「暑くて寝苦しい」「何日も過ごすのは…」。エアコンなしの体育館で避難所を疑似体験 コイン式シャワーや段ボールベッド、関連死防ぐための工夫と課題
47NEWS / 2024年9月14日 10時0分
日中に36度を超えた体育館は、夜になっても温度が下がらない。だが、ここにエアコンはない。段ボールベッドは安定感はあるものの硬く、寝返りをするたびに目が覚めた。寝苦しさを訴える人もいる。この環境で何日も避難生活を送ることはできるだろうか―。 7月下旬、大阪府八尾市の小学校体育館で、大規模災害の発生を想定した避難訓練が行われ、記者も参加した。電気や水道は使えるが、暑さ対策は扇風機やスポットクーラーがあるだけ。全国の公立小中学校にある体育館の冷房設置率は約1割というから、決してあり得ない環境ではない。
地震や台風、豪雨といった災害は、暑さを避けてはくれない。そして避難した後、環境変化のストレスなどによって起きる災害関連死を防ぐことは重要だ。組み立て式のシャワーや計算された高さの段ボールベッドといったさまざまな工夫を体験しつつ、課題を探った。(共同通信=河添結日)
▽お腹は膨れるけど・・・
訓練が行われた大阪府八尾市の小学校体育館
訓練は避難所・避難生活学会が主催し、7月27~28日に1泊2日で実施した。参加者は、被災者を支援する自治体職員や医療従事者、研究者ら約70人。室内の気温は夕方でも36度を超え、もわっとした熱気がこもっていた。
夕食に提供されたのは、水やお湯を注ぐだけでいいアルファ化米が5種類。食べるときは、実際の被災地の避難所でよく見られるように、床に座って食卓がない環境で食べた。
味付けはひじきご飯などで食べやすかったが、食感はパサパサしていて、食べ進めるうちに物足りなくなった。「お腹は膨れるが、気持ちは満たされづらい」。記者が感じたことは、大阪府災害対策課の大井祥之(おおい・よしゆき)さん(35)も同じだったようで、思わず「これが毎食だったらつらいな」とこぼしていた。
床に座って夕食のアルファ化米を食べる訓練の参加者ら
夜は組み立て式のシャワーを使って汗を流した。コイン1枚でお湯を5分間使える仕組みだ。お湯はいったん止めることもできるので、意外と十分な量だった。
組み立て式のシャワーの使い方を説明する「タニモト」の谷本年春会長
シャワーの隣には脱衣スペースがあり、プライバシーも確保されていて安心感があったが、日中は熱気がこもると暑いだろうと感じた。
コイン式温水シャワーを製造販売する「タニモト」(豊中市)の谷本年春(たにもと・としはる)会長(86)は「ビスを使わずに簡単に組み立てられ、コイン式にすることで水量の管理ができる」と語った。
▽高さ35センチに込められた工夫
就寝前には、参加者で段ボールベッドを約20台組み立てた。1つの箱の中に4つの小さな箱を敷き詰め、さらに、それを6個並べて1台のベッドにする。高さは35センチで、箱は避難生活に使う身の回りの物を収納できるようになっていた。
段ボールベッドを組み立てる参加者ら
この35センチというのは、起きるときにベッドから立ち上がりやすい高さを計算したという。避難所・避難生活学会の常任理事で、段ボールメーカー「Jパックス」(八尾市)の水谷嘉浩(みずたに・よしひろ)社長(53)は「直接床に寝ないことで、立ち上がりやすく、ほこりの吸引も防げる。掃除もしやすい」とメリットを強調した。
避難生活では「災害関連死」を防ぐことも大きな課題だ。災害関連死は、建物の倒壊や津波などが原因で亡くなる「直接死」とは別に、避難生活や環境変化のストレスから体調が悪化して亡くなり、災害が原因と認められるものを指す。2016年の熊本地震では、熊本県内における災害関連死が200人以上で、直接死の4倍超となった。
避難所で過ごす上で、いかにストレスを少なくするか。シャワーやベッドには、作り手の工夫が込められていた。
▽出入り口付近は涼しい、でも扉を開け放していて大丈夫?
