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自民党の「夏の宿題」が手付かずのまま、その原因は政権内亀裂だ 生煮え対応の政治刷新本部で何が起きていたのか【裏金政治の舞台裏④】

47NEWS / 2024年8月23日 10時30分

自民党の政治刷新本部の初会合であいさつする岸田首相。左は菅前首相、右は茂木幹事長=1月11日午前、東京・永田町の党本部

 「政治とカネ」を巡る自民党改革の司令塔となる党政治刷新本部(本部長・岸田文雄首相)が6月23日の国会閉会後、機能停止状態に陥っている。政治資金の透明化に向けた第三者機関設置など改正政治資金規正法の検討項目は棚上げ。つまり「夏の宿題」は手つかずのままだ。裏金事件対応が生煮えとなる背景には、政権幹部間の深刻な亀裂がある。刷新本部内で何が起きていたのか。議論の過程を追った。(共同通信裏金問題取材班=植田純司)

 ▽消えた「派閥解消」

 「自民党を巡る現在の状況は極めて深刻だ。一致結束してこの事態に対応しなければならない」。年が明けてまもない1月11日、党本部で開かれた政治刷新本部の初会合で岸田首相がハッパを掛けた。派閥パーティー裏金事件が政権の命運を大きく揺るがしていた。


 その4日後、茂木敏充幹事長や首相側近の木原誠二幹事長代理、小倉将信前こども政策担当相ら刷新本部の「インナー」とされる幹部陣がひそかに党本部の一室に集まった。主な議題は中間報告での派閥の在り方に関する書きぶり。「政策集団による政治資金パーティーの禁止」「派閥の『資金と人事』からの切り離し」…。共有された原案にはその後、成案に反映される事項が列記されていた。
 関係者によると、原案には「いわゆる派閥の解消」や「政策集団の事務所の閉鎖」も盛り込まれていた。出席した党幹部は「首相の派閥解消への思いは強い」と歓迎した。実際、1月18日に自らが率いた岸田派(宏池会)の解散方針を表明した。
 だが、23日に取りまとめられた刷新本部の中間報告では「派閥の解消」は見出しだけにとどまり、「事務所の閉鎖」は削られた。派閥について「本来の政策集団に生まれ変わるため、カネと人事から完全に決別する」と強調したに過ぎなかった。「政策集団」という名の下で派閥が存続することも可能だと受け取れる内容だった。


 骨抜きとなったのはなぜか。首相の後ろ盾である麻生派(志公会)会長の麻生太郎副総裁の「鶴の一声」が大きく影響した。岸田首相と電話し「志公会の政治資金は口座管理など適正に処理してきた。うちは派閥をやめない」とくぎを刺していた。
 麻生氏はその後も「本来だったら真相究明、再発防止、カネの問題と順を追うべきだが、いきなり派閥の解散が来た。順番が違う」と同派議員らに不満を示している。麻生派はいまなお、東京・平河町の全国旅館会館に事務所を構え、派閥活動を続けている。
 刷新本部の最高顧問には筋金入りの派閥解消論者である菅義偉前首相も名前を連ねていた。首相は菅氏の意向も踏まえ「いわゆる派閥ではなくなる」と胸を張ったが、菅氏に近い閣僚経験者は「派閥解消を徹底できなかった時点で刷新本部は失敗に終わった」と切り捨てた。

 ▽いらだち募らせる首相

 2月中旬、政治資金に関する具体的な制度改革に向けた刷新本部の作業部会が始動した。取りまとめ役は木原氏や鈴木馨祐氏、松本洋平氏、牧島かれん氏らいずれも当選5回以下の議員だった。


自民党政治刷新本部の作業部会と主なメンバー

 ここで世代間対立が生まれる。「党の実態を分かってない人に任せていいのか」。政治資金パーティー券購入者の公開基準額の引き下げや、使途が公表されない政策活動費など「党資金の心臓部」を役員経験がない中堅が扱うことにはベテランから不満が漏れたのだ。この頃、首相と秘密裏に官邸で面会した党幹部は「どこに結論を持っていかれるか分からない」と苦言を呈していた。首相は黙って聞いていたという。
 案の定、自民党は迷走する。首相は4月3日、鈴木氏を官邸に呼び、改正原案作成を急ぐよう指示した。
 ところが、12日に開いた作業部会後、鈴木氏は「自民党としての改正案の取りまとめは今の時点で検討していない」と記者団に説明してしまう。
 「なにを勝手なこと言ってるんだ」。首相は周辺にいらだちを募らせた。鈴木氏は公明党との協議を見据え「両方があらかじめ案があると歩み寄るのが難しい」と理由を説明したが、党執行部は「官邸と実務者が意思疎通できていなかった」と振り返る。
 パーティー券購入者の公開基準額に関しては、自民、公明両党の実務者の調整内容を幹部が覆した。実務者間では5月下旬までに「10万円超」でいったん大筋合意していた。ところが、5月29日、公明党の北側一雄副代表が自民党の森山裕総務会長に電話を入れる。「選挙のことを考えるともう一歩何かを歩み寄ってくれないと賛成できない。やはりパーティーを5万円にしてくれないか。これは山口那津男代表の考えでもある」


 「5万円案」には麻生、茂木両氏が「将来に禍根を残す」と反対する。首相は受け入れるよう進言する森山氏との間で板挟みとなった。最終的に公明案に乗ることを決断したが、協議の最前線にいる実務者や麻生氏らとしこりが残った。

 ▽かき消された野党けん制

 森山氏は「迷惑を掛けた方が迷惑がかかった方の言い分を聞くのは当然」と公明党への譲歩の正当性を訴える。一方で「なぜ10万は駄目で、5万は問題がないのか」という点については議論が深まらなかった。
 パーティー開催の回数制限が設けられず、年4回開けば非公開のまま従前通り20万円分購入してもらうことも可能だ。数字だけが独り歩きした印象は拭えず、刷新感はない。
 自民内にはそもそも政党によって収支構造が全く異なる中、自民の収入源だけ狙い撃ちにされることへの不満も蓄積していた。


党首討論を行う岸田首相(右)と立憲民主党の泉代表=6月19日午後、国会

 作業部会が4月23日に議論の方向性について取りまとめたペーパーには今後の検討項目として「出版・機関紙販売事業の透明性」「労働組合などの政治活動や政治資金の透明性」が目立たないように記載されていた。「しんぶん赤旗」を発行する共産党、組合の支持を受ける国民民主党などを対象としていることは明白だった。党幹部は「あまり自民を攻撃すると野党の財布にも手を入れるというけん制だった」と明かす。

 ▽だんまり決め込む党執行部

 党執行部が派閥裏金事件を受け、地方行脚する「政治刷新車座対話」が7月にほぼ全国を一巡した。党改革に向け直接、党員、党友、国民の声を聴くのが目的だが、総括する動きは鈍いままだ。9月の総裁選に向けた思惑が絡んで「みんなだんまりを決め込んでいる」(中堅議員)のが実情だ。


自民党の車座対話で出た地方組織の主な意見

  「自民党が変わることを示す、最も分かりやすい最初の一歩は、私が身を引くことであります」「所属議員が起こした重大な事態について、組織の長として責任をとることにいささかのちゅうちょもありません」。首相は8月14日、総裁選に立候補しないと表明した。
 緊急会見では「刷新本部に新たなワーキンググループを設けるよう指示を出した」とも明らかにした。自民党の宿題はポスト岸田に引き継がれた。まずは総裁選の論戦で焦点となりそうだ。

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