホームから出てきた和田氏に質問した。
Q 別表7、8の入居者に必要性に関係なく1日3回、複数人で訪問するように言っている?
A それはないです。私は看護師で、30年以上訪問看護をやっているので、そういうことは言わない。私がそう言っていると聞いたんですか? ええ、そんな…。
Q では、もしそういうことが行われていたら、やめるように言うか。
A もちろん。そういうことをすると絶対ダメになる。私自身もコンサルをできなくなるし、自分の会社もそうやっていると思われるので、そういうことはしません。
アプリシェイトの社内文書を入手後、改めて和田氏にメールで質問を送ったが、回答はなかった。
和田博隆氏が経営する「ナースケア」の事務所=8月、高知市
アプリシェイト側にも見解を尋ねると、要旨として次のように回答した。
「コンサルタントの助言をそのまま実行しているわけではない。『1人90万円』という金額についても、実際にははるかに及んでいない。特別指示書に関する記述は、利用者のために社員の意識を高めるためのものだ。過剰に診療報酬を請求しているとは考えていない」
▽「損をしない報酬の取り方」
こうしたコンサルは和田氏だけではない。
障害福祉サービス事業者を主な対象に経営コンサル事業を手がける一般社団法人「介護福祉サポート協会」(東京)。公的な団体かのような名前だが、そういうわけではない。
代表理事は佐藤国英氏(64)。約10の会社や法人で代表を務めており、自身でも精神科の訪問看護ステーションや障害者向けグループホーム(GH)など約70カ所を各地で運営している。
佐藤氏によると、開業を支援した訪問看護やGHなどの事業者は全国で約300。ウェブサイトでは、コンサル先が運営するGHは2021年時点で約千カ所あるとしている。
訪問看護の勉強会で「介護福祉サポート協会」が示した資料の一部
サポート協会がコンサル先を対象に今春実施した「訪問看護勉強会」の資料を入手すると、「損をしない報酬の取り方」「報酬の最大化」などとして、ノウハウが説明されていた。その中に次のような文言があった。
「(訪問先は)ステーションでも作業所でもOK」
健康保険法で訪問看護は患者の居宅で行うと定められている。障害者が通う作業所などで訪問看護を提供して、診療報酬を請求すれば違法となる。
訪問看護ステーションの診療報酬では、老人ホームやGHなど同一の建物に住む人が利用者の7割以上になった場合、減額する制度が2月に発表された。これについて協会は「障害者GHは同一建物に該当しない」との解釈を示し、減額の対象にならないと説明。さらに「住民票をGHから移動するのも一つの手」と書いている。
これは事実なのか。厚労省に尋ねると、こう答えた。「物理的に同じ建物であれば、障害者GHであっても、住民票がどこにあっても『同一建物での訪問』であり、制度の想定とは異なる」
▽「間違っているなら訂正する」
佐藤氏に取材を申し込むと、協会が事務所を置く東京・麻布十番のマンションで会うことになった。やりとりは次の通りだ。
「介護福祉サポート協会」の事務所が入るビル=7月、東京都港区
Q 協会が訪問看護の勉強会で説明している内容は、法律の規定や厚労省の説明と異なっているのでは?
A スタッフが自治体などに聞いた上で話しているのだと思うが…。間違っているなら、スタッフの確認不足だと思う。すぐに訂正する。
Q 自身の訪問看護でもそのようにしているのか。
A 自分の会社では適正にやっている。
Q 「お金もうけが目的ではないか」という指摘もあるが?
A (障害者らへの)支援を事業としてしっかり存続させていくには、受け取れる報酬はちゃんと取ることが必要だ。そういう考え方であって、「不正や過剰に取れ」と言っているわけではない。
▽「福祉が最も狙い目」
「介護福祉サポート協会」が2020年に開いた障害者向けグループホーム開業セミナーの開催告知
協会は2020年に開いたGHの開業セミナーでは、開催告知で資産家や投資家らにこう参加を呼びかけていた。
「安定した収益の柱をもう一つ持ちたいと思っているあなたへ 福祉が今最も狙い目!」「未経験から年商1億円以上も可能!」「社会貢献をしながら、不労所得を得られるビジネスオーナーになりませんか?」
佐藤氏は最近のメールマガジンでは、次のように書いている。
「今度は(GHとは)別の障害者事業を当分、推奨します。これ、GHよりもうかるかも…」
▽取材後記
障害福祉サービスや訪問看護は、地域で暮らす障害者や患者が増え、国の予算も右肩上がりだ。そこで、お金もうけができるかのように参入を促すコンサルやフランチャイズの広告が後を絶たない。ちょっと目に余る状況だ。国は広告の規制やガイドラインを考えるべき時期にあると思う。
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