アスリートも「職人気質」。用具提供のメーカーが驚いた、五輪選手のこだわりとは
47NEWS / 2024年7月31日 11時0分
アスリートと切っても切れない関係なのが、競技に使用する用具だ。バスケットであればマイケル・ジョーダンさんのシューズ、野球であればイチローさんのバットだろうか。
パリ五輪でも、さまざまなメーカーが選手に用具を提供している。選手を一番近くで支える「相棒」。その生産に関わる人々に話を聞くと、4年に一度の祭典にすべてをかけ、細部へのこだわりを追求するアスリートの姿が見えてきた。(共同通信=浅田佳奈子、河村紀子)
▽既製品に違和感
フェンシング男子エペ代表の見延和靖(37)は、既製品のウエアに違和感を覚えていた。「なかなか自分に合うものが見つからず、ストレスを抱えていた」という。
その見延のために競技用と移動時のオリジナルウエアを開発した企業がある。出身地・福井県のアパレル企業「アタゴ」だ。
アタゴは1927年創業。OEM(相手先ブランドによる生産)を主とし、取引先には大手スポーツメーカーがずらりと並ぶ。元々は軍手や軍足を製造していた。その後、肌着や生地を手がけるようになり、近年はサッカーやバスケットボールの日本代表ユニホームなども作っている。取り扱う生地は優に数千種類に上るという。
福井県越前市出身の見延と、福井市のアタゴ。つないだのは見延をかねて応援していた企業だった。2023年3月、世界で活躍する選手を地元が支えるプロジェクトがスタートした。
▽「フェンシング職人」のこだわり
昨年のフェンシング全日本選手権で男子エペに出場した見延和靖(左)=2023年9月、沼津市総合体育館
アタゴが提案したのは、汗処理のため特殊な加工を施した生地や、自然な伸縮性を備えた生地だった。仕上げには10カ月ほどかかったという。設計を担当した田中芹那さん(29)はやりとりの中で驚かされることがあった。見延が数センチ、数ミリ単位の差に神経を使っていたことだ。「フェンシング職人」を自負する見延らしさの現れだった。「着ている物にもこだわっていることが、結果につながっているんだと感じた」と振り返る。
アタゴが製造した特製のウエアを手にする三田村知紀さん(左)と田中芹那さん=3月、福井市
2023年11月からのシーズンで着用しているインナーの胸元には、アタゴのロゴがあしらわれた。ロゴは社員からデザインを募集し、全社員による投票で決めた。
普段は裏方に徹する企業のアタゴにとっても五輪は大舞台だ。プロジェクトに携わった三田村知紀さん(37)は「これまで僕らの会社が前面に出ることはなかった。ロゴを胸につけて戦ってくれて現場は頑張りがいがある」と笑顔で話した。
▽重心安定に一役
パリ五輪アーチェリーの男子ランキングラウンドで的を狙う中西絢哉(中央)=7月25日、パリ(共同)
フェンシングと同様、ミリ単位にまで気を使ってプレーするのがアーチェリー。男子代表の中西絢哉(24)は、初の大舞台に特別な靴下で挑む。作ったのは、手袋や靴下を企画・製造する「ワールドグローブ」。福岡県久留米市にある3人だけの小さな会社だ。
人気商品は5本指靴下。「3世代で使ってくれている人もいます」と代表取締役の本田一光さん(57)は胸を張る。
内側に保湿機能を持つコラーゲンを配合した糸を、外側には吸湿機能を持つ和紙配合の糸を使う。耐久性があり、普段使いから陸上やトレイルランニングといったスポーツ用途まで、幅広い愛用者がいる。肌触りが良く、蒸れないことが人気の集まる要因だという。
中西絢哉が着用するのと同じモデルの特注の靴下(本田一光さん提供)
アーチェリーはかつて国内メーカーが専用シューズを製造していた。しかし、いまは専門メーカーがなく、選手はスニーカーやテニスシューズなどを履く。競技では、重心を安定させる立ち方が重要な要素になる。足元をより安定させるため、インソール(中敷き)や靴下にこだわる選手は多い。
本田さんが中西と知り合ったのは偶然だった。知人を通じて複数の選手に靴下を提供したところ、最も興味を持ったのが中西。やりとりを重ね、靴やインソールとの相性が良い足袋型の靴下を製作した。
今年2月、中西に会った際「土踏まずの部分を強く締めてほしい」などと要望を受けた。さらに藍染めを施し、世界で一つだけの「中西モデル」を完成させた。選手の要望にとことん応えた「職人の逸品」だ。
中西は靴下を「良い意味で素足みたい」と評したという。本田さんは「最高の褒め言葉。できる限り役に立てたらうれしい」と話した。
パリ五輪アーチェリーの男子ランキングラウンドで的を狙う中西絢哉=7月25日、パリ(共同)
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