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トランス男性の友失った悲しみ繰り返さない 函館の支援団体、ピロシキに「多様性」願う

47NEWS / 2024年8月22日 10時0分

笑顔を見せる宮本真人さん

 2013年11月、北海道函館市で一人のトランスジェンダー男性が27歳で自ら命を絶った。「みやも」の愛称で呼ばれた彼の死後、友人の北見伸子さん(51)は多様な性を生きる当事者(LGBTQ+)を支援する団体の代表に就き、活動を続けている。ロシア料理ピロシキをゲイの当事者らと一緒に作って食べる目玉イベントの「ゲイピロ」の開催は15回を数えた。「二度と同じことを繰り返したくない」。少しずつ、でも着実に、理解の輪が広がることを願っている。(共同通信=瀬尾遊)

▽カミングアウト

 「みやも」こと宮本真人さんとの出会いは2008年。市民が参加してミュージカルをつくるプロ主催の団体に、北見さんが小道具係として、21歳だった宮本さんは役者として参加していた。普段はストリートライブをしたりCDの制作や販売をしたりするミュージシャン。空手も中学生から続け、明るい人柄で周りを楽しませる宮本さんはメンバーの人気者だった。


空手着姿の宮本さん

 「自分はトランスジェンダーなんだよ」。宮本さんは、出生時に医師や助産師の判断で割り当てられた性が女性だが、自認する性別が男性という自身のセクシュアリティについて、稽古の合間や飲み会で仲間にオープンにしていた。北見さんの受け止めは「ふーん、そうなんだ」。周囲も同様に素直に受け止めていた。当時はLGBTQという言葉が知られていないときで「それよりも、みやもがお酒を飲み過ぎるから皆で心配したことをよく覚えているかな」と苦笑する。
 2人は一緒に劇を作るうちに仲良くなった。北見さんの営む飲食店が函館市の食べ歩きイベント「バル街」に出店した時には、宮本さんが客引きとして手伝いに来てくれた。北見さんは「みやもがギターで弾く『リンダリンダ』に合わせて皆で跳びはねたんだよ」と懐かしそうに語る。


ギターを弾く宮本さん

▽苦しみ

 宮本さんは、男性として生きることを望みながら女性の体を持っていることへの嫌悪感を抱え、苦しんでいた。13年に出版した自著「僕達みんな一点モノ! 性同一性障害、いじめ、難聴を乗り越えて」には「男の姿を手に入れて戸籍変更を済ませて、かわいい(空手の)道場生や音楽に囲まれながら、幸せな家庭を築いて笑って暮らしたい」とつづった。うつ病や難聴を発症。何度も自殺未遂を繰り返し、2013年11月、帰らぬ人となった。
 ただ人前では明朗快活な姿で通した。亡くなる3日前にもミュージカルの公演があり、打ち上げには北見さんも参加していた。「飲み会の時は全く分からなかった。笑顔の裏で考えられないほどのストレスが積み重なっていたんだと思う」と悔やむ。
 今思えば、口にしていたのはミュージシャンの命とも言える耳のこと。「聞こえないのがとにかくつらい」。最後となった舞台でもソロパートがあり「ほとんど聞こえない伴奏に合わせて歌えるか」と不安がっていた。本番で見事に歌い上げたのを見て、打ち上げでも「頑張ったね」とねぎらった北見さん。それだけに「音楽が大好きなみやもだから、難聴になったのも相当つらかったんだろう」。


宮本真人さんの写真を見つめる北見伸子さん=4月、北海道函館市

 宮本さんの母親から亡くなったことを知らされ、北見さんは病院までの道を走った。「悲しみも、みやものことも一生忘れないし、二度とこんな思いをしたくない」と誓った。

▽支援団体

 宮本さんは自らの苦悩について講演や執筆をするなど、LGBTQ+の支援活動をしていた。宮本さんが亡くなった後、北見さんは宮本さんの母親から活動を引き継がないかと打診された。北見さんは「人が亡くなるような重大な内容に、専門家でもない自分は関われない」と一度は断った。
 しかしその後、セクシュアリティについて学ぶ機会を得た。好きになる相手の性別に関する指向(Sexual Orientation)と自分の性別に関する認識(Gender Identity)、自分の性別の表現方法(Gender Expression)を意味する「SOGIE」という概念があり、人それぞれ違うこと。多様な性を生きる当事者を指す「LGBTQ+」だけでなく、多数派とされる「シスジェンダー」(性自認と割り当てられた性別が一致している人)の「ヘテロセクシュアル」(性自認と異なる性別の人を好きになる人)も含め、SOGIEであること。「LGBTQ+を巡る課題は自分事でもある」と考え直した。
 2018年、北見さんは新たな支援団体「レインボーはこだてプロジェクト(RHP)」の活動を始めた。19年には学生メンバーを中心に、LGBTQ+のカップルを公的に認定するパートナーシップ制度の導入を函館市長に直談判し、22年に実現した。認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」によると、同様の制度は今年6月28日時点で458自治体に広がっている。人口カバー率では85・1%に達する。

▽「ゲイピロ」


開かれた交流イベントで焼き上がったピロシキ=2023年8月、北海道函館市

 2018年には北海道各地で講演会や当事者同士の交流イベントを主催するなど、支援活動をする団体「にじいろほっかいどう」とコラボし、北見さんの飲食店「まるたま小屋」名物のロシア料理ピロシキを、ゲイの当事者と一緒に作って食べる交流イベントの通称「ゲイピロ」を始めた。
 参加者はひき肉やソーセージ、キノコなど30種類以上の具材やスパイスを選んでオリジナルのピロシキを作る。いろんな具材を使うため多様性を表すのにふさわしいと考えたからだ。オーブンで焼き上がるピロシキをわくわくして待ちながら当事者とおしゃべりするのが好評で、これまでに北海道だけでなく青森県でも開催した。北見さんは「社会問題への意識が高い人だけでなく、単にピロシキを作りたい人にもLGBTQ+のことを知ってもらえるのが強み」と胸を張る。

▽これからの函館

 宮本さんが亡くなってから10年以上がたった。北見さんは、自分が生きるだけでも精いっぱいだったはずの宮本さんが、支援者として当事者から頼られっぱなしだったことに気が付いた。「みやもは友達がたくさんいたけれど、一緒になって支援活動をするチームこそ必要だったんじゃないか。RHPのように一緒に活動してくれる人がいれば、みやもは亡くならなかったかもしれない」。今になってそう思う。


宮本さんの著作を手にする北見伸子さん=6月、北海道函館市

 今年5月には「にじいろほっかいどう」が、LGBTQ+についての本を読めたりできる常設コミュニティースペース「はこにじ」を函館市に開くなど、支援活動が広がっている。「函館が誰もが自分らしく生きられる街になりますように」。北見さんは祈っている。


コミュニティースペース「はこにじ」=5月、函館市

 * * *

 電通が2023年6月、全国の20~59歳の計5万7500人を対象に実施した調査では、LGBTQ+当事者は9・7%で、20年の8・9%から微増した。関係情報の増加で性自認や性的指向への気付きが進展したことが要因の一つと推測される、と説明されている。


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