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AIが進化すると、予報官や気象予報士はいなくなる? 気象庁と民間気象会社の答えは「ノー」、その理由とは

47NEWS / 2024年8月26日 10時0分

全国の予報を統括する気象庁の「気象防災オペレーションルーム」=4月、東京・虎ノ門

 気温、湿度、風…。国内外の膨大なデータを扱う現代の天気予報は、人工知能(AI)と相性が良いとされ、既にさまざまな予測に利用されている。さらにAIが進化していけば、予報官や気象予報士は必要なくなるのだろうか? 気象庁と民間気象会社に取材すると、答えは「ノー」だった。その理由と、それぞれが描くAIと共存する未来とは。(共同通信=西蔭義明)

※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

 ▽予測改善に手応え

 北側の冷たい空気と南側の暖かい空気を分ける局地的な前線。その位置によって、気温は大きく変わる。
 2021年12月下旬の東京都練馬区。気象庁が従来の方法で気温を予測したところ、前線の位置を北寄りに見誤り、実際より3~4度高く予想してしまった。一方、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれるAI技術を使うと、前線を南寄りに予測。練馬は現実と同様に前線の北側で、予想気温も従来より低めとなり、誤差が2~3度改善した。


 このシステムは開発段階だが、気象庁数値予報課の予報官工藤淳さんは「予測が劇的に良くなることがある」と、精度向上への手応えを口にした。
 情報通信白書などによると、AIブームは、単純な問題に対して解を出せるようになった1950年代後半~60年代の1次、専門的な解答が可能となった80年代の2次と続き、2000年代から現在にかけては3次とも4次とも言われる。
 今のブームをけん引する技術が深層学習だ。人の脳の神経細胞を模して、大量のデータから特徴を見つけ出し、自動的に学習することができるようになった。人の指示に基づき文章や画像、音声などを生成するAIも、この技術が基盤となっている。
 気象庁は、天気予報へのAI利用を1977年には始めていたが、比較的シンプルな技術にとどまっており、深層学習は実用には至っていない。現在は2030年ごろの導入を目標に研究を進めている段階だ。

 ▽人間の目


国内観測史上最高の気温「41・1度」を表示する埼玉県熊谷市内の温度計=2018年7月

 「シミュレーションやAIによる予測を、人間が気象学の知識や経験から適宜修正するのが今の予報だ」。工藤さんは現在の天気予報では人間もAIも不可欠だと解説する。
 予報はまず、観測結果を基にスーパーコンピューターでシミュレーションをすることから始まる。このシミュレーションのプログラムは「数値予報モデル」と呼ばれ、物理学や化学の法則に基づき、大気や海、陸の時間変化を計算するよう設計されている。
 ただ、シミュレーション結果は、気温や湿度、風など大量の数字の集まりで、人間が短時間で理解するのは難しい。そこでAIを使い、数字の羅列から、天気や最高気温など分かりやすい情報に置き換える。その過程で、数値予報モデルでは細かくて計算式に組み込めない地形などの誤差もAIが補正する。
 その後、予報官の判断を経て気象情報を発表するが、例えば、シミュレーションとAIが予測した最大降水量が少ないと考えれば多くし、気温が低いと高く修正する。人が最後、責任を持つのが今の予報だ。

 ▽二つの理由

 今後、深層学習を導入し、AIが進化を続ければ、予報官は必要なくなってしまうのだろうか。そんな質問をすると、気象庁技術開発推進室の技術開発調整係長、戸松秀之さんは主に二つの理由から否定した。
 一つ目は「処理の過程が分からないところがある」ため。つまり、AIだけで予測すると、なぜそんな結果になったか分からず、根拠が「ブラックボックス」になってしまうからだ。気象庁は単に雨が降るかどうかだけを予測しているわけではない。「防災官庁」として大雨などの場合は警報を出し、災害が起こる前に注意を呼びかける。「なぜ大雨になるか分からないけど逃げて」では、適切な避難につながらない。


大雨の影響で冠水した道路を歩く人=2023年7月、福岡県久留米市

 二つ目は「今まで起きていない、あるいは起きたことが極めて少ない極端な現象を予測しづらい」という点だ。AIは大量の情報を吸収し賢くなっていく。その分、学習していないことを予測することは苦手だという。気象庁としては、例えば「100年に1度の大雨」を予測できなかったら信頼に関わり、弊害が大きい。工藤さんも「100回中90回すごく当たるけど、10回は変な値が出てくるのでは困ってしまう」と語った。
 気象庁は深層学習を利用するシステムを開発中だが、工藤さんは「これまでのAIより複雑なことを表現できるが、きちんとしたシステムとして構築するには調整することが膨大。生成AIを使えば、精度がすごくよくなるという、そんな単純な話ではない」と難しさを吐露する。
 それでも、もうAIなしの未来は想像しにくい。戸松さんは「AI技術が進展していって、それを活用することで、気象庁の業務としてより高度なことができるのではないか」と期待した。

 ▽AIを使う側


取材に答えるウェザーニューズ予報センターのテクニカルディレクター西祐一郎さん(左)とチームリーダー坂本晃平さん=5月30日、千葉市

 「私の経験上、AIで2~3割くらいは精度が良くなっている」。予報精度に定評のある民間気象会社「ウェザーニューズ」(千葉市)予報センターのチームリーダー坂本晃平さんは、そう話す。
 ウェザー社も積極的にAIを利用してきた。雨雲の予測の範囲を5キロ四方から250メートル四方に細かくすることなど、既に深層学習を導入した事例もある
 ただ、気象庁と同様に情報を出すときは最終的に人の目でチェックする。今後もAIが気象予報士に完全に取って代わるとは想定しておらず、むしろ、気象予報士がAIを使う側だとする。
 例えば、気圧配置の解説。経験のある気象予報士であれば、同じような気圧配置が「いつ」「どんな災害につながったか」、頭の中に蓄積があり説明できるが、若い気象予報士には難しい場合がある。ウェザー社では、AIに過去の気圧配置を学習させ、同じような配置を探せるようにしたことで、経験の浅い気象予報士でも過去の事例を参考にしやすくなった。
 「ウェザー社には気象予報士がたくさんいる。その膨大な経験則から新しいAIの使い道を発見でき、善しあしも判断できる」。テクニカルディレクターの西祐一郎さんはAIとの共存に自信を見せる。

 ▽一人一人の天気予報

 ウェザー社の売りは、気象庁がサービスしきれないきめ細かい情報の提供だ。
 「『何着たらいいですか?』。その答えは、寒がりもいれば、暑がりもいるので人によって違う。さすがに予報士が一人一人にコメントするのは不可能。生成AIを使えば今後、個々に対応したサービスを提供できる可能性がある」。西さんは、AIで個人個人や会社ごとのニーズに合った予報が実現できるのではないかと考えている。
 今日は大阪出張、天気はどう?
 「新大阪駅に着いて30分後くらいに小雨が降り、気温も下がります。あなたは寒がりだから1枚羽織るものを持っていった方がいいかもしれません」。
 AIとうまく共存すれば、そんな天気予報の未来が待っているかもしれない。

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