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一時は「どん底の危険」水域まで悪化した米中関係、トランプ氏返り咲きならどうなる? ハリス氏の外交手腕は未知数、各国が注目する大統領選の行方

47NEWS / 2024年8月20日 10時0分

バイデン米大統領(左)と並ぶ中国の習近平国家主席=2023年11月、米カリフォルニア州(ロイター=共同)

 バイデン米大統領は、米国と中国の関係を「民主主義と専制主義の闘い」と宣言した。中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競争相手」と位置付け、同盟・友好国との協力を強化した。

 トランプ前大統領が多国間の協力を軽視し制裁関税を連発したのに対し、バイデン政権では安全保障や価値観を軸とした対立へと変わった。11月の大統領選でトランプ氏が返り咲けば、米中対立の構造は再び変化する可能性がある。一方、民主党の大統領候補に指名されたハリス氏の外交手腕は未知数だ。

 大国のせめぎ合いは世界を巻き込む。その行方を左右する大統領選の展開を各国が注視している。(共同通信ワシントン支局 木梨孝亮)

 ▽外交儀礼を無視し非難合戦

 バイデン政権の米中関係は大波乱の幕開けだった。

 「中国の行動は世界の安定を維持する秩序を脅かしている」
 「米国が上から目線で中国を語る資格は20年前、30年前からない」

 2021年3月、米アラスカ州アンカレジでブリンケン国務長官と中国外交担当トップの楊潔篪共産党政治局員(当時)が初めて顔を合わせた。2人は外交儀礼を無視し、報道陣を前にして1時間以上の非難合戦を繰り広げた。


米アンカレジで会談するブリンケン米国務長官(右手前から2人目)と中国の楊潔篪・共産党政治局員(当時、左手前から2人目)ら=2021年3月(ロイター=共同)

 さらに緊張が高まったのは2022年8月。民主党のペロシ氏が現職の下院議長として25年ぶりに台湾を訪問し、蔡英文総統(当時)と会談した。台湾を自国の一部とする中国は激怒し、台湾を取り囲む形で大規模軍事演習を実施した。弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内にも落下。中国は一方的に軍事対話の停止も表明した。


台湾総統府で会談し、手をふる蔡英文総統(右)とペロシ・米下院議長=2022年8月、台北(総統府提供・共同)

 ▽中国による偵察発覚で冷え切った関係

 バイデン氏は2022年11月、インドネシアで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせ、中国の習近平国家主席と会談した。

 「われわれが望んでいるのは衝突ではなく競争だ」。こう伝え、緊張を緩和するため意思疎通を強化することを申し合わせた。国務長官のブリンケン氏が中国を訪問することでも合意した。


中国の習近平国家主席(左)と握手するバイデン米大統領=2022年11月、インドネシア・バリ島(新華社=共同)

 だが2023年に入り、中国の偵察気球が米国の本土上空を飛行していることが発覚し、情勢は急変した。バイデン政権は2月上旬に予定していたブリンケン氏の訪中を直前で延期。意図を探ろうとオースティン国防長官が中国側との電話会談を申し入れたが、断られた。関係は冷却化し、米側の目算は狂った。

 互いに何を考えているのか読めず、疑心暗鬼が深まって意図しない衝突に発展する―。ある米政府高官は最悪のシナリオが頭をよぎったといい、「米中関係はどん底で、本当に危険だった」と当時を振り返る。

 ▽「古い友人」として握手

 バイデン政権は一定期間を置いた後、再び関係改善の糸口を探り始めた。延期していたブリンケン氏の訪中を2023年6月に実現させ、続いてイエレン財務長官やレモンド商務長官らも中国を訪れ、首脳会談の実現に向けて機運の醸成を図った。

 習国家主席は11月、サンフランシスコで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため約6年半ぶりに米国を訪問した。バイデン氏はサンフランシスコ近郊にある広大な邸宅で習氏を迎え、約4時間にわたり意見を交わした。


米カリフォルニア州で会談したバイデン大統領(右)と中国の習近平国家主席=2023年11月(ロイター=共同)

 バイデン氏と習氏はもともと「老朋友(古い友人)」だ。2011年8月、オバマ政権の副大統領だったバイデン氏は中国を訪れ、国家副主席から国家主席への昇格が確実視されていた習氏と多くの時間を過ごした。バイデン氏は「外国の指導者の中で誰よりも習氏のことを知っている」と自負する。

 「お帰りなさい。私たちは長い付き合いだ」。会談でバイデン氏は習氏にこう語りかけた。台湾や南シナ海などを巡る問題では双方の立場は平行線をたどったが、軍の高官同士の対話を再開することで合意した。

