使ってみて分かった!アップルの新型端末「ビジョン・プロ」の可能性と乗り越えるべき課題
47NEWS / 2024年8月30日 10時30分
6月下旬に日本で発売された米アップルのゴーグル型端末「Vision Pro(ビジョン・プロ)」。昨年6月の開発者向けイベントで披露され、米国で今年2月に発売された。アップルは、ビジョン・プロをデジタルコンテンツと現実世界を融合させた「空間コンピューター」と定義している。3次元(3D)のインターフェースを持ち、視線、手ぶり、声で操作する。
外国為替市場の円安ドル高の影響もあり、日本での販売価格は約60万円からと超高級品だ。来日した製品マーケティング担当のボブ・ボーチャーズ副社長は共同通信の取材に「ユーザーは今後、生活や旅行、仕事の中で、いろいろな形で活用してくれるだろう」と語った。ビジョン・プロを2週間ほど自宅と職場で試し、その将来性と課題を考えた。(共同通信=吉無田修)
▽高級な外観、ずっしりとした重み
大きな箱を開封すると、ガラス製のグラス部分を保護するカバーが付けられていた。7万円台からの米メタのゴーグル端末「クエスト3」のプラスチック製の外観と比べて高級感がある。ボディは黒、グレー、白を基調とし、アップルらしい洗練されたデザインだ。一方で、ずっしりとした重さが気になった。端末部分は600グラム以上、ポケットに入れる付属バッテリーが300グラム以上あり、合わせると1キロ近くになる。バッテリー内蔵のクエスト3は500グラム程度にとどまる。
ビジョン・プロの端末と付属品
装着に使用するバンドは、後頭部で締める蛇腹状のタイプと、頭頂部と後頭部で固定するタイプの2種類が付属している。見栄えは蛇腹状バンドの方が良いが、ずり下がらないようにきつく締める必要があり、30分ほど使用すると額に赤い跡が残った。私の妻は15分ほどで痛みに耐えられなくなり、2点で支えるタイプに変えた。
▽「魔法使いみたい」没入感に感動
装着すると、周囲の空間が高解像度で映し出される。端末上部にあるダイヤルを回せば、自分の周囲がハワイのハレアカラ火山や月面などに徐々に切り替わる。視線を向けたアプリが浮き上がり、人さし指と親指のタップで選択する。つまみながら縦や横に動かすことでスクロールでき、両手で引き伸ばす手ぶりで拡大する。高校1年生の娘は「すごい、魔法使いみたい」と歓声を上げた。
ビジョン・プロを試す記者=6月、東京都港区
ビジョン・プロ搭載のカメラは3D映像を撮影できる。飼い犬のヨークシャーテリア、ルーカスの3D動画を見ると、目の前にルーカスが座っているような錯覚を感じた。こうした思い出の映像は宝物になりそうだ。iPhoneで撮影した写真はビジョン・プロでも見ることができ、パノラマ写真は、その中に入り込んだように感じた。旅先などで撮影した写真がビジョン・プロによって新たな価値を生む。この没入感は、平面の動画や写真とは別次元の懐かしさをかき立てる。
アップルがビジョン・プロ限定で配信している「イマーシブビデオ」は、180度の視野で3D動画が広がる。米人気歌手アリシア・キーズさんや、米プロバスケットボールやサッカーの映像は高精細でプレーなどが間近に迫り、臨場感に驚いた。
映像との双方向性も楽しめる。恐竜と遭遇するアプリは、3D映像の恐竜やチョウが姿を見せるだけでなく、利用者の動きに反応する。手を伸ばすと恐竜にかみつかれ、思わず手を引いてしまった。飛んできたチョウは人さし指に止まった。
指に止まっているように見えるチョウの映像(画面のスクリーンショット)
▽装着中は孤独感も
ビジョン・プロの映像内のキーボードはタブレット端末「iPad」のような使い勝手で、人さし指による入力では高速で入力できない。その代わり、パソコン「Mac」と連携させ、パソコン画面をビジョン・プロの映像内で大画面化し、Macの物理的なキーボードで入力できる。今回の記事の一部はビジョン・プロとMacを連携させて作成した。慣れの問題もあるが、Macだけの方が書きやすい。
ビジョン・プロの利用者は、使用時に周囲の様子が見え、ビジョン・プロの外側ディスプレーに自分の目の映像が映し出される。周囲とのコミュニケーションを取りやすくするのが狙いだが、職場で使用した際、隣に座る同僚から孤独感を感じたとの感想をもらった。
自宅で使用する際は家族とのだんらん時ではなく、深夜、リビングのソファに座って映画などを楽しむことが中心になった。また、装着時の視野の広さがスキューバダイビングでゴーグルをつけて潜っているような感じで狭いため、現行の端末では数時間つけっぱなしにするのはあまり現実的ではないとも感じた。
▽ニュースメディアでの活用
ニュースメディアにとっては、空間コンピューターを使用することで、没入感のあるニュース体験を利用者に提供できるようになった。例えば、ウクライナやパレスチナ自治区ガザでの紛争の3D映像は、巻き込まれた市民の理不尽さや平和の尊さのメッセージがより強く伝わるだろう。また、著名人やスポーツの映像は、ファンをきっと喜ばせる。
日本では、日本経済新聞社や福井新聞社が日本での発売に合わせて、ビジョン・プロ向けのアプリの提供を始めた。
「日経空間版」は、日経電子版の有料会員向けに実験的に提供している。「ペーパーリウム」と呼ぶ機能では、最新の紙面の一覧が空間に現れ、選択した紙面や記事は大きく表示される。部屋中に広がる紙面一覧は迫力がある。もう一つの「ストーリーフロー」という機能は、選んだ記事について、関連した記事を人工知能(AI)が自動で抽出する。
「日経空間版」に映し出される紙面(画面のスクリーンショット)
例えば、「グーグル、サードパーティー・クッキー廃止方針を撤回」の記事については、過去の特集記事なども時系列で表示され、読者が理解しやすくなっている。日本の過去の大きな地震を3Dで表現したコンテンツも公開している。いずれも凝った作りで、ビジョン・プロに最適化されたニュースアプリになっている。
「福井新聞V刊」は無料アプリ。福井新聞が地元のソフトウエア会社と共同開発した。北陸新幹線開業や、コウノトリの放鳥など、県内で大きなニュースのあった日の紙面を見られる。空間に浮いた紙面を指でつまんでめくる仕組みで、紙の新聞の使い勝手を再現している。一部の記事は動画も再生する。
▽将来性と課題
ビジョン・プロの初代機は、iPhoneやiPad、Apple Watchの初代機と比べると、粗削りな面を感じた。60万円という価格からも万人向けではない。一方で、端末の重さといった装着感に課題があるものの、高精細な映像や目線と手ぶりによる直感的な操作を実現したのは驚きだ。
アップルのボーチャーズ副社長はインタビューで「ビジョン・プロは無限に広がるキャンバス。実際に活用すれば価値を見いだせる」と話した。直営店では無料で30分ほどのデモ体験ができる。興味を持った方は、まずはお試しを。コンピューターの未来を体験する価値は大きいはずだ。
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