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「実は競技中に…」やり投げ金メダル・北口榛花選手が偉業達成の裏で感じていた異変 緊張、悔しさ、反響、そして今後。パリ五輪を終えた思いを語る

47NEWS / 2024年9月8日 11時0分

オンラインでのインタビューに応じ、笑顔を見せる陸上女子やり投げの北口榛花選手=8月23日

 パリ五輪の戦いを終えて女王は今、何を思うか―。陸上女子やり投げの北口榛花選手(26)=JAL=は、昨年の世界選手権初制覇に続き、五輪でもマラソン以外の陸上女子種目で日本選手初の頂点に立つ偉業を達成した。閉幕後は拠点を置くチェコに戻った金メダリストがオンラインでのインタビューに応じ、足をつっていたという競技中の秘話から、日本選手団の旗手も務めた期間中の思い出、五輪後の反響や海外挑戦の意義まで、存分に語った。(聞き手 共同通信・山本駿)


女子やり投げ決勝の1投目に65メートル80をマークし、金メダルを獲得した北口榛花選手=8月10日、パリ郊外(共同)

 ―8月10日に行われた決勝では、1投目に65メートル80をマーク。ライバルたちに重圧をかけ、逃げ切り勝ちを収めた。


 「1投目で絶対にそれなりの記録を投げようと、自分の中でプランニングしていた。全てとまでは言わないが、かなりエネルギーはかけて臨んだ。緊張感もすごくあったので、実は4投目ぐらいから右ふくらはぎをつっていた。昨年の世界選手権(ブダペスト)の1投目と同じような感じ。ブダペストのことがあったから、たくさん飲み物を飲んで気を付けていたが駄目だった。踏ん張りきれなくなっていた」
 「今までの五輪は67メートルぐらいの記録じゃないと、優勝できなかったと思う。男子やり投げや砲丸投げも高い水準で戦っていたのに対して、今の女子やり投げは70メートル近く投げる選手がいない状態。そのおかげで勝てていると言われるのがすごく悔しい。もっと投げたいと思っている」
 「今回65メートル80を投げた時、やりの飛び方がそんなに良くなくても65メートルは飛んだ。70メートルまですぐにいけるかは分からないが、68メートルぐらいは投げられるんじゃないかという手応えは持っている」
 
 ―初出場の東京五輪は新型コロナウイルス禍に見舞われた中での開催。パリでの祭典は競技外でも楽しむことができた。
 「選手村で女子バスケットボールの選手に会って写真を撮ってもらえた。部屋に入るところの下にカフェエリアでゆっくりできるところがあるが、予選から帰ってきた時にそこにいらっしゃった。バスケの選手は選手村にはあまり入らないスケジュールじゃないかと考え、『今しかない』と思ってお声がけさせてもらった」
 「レスリングの選手と車で一緒になることも多かったし、ブレイキンの選手とも食事スペースでお話しさせてもらった。いろんな人のお話を聞けて面白かった」


閉会式で、日の丸を手に入場する旗手の北口榛花選手(左)と半井重幸選手=8月11日、パリ郊外(共同)

 ―閉会式ではブレイキン男子の半井重幸選手(ダンサー名・SHIGEKIX、第一生命保険)とともに旗手も務めた。
 「2人で2時間ぐらいお話しさせてもらって、楽しかった。シゲキックスさんが『旗は開会式で持ったので北口さんが持っていいですよ』と言ってくださり、ありがたかった。周りで2人ペアの国は一緒に持っている人が多かったので、入場の時は『一緒に持ちませんか』と話して、2人で持った。あんなに日本の国旗を持って歩けることもない。会場の音楽も含めてすごく楽しめた」
 「(拠点の)チェコに戻ってからも、行きつけのカフェでお祝いしてもらえて、すごく楽しい時間を過ごせた」 


競技の合間にカステラを食べる北口榛花選手=8月10日、パリ郊外(共同)

