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二刀流断念が金メダルのターニングポイントに。偉業達成の北口榛花の支えとなった恩師の言葉とは

47NEWS / 2024年9月4日 10時30分

金メダルを獲得し、日の丸を掲げる北口

 競技の順番を待つ間に寝そべってカステラを食べる姿や、チェコ語に堪能な一面が話題になっている陸上女子やり投げの北口榛花(26)。
 競技を始めて約10年。日本初のやり投げ種目金メダルという偉業を達成するまでの道のりは平たんではなかった。陸上に取り組み始めた高校では当初、以前から続けていた水泳との二刀流を選択。その後陸上に専念し圧巻の成績を残したが、大学時代は伸び悩み、東京五輪では12位という不本意な結果に終わった。
 そこからはい上がり、さらなる成長を遂げた。その裏には、競技生活の節目で背中を押し、支えとなる言葉を授けてくれた恩師の存在があった。(共同通信=帯向琢磨)

▽水泳と陸上の二刀流


競技の合間にカステラを食べる北口


 幼い頃から水泳に取り組んでいた北口は、小学3年ごろから地元の北海道旭川市の「コナミスポーツクラブ旭川」に通うようになった。当時はバドミントンに力を入れており、体幹を鍛えることが目的だった。「キックとかの練習についてこられなくて、いつも泣いていた」。指導していた佐藤淳さん(62)の印象だ。
 ただ、週に6回ある練習を休むことはほとんどなく、体格もよかった。「いずれ爆発すると思っていた」。佐藤さんのもくろみ通り、中学3年でタイムが伸び始め、全国大会まであと1秒に迫るほどに上達した。北口の母親とこんな話もしていた。「ついに榛花の時代が来ましたね」
 それが旭川東高に入ると、陸上部の熱心な勧誘を受けた。顧問だった松橋昌巳さん(69)にとって、定年まであと3年というタイミング。体が大きく、天才的な投てきの能力を持つ北口と出会い「神様っているんだなと真面目に思った」と振り返る。たった2カ月で北海道の大会を制し、「将来はオリンピックに出る資質がある」と確信した。


北口の投てき

 水泳を優先しつつ、やり投げにも取り組むという二刀流の生活が続いた。しかし、オーバーワークは明らか。ある日、佐藤さんは北口と父親を呼んだ。そして、「今はやり投げが伸びているんだから、そっちに集中しなさい。東京五輪に出られたら最高じゃない」と告げた。

▽競技人生のターニングポイント

 「高校では水泳」と考えていた北口は葛藤し、父親も何とか両立できないかと食い下がった。だが佐藤さんは「ここまで休みなく頑張ってきたんだから」と諭した。もちろん、ここまで育ててきた佐藤さん自身にも迷いはあった。周りからも「何をしてるんだ」と言われた。それでも「このまま続けさせたら故障するだけだ」と自分に言い聞かせた。
 これが北口が高1の秋頃の出来事。後に世界の頂点に立つ競技人生の、大きなターニングポイントとなった。


昨年の世界選手権を制した北口榛花が書いたサインを見つめる佐藤淳さん

 北口は後に「あのときコーチに言ってもらってほっとした。このままだと死ぬんじゃないかと思っていた」と話したという。やり投げに絞った北口は高校では向かうところ敵なしで、数々の記録を塗り替えた。松橋さんは「土台だけつくってやれば、勝手にどんどん行く」と感じていた。
 一方で、水泳を教えてくれた佐藤さんとの連絡は、陸上に専念してからも続いていた。大学時代、佐藤さんがたまに連絡すると「いま一歩です」との返信。不振やけがに苦しんでいるようだった。そして臨んだ初出場の東京五輪。思い描いた結果とはほど遠く、失意の中にいた北口に、佐藤さんは少したってからねぎらいのLINE(ライン)を送った。

▽手書きのメモ、今も支えに

 すると、小さな紙切れの写真と共に「この言葉が今でも支えです」「夢を叶えるために頑張ります」と返信が来た。
 それは小学生時代、大会前に渡した手書きのメモ。「ベストを出せる様 練習したんですから自信をもって泳ごう」。佐藤さん自身さえも忘れていた紙切れを大切にしてくれていたことに、胸が熱くなった。
 チェコでの修行の成果が出始め、昨年、一気に花が開いた北口。世界選手権で優勝し、世界各地で開催される最高峰の大会「ダイヤモンドリーグ」で年間上位者で争われるファイナルも制した。パリに行く前は「絶対良い色のメダルを持ってきますから」と思いを語っていた。
 ただ佐藤さんは、直前はあえて連絡を控えた。優勝した昨年の世界選手権のときのことを思い出したからだ。当時はお互い忙しく、あまりやりとりがなかった。そのときの験を担いだ。「勝つまではライン送らないよ」


金メダルを獲得し、鐘を鳴らす北口

 こうして迎えたパリの舞台。1投目に出した記録に、ライバルたちは最後まで追いつけなかった。両親と抱き合って喜ぶ姿をテレビで見て、佐藤さんも涙が止まらなかった。「努力は裏切らないと、自分を信じ抜くことができたから勝てたんでしょう」。二刀流からやり投げに絞り、本当に良かったと感じているという。


パリ五輪の閉会式で入場する北口

 北口は昨年の世界選手権を制した後、佐藤さんに金メダルを掛けてくれた。そしてこんな約束をしていた。「パリでメダルを取ったらまた掛けてあげます」。地元への凱旋を楽しみに待っている。

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