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脅してもすかしても動じぬ台湾、加速する中国離れ 焦る習近平氏、包囲網演習は常態化【中国の今を語る④】

47NEWS / 2024年9月24日 10時0分

インタビューに応じる林泉忠・東京大特任研究員

 「台湾統一を目指す中国の習近平指導部が、2024年5月に発足した台湾の頼清徳政権への『懲罰』措置を連発している。頼総統の就任演説を『台湾独立の自白』と断じ、直ちに台湾を包囲する軍事演習を実施。6月には『独立派による国家分裂行為』を処罰する司法手続きの指針を発表し、即日施行した。演習を今後『常態化』させ、あらゆる分野で圧力を強めていくだろう」
 中国と台湾の双方を研究拠点にしていたこともある国際政治学者、林泉忠・東京大特任研究員が〝台湾有事〟の現状と見通しを分析した。(聞き手・共同通信中国総局 花田仁美)

 ▽蔡英文路線を継承


就任式典で演説する台湾の頼清徳新総統=5月20日、台北の総統府前(撮影・武隈周防、共同)


 頼氏は演説で中台関係について蔡英文前政権の路線を継承し、統一も独立も求めない「現状維持」を訴えた。


就任式典に臨む台湾の蔡英文前総統(左)と頼清徳新総統=5月20日、台北の総統府前(撮影・武隈周防、共同)

 蔡前総統は2期8年の任期中、忍耐強い態度で中国に相対し「台湾問題の国際化」に成功し、米国から厚い信頼を得た優れたリーダーだった。
 民主進歩党(民進党)には、かつての陳水扁政権が独立志向を強め、米国の支持を失った苦い経験がある。頼氏は蔡氏路線を踏襲するしかなく、米国もまたそれを望んでいるというのが大方の見方だ。実際に頼氏は外交・安全保障を担う政権幹部を蔡前政権の中枢メンバーで固め、米国の不安払拭に努めた。

 ▽台湾「管轄権」奪う


格納庫を出る中国軍の軍用機。東部戦区が5月、軍事演習の一場面として「微博(ウェイボ)」で公開した(共同)

 だが頼氏は現状維持を表明したとはいえ、中国を標的にしすぎた。「台湾を併合する中国のたくらみが消えることはない」「中国に言論での威嚇や武力挑発をやめるよう求める」「中国からの脅威や浸透に対し、国を守る決意を示さなければならない」―。うなずく支持者も多いだろうが、中国に選択の余地を与えない柔軟性を欠いた演説だった。そこが慎重な蔡氏と異なる。中国は過去2回の蔡氏の就任時に演習に踏み切ってはおらず、今日に至るまで蔡氏を「独立分子」と決めつけてはいない。
 もちろん今回の演習「連合利剣―2024A」は頼氏の就任前から準備されていた。Aの後にB、Cと続くことは想像に難くない。習指導部は依然として軍事威嚇が「台湾独立派」をたたくのに有効な手段と考えている。


中国軍の東部戦区が5月、「微信(ウィーチャット)」公式アカウントで公開した台湾周辺などで始めた軍事演習の地図(共同)

 今回の演習には海警局の艦隊も組み込まれた。海警局は今後、金門島や馬祖島など大陸に近い台湾の離島周辺で巡視を強化し、台湾の「管轄権」を徐々に奪おうとするだろう。

 ▽日常茶飯事


中国軍事演習をよそに、台湾立法院での野党主導の法案審議に抗議する人々=5月、台北(中央通信社=共同)

 軍事以外の分野でも圧力を強めるのは確実だ。中国政府は5月末、台湾から輸入する機械や化学製品などの134品目に対する関税優遇措置を停止すると発表。これまで「頑迷な台湾独立分子」をリスト化し台湾の政治家らの中国入国禁止など「制裁」を公表してきたが、今後その対象はメディア、教育、学術界に及ぶかもしれない。処罰指針施行を受け、頼氏ら政治家を一方的に訴追する可能性もある。
 もっとも台湾人にとって中国の威嚇は「日常茶飯事」で響かず、危機感はあまり強くはない。
 習指導部には民進党の長期政権が続き両岸交流が遮断されれば、中国離れが加速するとの危機感がある。4月に対中融和路線の野党、国民党の馬英九元総統の訪中を受け入れ、習国家主席自ら若者交流の必要性を訴えたのはその表れだ。頼政権との対話は拒否しても、民間交流は時機を見て段階的に再開させるのではないか。
 習指導部が台湾融合を図るために打ち出してきた優遇政策はうまくいっていない。中国に行く若者が少ない上に、経済低迷で大陸の魅力が低下しているためだ。国民党への厚遇は民進党を揺さぶる狙いがあるが、台湾民意を引き留めるため中国が国民党を必要としている側面もある。習指導部は馬氏を2005年に共産党の胡錦濤総書記(当時)と60年ぶりの「国共トップ会談」を行った国民党の連戦主席(同)の後継者と位置付け、中台の「架け橋」として年に1度の訪中を定例化させる可能性が高い。

 ▽小さき者の知恵


台湾の馬英九元総統(左)と握手する中国の習近平国家主席=4月、北京の人民大会堂(新華社=共同)

 ただ国民党は台湾の若者に人気がなく、党内部でも馬氏訪中には異論がある。国民党を通じた交流の効果は「やらないよりはいい」という程度で限定的だ。
 中国は平和統一を目指すとしながら武力行使の可能性を放棄していない。現時点では「雷声大雨点小(雷鳴は大きいが雨は少ない)」で、かけ声に過ぎないものの備えは必要だ。
 中国は大きく、台湾は小さい。頼氏には中国につけ込まれないよう「小さき者の知恵」が求められる。

   ×   ×   ×
 林泉忠氏(りん・せんちゅう) 中国・アモイ出身。1978年に香港に移住。1989年に訪日し、2002年に東京大大学院で法学博士号を取得。琉球大准教授や台湾中央研究院副研究員、中国の武漢大国際問題研究院教授などを経て、2024年4月から東京大東洋文化研究所特任研究員。専門は国際政治学で、中台関係のほか沖縄・香港・台湾のアイデンティティーについても研究。

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