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Xで一番「バズった」都知事選候補は石丸氏ではなかった!?  動画で躍進した石丸氏、自民や立民も見習うべき?【データ・インサイト】

47NEWS / 2024年8月7日 11時0分

落選が決まった後、支援者らと写真に納まる石丸伸二氏(中央)=2024月7月7日

 7月7日に投開票された東京都知事選。小池百合子都知事が291万票という圧倒的な得票で3回連続の当選を果たしたが、最も注目を浴びたのは広島県安芸高田市長を辞職して出馬した石丸伸二氏だった。

 知名度の高い前参院議員の蓮舫氏を上回る165万票を得て2位となるや、一躍「時の人」に。その後、交流サイト(SNS)やメディアで話題となっている。

 石丸氏はSNSを駆使し、若年層の支持を集めたと言われる。共同通信の出口調査でも、18~29歳の41%が石丸氏に投票したと回答。小池氏の27%を大きく上回っていた。「日本一バズる市長」の面目躍如と言えるだろう。

 ただ、選挙期間中のSNS動向を分析すると、違った事情も見えてきた。X(旧ツイッター)において、都知事選関連で名前が書かれたポスト(投稿)が最も多かったのは、蓮舫氏だった。一方、石丸氏はユーチューブの動画視聴数で他候補を突き放し、公式以外にも支持者らがつくる応援アカウントが発言の切り抜き動画を拡散。ユーチューブでの存在感は群を抜いていた。

 最終的に、得票は石丸氏に軍配が上がった。「主戦場」となったSNSの違いが、2人の「明暗」につながったのだろうか。(共同通信 都知事選データ取材班)


東京都知事選で落選が決まり、取材に応じる蓮舫氏。モニターは3選を果たした小池百合子氏=2024年7月7日

 ▽Xのポストは断トツだった蓮舫氏

 Xのポスト数は、得票上位5候補を対象に調査した。NTTデータが提供する「なずきのおと」で算出。告示から投開票前日までの選挙期間(6月20日~7月6日)で、都知事選とセットで候補者名に触れたものを抽出した。


 最も多かったのが蓮舫氏で、ポスト数は227万。2位だった小池知事の177万、石丸氏の170万を50万前後上回り、断トツの1位だ。得票4位の元航空幕僚長田母神俊雄氏は82万。得票5位のAIエンジニア安野貴博氏は5万だった。

 5人とも、7月6日のポストが最も多かった。選挙期間最終日だけに、SNSも盛り上がったようだ。候補者名で絞り込まず、単に都知事選へ触れたポスト数も抽出してみたが、告示から7月5日までは40万~70万だったのに対し、7月6日は126万に跳ね上がった。この日のポスト数も、蓮舫氏が1位だった。

 だが、蓮舫氏の支持は伸びなかった。この点に関し、都知事選におけるSNSの動向を分析した東大大学院の鳥海不二夫教授は「Xの言及は批判も多い。少人数のユーザーが多数投稿する場合もある」と語る。X上の存在感が大きくても、支持に直結するとは限らないということだろう。


 ▽ユーチューブは石丸氏の「独壇場」

 石丸氏が躍進した要因としてユーチューブ動画の拡散が挙げられている。鳥海教授の調査によると、確かに公式チャンネル視聴数は石丸氏の「独壇場」だ。7月4日時点で累積400万回を超える再生数を誇り、他の4候補とは桁違いだった。


 次いで多いのは安野氏の40万回超。AIやデジタル技術を活用した政策を動画で訴えた。自身の公約を学習したアバター(分身)の「AIあんの」を作り、ユーチューブの生配信で24時間質問を受け付けて回答するなどの取り組みを行った。3位は蓮舫氏の21万回、次が小池氏の11万回。田母神氏は5万回だった。

 ▽候補者ごとに異なったSNSの主戦場

 SNSによって結果が違うのは、候補者の戦略が一因かもしれない。


ネットコミュニケーション研究所の中村佳美代表

 都知事選のSNS戦略を分析した「ネットコミュニケーション研究所」の中村佳美代表によると、候補者によってSNSの活用の仕方は異なったそうだ。

 小池氏はX、写真共有アプリのインスタグラム、若年層に人気のTikTokなどを活用した。動画では「AIゆりこ」を公開し、2期8年の実績や公約をアピール。また短い動画で、自宅を公開したり、自身にまつわるエピソードを紹介したりした。

 蓮舫氏はXとインスタグラムを積極的に利用。愛犬との写真や自宅からのライブ動画を通じて自然体の姿を有権者に届けた。鮮やかなデザインで、政策や主張を記載した画像を投稿していたことも特徴だという。