 2人は背に腹は代えられない事情を抱えていた。米国はロシアによるウクライナ侵攻に加え、2023年10月に始まったイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘への対応で精いっぱいだった。

 中国にとっては成長が鈍化した経済の立て直しが喫緊の課題だった。余力を失ったバイデン氏と習氏が交わした握手は「休戦」のための妥協の産物だった。

 ▽国務長官が上海訪問で友好演出

 米国と中国は合意に基づき、国防対話を順次再開した。2024年5月にはシンガポールで両国の国防相が1年半ぶりに対面で会談し、偶発的な衝突を避けるための対話の重要性で一致した。米側は関係の安定化に躍起で、こうした姿勢は4月のブリンケン国務長官の訪中時にも如実に表れていた。

 ブリンケン氏は北京で習氏や王毅外相と会談するのに先立ち、最大の経済都市、上海を訪問。観光名所の外灘(バンド)を散策したり、中国のプロバスケットボールの試合を観戦したりした。

 米側はこうした様子を交流サイト(SNS)で投稿し、友好ムードを演出することにこだわった。宿泊先はバンド沿いにあるゴシック建築の建物で、上海のランドマークとして知られる「和平飯店」だった。


中国・上海の空港に到着したブリンケン米国務長官(右端)=2024年4月(ロイター=共同)

 

 ▽「冷遇」「警告」、根強い不信感

 一方、中国のSNSでは、ブリンケン氏の上海の空港到着時にレッドカーペットがなかったことが「冷遇」だと話題になった。タイミングを計ったかのように、中国海軍がブリンケン氏の宿泊先に近い黄浦江の岸にミサイル駆逐艦を停泊させていたことで、米国への「警告」のメッセージだと受け取る見方も出た。

 外相会談では、ブリンケン氏が「上海は良い旅でした」と語ったのに対し、王氏が「中米関係はマイナスの要因も積み上がっている」とくぎを刺す場面もあり、根強い米中間の相互不信を感じさせた。

 ▽複層的な対中国包囲網

 バイデン政権はインド太平洋地域で、複数国が多層的に折り重なるように連携する「格子状」(米高官)の対中包囲網の構築に力を入れてきた。「中国にはない同盟国の存在が、米国が持つ最大の優位性だ」との考えからだ。

 米国、イギリス、オーストラリアの3国による安全保障枠組みAUKUS(オーカス)を創設。オーストラリアに原子力潜水艦を導入した。

 米国、日本、オーストリア、インドとの協力枠組み「クアッド」は首脳レベルに引き上げた。南シナ海で中国と対立を深めるフィリピンを加えた米国、日本との3カ国連携の強化も図った。

 いずれの枠組みでも、経済面では半導体や人工知能(AI)といった先端技術での協力を重視し、中国からの依存脱却を狙った。


クアッド首脳会合を前に、記念写真に納まる(左から)バイデン米大統領、アルバニージー豪首相、岸田文雄首相、モディ印首相=2023年5月、広島市

 

 ▽人権外交を掲げる米国の「二重基準」

 だが、パレスチナ自治区ガザ情勢を巡り、中国に付け入る隙を与えた。バイデン氏は「人権外交」を掲げる一方、民間人被害をいとわないかのように激しい攻撃を続けるイスラエルを支持する。矛盾を抱えたその姿勢は、国際社会で影響力を強める「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国にとっては「ダブルスタンダード(二重基準)」に映った。

 中国はグローバルサウスへの接近を強めており、米国務省の関係者も、ある東南アジアの国で「米国への逆風を感じた」と素直に認める。

 ▽民主、共和党ともに強硬姿勢は変わらず

 米国では「厳しい姿勢で中国に臨むべき」との考えが超党派で共有されている。11月の大統領選に向けては民主、共和の両陣営が対中国で強硬姿勢を競い合う。

 民主党のバイデン政権は同盟国との対中協力を実績として掲げると同時に、雇用を守る姿勢をアピールしようと、中国に対して鉄鋼や電気自動車(EV)関連の関税引き上げを決めた。

 共和党のトランプ氏も中国からの輸入品には60%の関税を課すと息巻くが、対中戦略の骨格はまだ見えてこない。米国の識者は「大統領は前任者の政策を簡単にひっくり返せる」と指摘する。

 バイデン氏の大統領選撤退に伴い、民主党候補に指名されたハリス副大統領の外交手腕は未知数だ。選挙結果次第で、日本をはじめ各国は対中戦略の練り直しを迫られる事態も起こり得る。


米アトランタでの集会で演説するトランプ前大統領=2024年8月(ロイター=共同)

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