就寝時間の午後11時でも気温は30度を下回らず、湿度も70%以上。参加者は各自、段ボールベッドや床に敷いたマットを利用して眠りについた。記者は段ボールベッドで寝たが、想像していたよりしっかりとした安定感。ただ、固くて沈まないので、寝返りを打つ度に目が覚めた。
組み立てられた段ボールベッド
寝る場所によって暑さの感じ方が異なり、寝苦しさを訴える人もいた。体育館の屋内外で、気温と湿度などから算出する指標「暑さ指数」や気温などを測定した計測健康啓発協会の望月計(もちづき・けい)代表理事(55)によると、夜間の暑さ指数が、屋内の場所によって差があった。「出入り口付近の風通しのよいところは涼しいという声があった。夕方には西日の影響で暑かった場所もあったので、遮蔽するなど対策が必要だ」
文部科学省によると、全国の公立小中学校にある体育館の冷房設置率は2022年9月時点で11・9%。災害発生後に緊急で整備するとしても、作業には数日~数週間はかかるとみられる。研究で参加していた信州大4年の倉橋大海(くらはし・ひろみ)さん(22)は「実際の避難で何日もの間、日中も寝るときも体育館で過ごすと考えたら暑くて大変」と疲れた表情を浮かべた。
見えてきた課題はほかにもある。就寝中は体育館の扉は開放された状態だった。少しでも涼しい空気を入れるのが目的だが、武庫川女子大学の竹本由美子(たけもと・ゆみこ)准教授(47)(繊維材料学)は「今は訓練だから安心しているけど、これが本当の避難所だったら不安」と防犯面の課題を指摘した。
中京大の松本孝朗(まつもと・たかあき)教授(65)(環境生理学)は「災害時には、炎天下でも日中に自宅を片付けに行く人や避難所で過ごす高齢者もいる。両者への対応が必要だ」と話した。
▽工夫でレベルアップ
テーブルと椅子で、アルファ化米で作った朝食を食べる参加者ら
翌日の朝食は、アルファ化米をアレンジした料理が出され、テーブルと椅子で食べた。ひじきご飯とシチューのルーを使ったドリアや、山菜おこわを焼きおにぎりにして出汁をかけた茶漬け―。整った環境での一手間加えたメニューに、参加者の間に、笑顔と会話が生まれていた。
「被災者には元気を出してもらわないと生活復旧はできない。だから、おいしい食事を食べてほしい」と水谷さん。非常食を単に提供するだけではなく、そろえられる食材で工夫した料理を提供できれば、心身ともに栄養になると感じた。
訓練の最後には、気づいた課題や対策について意見交換した。
「常温の水だけだと暑くて飲む気持ちにならない」
「床に寝たが、夜中にトイレへ行く人が通るたびに足音や振動が気になった」
「人によって就寝時間が違うのでルール作りが必要だ」
さまざまな声が上がった。
訓練を終えた、東大阪市危機管理室の田島佳郎(たじま・よしろう)室長(53)は「工夫すれば避難生活がレベルアップできると感じた貴重な体験だった。今後の運営に生かしたい」と真剣な表情で話していた。
避難所・避難生活学会の水谷さんは「ライフラインを止めずに制限しているだけの環境でも、これだけ厳しい。実際の避難所はどれだけしんどいか。支援者側として避難生活を疑似体験でき、どういうサポートが必要か気づきが得られた」と、汗を拭いながら意義を語った
▽編集後記
訓練中、記者が蒸し暑さに思わず床で横になって休憩していると、「大丈夫ですか」と明るく声を掛けてくれる人たちがいて、元気が湧いた。避難者同士で相手の顔色を見て声を掛け合い、体調を気遣うことも、厳しい避難所生活では大切だと感じた。
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