 一方、石丸氏はXでの投稿数は1日2~3回と控えめで、ユーチューブを主戦場とした。すでに述べた通り、公式アカウント動画の再生数は石丸氏の独り勝ちだった。


 ただ、石丸氏の動画拡散は、公式アカウントにとどまらない。中村氏は「支持者らによる応援アカウントが、石丸氏の発言などを短く編集した切り抜き動画が拡散した」と語る。

 研究所のデータを見ると、石丸氏のユーチューブにおけるバズり具合は目を見張るものがある。選挙期間中の石丸氏に関連する動画の再生数は1日当たり約1千万回に上った。

 再生数が公式を大幅に上回り、計3千万回に達した応援アカウントもあった。期間中に動画が計100万回以上再生された応援アカウントは16も確認されたという。公式と16アカウントを合わせた期間中の視聴数は、計1億5千万回に達するというのだから驚きだ。

 ▽石丸氏は「ネットとリアル」を融合

 なぜこんなにも拡散したのだろうか。

 中村代表はこう分析する。「石丸氏は街頭演説も積極的に行い、発言などを『どんどん切り取って下さい』と呼びかけることで動画を拡散させ、インターネットとリアルを融合させた」。こうした戦略が無党派層が多い若年層に「刺さった」と見ている。


有権者らとタッチを交わす石丸伸二氏=2024年6月22日

 鳥海教授も「石丸氏はバズることの重要性を理解し、再生数につながる話し方をしていた」と指摘。ユーチューブやSNSに慣れ親しむ世代など、テレビや新聞をあまり見ない層の支持を獲得したと語る。

 また、石丸氏の切り抜き動画が広がった背景に「アテンションエコノミー」があると分析する。再生回数が増えれば増えるほど広告収入を得られることが、応援アカウント運営者のやる気をかき立てたというのだ。鳥海教授はこう話している。「石丸氏は、第三者の金銭的欲求や承認欲求に応え、コストをかけずに有権者に受ける動画を作ってもらえるシステムを作り上げたと言える」

 一方、蓮舫氏は動画に視聴者がコメントできないように設定していたことから「ユーチューブ動画をバズらせようという考えはなかったのだろう」と推測した。


東大大学院の鳥海不二夫教授

 ▽自民党や立憲民主党も石丸氏を見習うべき?

 「インターネットの使い方に課題がある」。蓮舫氏を応援した立憲民主党の東京都連が7月下旬に開いた会合では、都知事選の結果を受けてこんな意見が出たそうだ。自民党関係者も都知事選後にこう話していた。「無党派層の支持拡大に向け、SNSを頑張らないといけない」。

 次期衆院選を控える与野党にとって、SNSの重要性がこれまで以上に強く認識されているのだろう。石丸氏のやり方を見習う既成政党も出てくるのだろうか。

 法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「石丸氏は日本のSNS選挙元年を印象づけた」と語る。候補者と有権者双方に対し、SNSの影響力は今後も高まっていくと予想している。


法政大大学院の白鳥浩教授

 一方、こうも指摘した。「SNS戦略の強化が既成政党に有用とは限らない」。自民や立民などの政党には、支持者だけでなく「アンチ」も多いからだ。発信を強めれば反対勢力も勢いづき、結果的に無党派層の支持獲得に役立たない可能性があるという。「新興政党以外は支持者を固めることの方が依然として有効だ。今後も組織票頼みの選挙が続くのではないか」

 ▽情報が偏るリスクに注意を

 有権者側からすれば、候補者がSNSに力を入れると、日常的に利用しているユーチューブやSNSで政策や人柄を知ることができる。選挙が従来よりも身近に感じられるかもしれない。今回の投票率が2000年以降の都知事選で2番目に高い60・62%に達したのも、SNSによって選挙にまつわる話題が拡散しやすくなったことが一因と考えられる。

 鳥海教授はSNSの効能を、こう評価している。「新聞やテレビは一部候補者ばかり取り上げ、偏った情報しか報じない。既存メディアが扱わない候補者の主張に簡単にアクセスできるなど、SNSで情報量が増えたことは喜ばしいことだ」

 だが、SNSの特性から生まれる課題もあるという。SNSは利用者の閲覧履歴などを基にアルゴリズムが表示内容を機械的に調整するため、趣向に沿った内容ばかりを受け取る状況になりやすい。こうした現象は「フィルターバブル」と呼ばれる。


 さらに、自分と同じような考え方ばかり見聞きしているうちに、それが最も正しいと思い込む「エコーチェンバー現象」も起こりがちだという。こうした現象は「ユーチューブやXで間違いなく生じている」と語る。


 SNSが特定の候補者の情報ばかりを届けることで、有権者としては広く候補者の主張を吟味する機会を損なう可能性がある。どのように対処したら良いのだろう。ネットコミュニケーション研究所の中村代表はこう話している。「情報が正しいかどうか、自ら検証することが大切だ」。真偽が分からない情報は、拡散しないよう意識することも推奨している。

 切り抜き動画に関しても、候補者に都合の良い編集がされている可能性があると指摘。その上で、こう強調した。「短く切り取られた動画のみを鵜呑みにするのではなく、さまざまな情報に触れながら検証し、投稿の真偽性や政策の実行可能性を見極めることが重要だ」

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