 ―競技の合間にカステラを食べたり、寝そべったりと、これまでと同じルーティンが注目されるなど、五輪の反響は予想以上に大きかった。
 「ほんのちょっとしたことでも取り上げてくださって、本当にうれしいなという気持ち。あんなに食べているところばっかり写っているとは思わないぐらいだった(笑)。世界陸上の後もすごく反響はあったが、世界陸上を見ている人は、陸上が好きな人が多い。そうじゃない方々も五輪は見てくださったかなという印象が強い」
 「最善を全て尽くせたと感じている。その分、精神的にも肉体的にも反動が大きかった。本来であれば、8月25日のダイヤモンドリーグにも出る予定だったが、欠場を選んだ。疲れた状態で出てけがをするよりは、試合を減らしてでもいい状態に戻した方がいいと思った。そのぐらい五輪で金メダルを取ることに真剣だった」 


金メダルを獲得し、日の丸を掲げる北口榛花選手=8月10日、パリ郊外(共同)

 ―日本陸上界では、男子ハンマー投げの室伏広治さん、女子マラソンの野口みずきさんが頂点に立った2004年アテネ大会以来の、五輪での偉業達成となった。
 「今の若手は04年に生まれていない子も多い。陸上で金メダルを取る姿を、私が見せられて良かった。今まで日本人が取ってきた種目ではない種目で取れたことも、固定観念から外れるいいきっかけになってくれるといいなと思う」


表彰式で笑顔の北口榛花選手(中央)=8月10日、パリ郊外(共同)

 ―海外に挑戦することも含めて、日本の陸上界がさらに発展していくことが期待される。
 「海外に行くことが全て正解ではないが、海外で試合に出ると、日本の試合がすごく整備されていると感じると思う。雰囲気を経験するとか、外国の選手と友達になるとか、どんな状況でも試合をしやすい環境をつくっていくことがすごく大事。チャンスがある選手は、どんどん海外に出ていくべきだと思う」
 「特に世界大会への出場には、世界ランキングのポイントも必要になってくる。日本だけでためるより、海外の試合にも出ながらポイントをためた方が、代表入りの確率も上がる。ちゃんと計算して計画的にやらないと、代表に入ることも難しくなってきてしまう」
 「若い頃はあまりポイントのことまでは考えないかもしれない。ポイントについての講義などもあったらいいんじゃないかと思う。海外の試合は出たいと思っても、全部出られるわけではない。指導者任せにせず、経験の一つだと思ってチャレンジしてみてほしい」
 
 ―来年9月に東京で開催される世界選手権は、既に代表入りが決まっている。気運醸成のためにも、陸上界全体の盛り上がりが欠かせない。
 「今回の五輪もいろんな種目での入賞があった。私一人では何も変わらない。選手全員で頑張って、今まで日本人が弱いと言われていた種目でも世界と戦えることを証明し続けられればいいなと思う」
 「子どもたちに今すぐやり投げを始めてほしいとは思っていない。いろんなスポーツをやる中で、陸上の投げる種目も一つの選択肢として頭に残るようにはしたいなと思っている」
 「パリでは8万人が入る競技場がほぼ満席。声援の威力がすごかった。来年もたくさんの人に見に来てもらいたい。東京で世界陸上があるというのはすごくモチベーションになる。最大で4人出られる可能性があるので、日本のやり投げの存在感を出せたらいい。日本の皆さんが観客の割合を多く占める中で、金メダルを取りたい」


金メダルを獲得し、鐘を鳴らす北口榛花選手=8月10日、パリ郊外(ゲッティ=共同)

 ―4年後には陸上では日本人初の五輪2連覇が懸かるロサンゼルス大会も控えている。
 「成功しても失敗しても、自分の思い通りに準備して臨める4年間にしたい。今季はシーズン序盤から調子が悪くて、いろんなことを考えて試合に臨まないといけない状態がずっと続いている。今季のようなことがないように、自分でいろいろと考えながらトレーニングをして、4年間積み重ねていきたい」
 「元々やっていた水泳やバドミントンなど、陸上以外の動きをよりトレーニングに入れながら鍛えるのがいいかなと考えている。バドミントンは一人ではできないので、テニスの壁打ちとかも取り入れていけたらいい」
 「チェコに来たばかりの19年3月に(世界記録保持者の)シュポタコバさんと1度一緒に練習をした。『他の人と全部が同じじゃなくていい』と言ってもらえたし、自分の長所は生かすべきだと思う。いいところはなくさないようにトレーニングしていきたい」
 
 ―金メダルのご褒美に自分に何をあげたいか。
 「とにかく日本のおいしいご飯が食べたい!という気持ち(笑)。あとは、地元の北海道旭川市に帰った時に、好きなラーメンをいっぱい食べたいです」

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