バスに変身、世界初の二刀流 阿佐鉄DMVで室戸岬目指す
47NEWS / 2024年8月9日 11時0分
【汐留鉄道倶楽部】四国南東部の突端にある室戸岬(高知県室戸市)。台風情報などで地名を見聞きする機会は多いが、公共交通機関だけで訪れるのは結構難しい。旧国鉄時代に計画された阿佐線は、徳島市から南に延びるJR牟岐線と土讃線・御免(高知県南国市)を室戸経由で結ぶ予定だったが財政難で工事は凍結、一部区間を引き継いだ第三セクター鉄道とバスを乗り継がないとどちら側からも到達できない。このうち徳島県側を担う阿佐海岸鉄道(阿佐鉄)は2021年12月から線路と道路の両方を走れるデュアル・モード・ビークル(DMV)を運行。DMVの営業運転として世界初、今風の表現で「二刀流」を前面にアピールしている。
企画乗車券「四国みぎした55(ゴーゴー)フリーきっぷ」でDMV、バス、鉄道を乗り継ぎ、室戸岬を目指した阿佐線に思いをはせた。この切符は四国南東部の国道55号沿いがエリアとなっている。具体的にはJR牟岐線(徳島―阿波海南=徳島県海陽町)、阿佐鉄(鉄道区間は阿波海南―甲浦=かんのうら、高知県東洋町)、高知東部交通バス、三セクで2002年7月に開業した土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線(御免―奈半利=高知県奈半利町)、土讃線(御免―高知)が乗り降り自由。料金5800円で3日間有効。新型コロナウイルス禍による行動制限の緩和もあり、6月に発表された23年度決算では企画切符販売収入が前年比180・7%増の168万円に伸びた。
徳島側の鉄道起点・阿波海南。JR牟岐線(中央奥)とDMVの線路が分断されている
徳島から牟岐線のディーゼル列車で約2時間かけ阿波海南に到着すると、徒歩15分ほどの複合施設・阿波海南文化村を始発とするDMVが道路を走ってやって来た。マイクロバスを改造した車体はエンジンルームが運転台の前に張り出しており、見た目は旧式のボンネットバスを現代風にしたような雰囲気だ。定員21人の車内はマイクロバスそのもので、運転席には自動車と同じハンドルが付いている。駅の横にある阿波海南信号場(モードインターチェンジ)でボンネット下に搭載した鉄道用の前車輪を引き出してレールにセットすると、前タイヤが持ち上がる。さらに後車輪も引き出してレールにセットするが、後タイヤはレールに密着したまま。道路上と同じく後タイヤで推進する。この間約20秒前後で転換(モードチェンジ)完了。約10㌔先の甲浦まで、大人片道運賃は鉄道区間だけで500円。バスを含む全区間を乗り通すと800円だ。
土休日は室戸岬を越え延長運転=海の駅とろむ(高知県室戸市)
DMVは計3台あり、太陽をイメージした赤、太平洋をイメージした青、徳島特産のスダチをイメージした緑に色分けされている。全長約8㍍、重さ約7㌧で、鉄道車両より軽く燃費性能が良いという。一般的な鉄道車両は車体両端に4輪ずつセットの台車があり、走行音は「ガタンゴトン、ガタンゴトン」と表現されるが、DMVは自動車と同様前後に2輪ずつの4輪で、「ガッ、タン」「ゴッ、トン」と間を置く独特のリズムを刻む。トンネルでは音が増幅され、高架を走る鉄道区間の一部では海が見えた。途中2駅に停車して約20分後には県境を越え甲浦に。甲浦信号場で鉄輪を格納しバスに戻るモードチェンジの様子はモニターで車内に映し出された。バスモードで海岸沿いに再び県境を越えて徳島県側に戻り、「道の駅宍喰(ししくい)温泉」(海陽町)が終点となる。明らかに珍しいDMV目当ての乗客や観光客が目立ち、鉄道とバスのモード転換を待ち構える撮影者もいた。
モード転換の様子は車内モニターで放映=甲浦モードインターチェンジ(甲浦駅)
海陽町はゴルフの尾崎将司選手の出身地で、道の駅宍喰温泉にはDMV関連の展示やジオラマに加え、同選手を含む尾崎三兄弟ゆかりのゴルフ用具などが公開されている。プロ野球阪急(現オリックス)の監督として1970年代に日本シリーズ3連覇を果たした上田利治さんのユニホームなどもある。海陽町や東洋町はサーフィンなどマリンスポーツが盛んという。道の駅では海が見える日帰り温泉で一休みした。ぬるぬるした独特の感触だった。
道の駅宍喰温泉ではゴルフの尾崎将司選手らの記念展示も
DMVは土曜休日の1便だけ、バスモードのまま国道55号を約1時間かけ、室戸岬の先にある「海の駅とろむ」間を往復するが、55フリーきっぷでは延長区間は乗車できない。路線バスに乗り換え、太平洋の雄大な景色をながめながら室戸岬に到達した。室戸市は国連教育科学文化機関(ユネスコ)から、貴重な地形や地質を備えた自然公園「世界ジオパーク」に認定されている。「室戸世界ジオパークセンター」では、地震で海底が隆起してできた室戸市一帯が今も少しずつ隆起していることが学習できた(入館無料)。室戸岬突端を望む国道沿いには、坂本龍馬とともに活躍した明治維新の志士・中岡慎太郎像(台座含め高さ約14㍍)が、太平洋に向け建っていた。
有人駅の宍喰には「伊勢えび駅長」も。赤字からの「脱皮」が願い
阿佐海岸鉄道は1992年3月の開業以来赤字続きで、2023年度決算では、運賃収入は12・2%減の2274万円にとどまった。国や沿線自治体の補助金などを加味しても886万円の赤字と、厳しい経営が続く。企画切符が好調だった半面、定期券収入は減少、DMV自体が目的の乗車が相対的に増える傾向が見て取れる。一方で地元利用者にとっても乗り換えなしで鉄道とバスを乗り通せるのがメリットで、23年8月には試験的な奈半利延伸も実現した。ただDMVは専用区間以外の鉄道路線を走れず、牟岐線など他の鉄道路線に乗り入れることができない。さらに乗車は予約制で空きがある場合のみしか飛び込み乗車できない上、立ったままの乗車不可などの制約がある。実際に乗ってみると座席に余裕があったが、もう少し利用しやすくはできないだろうか。
「四国みぎした55フリーきっぷ」の案内マップ(阿佐海岸鉄道ホームページから引用)
阿佐海岸鉄道は鉄道部分が高架になっており「災害時に鉄道、道路のいずれかが壊滅しても持続可能な交通機関」として、DMV導入に興味を持つ鉄道事業者などからの視察を積極的に受け入れる姿勢を打ち出した。自社サイトにアップした最新の事業報告書では「営業運転を続けながら走行データを蓄積し、長期耐久性を検証する」と明記している。大災害は起きてほしくないが、先駆者としての実験的意義もあり、行方を見守りたい。
☆共同通信・寺田正
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