島根県知事、廃線危機のJRローカル線の存続「社会的な約束だ」 経団連の消費税引き上げ提言に「世も末だ」と反発
47NEWS / 2024年9月22日 10時30分
島根県の丸山達也知事は共同通信のインタビューに応じ、島根県内などを走る木次線の利用者が特に低迷している区間のあり方を協議したいとするJR西日本に対して「受け継いだ路線を維持していくのが社会的な約束だ」と廃線を検討する動きをけん制した。一方、経団連の税制改正に関する提言で消費税引き上げに言及したことには「少子化を悪化させかねない。世も末だ」と反発した。(共同通信=白神直弥)
▽私鉄とは違う
1987年の日本国有鉄道(国鉄)の分割民営化を受けて、98年に旧国鉄の債務24兆円が国の一般会計に承継された。
丸山氏は「国民に借金を減らしてもらって民営化した」のを踏まえると、JR西日本などの路線存廃を「私鉄と同じように単純な経営問題と考えるのはおかしい」と指摘した。
JR西日本は今年5月、木次線のうち1キロ当たりの1日平均乗客数(輸送密度)が2023年度に72人と低迷している出雲横田(島根県奥出雲町)―備後落合(広島県庄原市)間の29・6キロのあり方を沿線自治体と議論したいと表明した。丸山氏は議論では廃線を前提としないという「受け止めで対応を検討する」と強調した。
島根県がある中国地方でも道路整備が近年進み、マイカーへの移行が鉄道の逆風となっている。丸山氏は「利用者が減ってきているのも事実だ」としつつ、「子どもや免許返納者などがおり、車の利用とバランスを取って(鉄道を)残していかなければならない」と訴える。
JR西日本は、利用者数が低迷していた三江線を2018年に廃止した。備後落合で木次線と接続する芸備線のうち、備中神代(岡山県新見市)―備後庄原(広島県庄原市)間の存廃を話し合う国の「再構築協議会」が今年3月に全国で初めて設置されている。こうした動きを受け、自治体関係者からは「JR西日本は路線廃止を加速させようとしている」と警戒する声も出ている。
丸山氏は木次線などの見直しについて「路線を維持する社会的責務がJR側にあるというところからスタートしなければならない」と言及。その上で、一切の事情変更を認めないわけではなく「試行錯誤しながら決めていかないといけない」とも話した。
JR木次線を走るディーゼル車両=2024年9月1日、島根県奥出雲町
▽JR西日本の株式取得は「難しい」
岡山県真庭市がJR西日本の株式を取得し、株主として発言力を高める方針を打ち出したことには「影響を与えるには相当な株式を持たなければならず、現実問題として難しい」との認識を示した。背景として「変動する資産を大規模に保有することに県民の理解は得られるのか課題はある」と語った。
また、新型コロナウイルス禍で利用者が減った赤字ローカル線の運行本数を削減するダイヤの見直しが相次いだことには「ローカル線全体をフェードアウトしていく(マイナスの)効果」があるとみる。今後も「病院や学校に行くには便数が少なすぎて使えないといった、利用者が逃げるダイヤ改正が進まないか警戒しなければいけない」と強調した。
国鉄の分割民営化でJR旅客6社とJR貨物の計7社に分割されたことについては、人口減少を背景に業績不振に陥っているJR北海道やJR四国の苦戦を念頭に「(7社にする分け方は)うまい結果にならなかった」と指摘した。
JR木次線の出雲横田駅=2024年9月1日、島根県奥出雲町
▽中間層疲弊
丸山氏は、経団連が昨年発表した2024年度税制改正に関する提言で、社会保障制度の維持のための財源として消費税の引き上げを「有力な選択肢の一つ」としたことに「中間層を疲弊させ、実質所得を下げていく」と反発した。消費税を引き上げれば「少子化を悪化させかねない。世も末だ」と苦言を呈した。
上場企業の決算が好調なことを踏まえ、(税の)負担能力がある大企業の業界集団である経団連が、(消費税で)個人に負担を求めれば良いとする姿勢は、「日本人の所得水準を下げていくことを良しとしている」と非難した。その上で、「日本社会や経済はどうでもよくて、経団連に加盟している会社にとってこれが一番(都合が)良いということを言っている」と強調した。
JR西日本が木次線で2023年11月まで走らせていたトロッコ列車「奥出雲おろち号」=19年5月1日、松江市
▽財界総理の呼称「誤解の域」
経団連会長は影響力から「財界総理」とも呼ばれるが、丸山氏は、日本経済全体を俯瞰(ふかん)してベストチョイス(最も良い選択)がこれだと言ってくれる人、などと扱うことは「誤解の域に達している」と首をかしげた。経団連会長は「パーシャル(一部分)しか代表してないということでいけば、(日本)医師会などの会長が言っているのと変わらない」と主張した。
ただ、「メザシの土光さん」と呼ばれ、増税なき財政再建を掲げて政府に行政改革の断行を迫った経団連第4代会長(1974~1980年)の土光敏夫氏らは戦後復興を経て、経済大国にした立役者だと評価した。その上で、「同じ扱いを(現経団連会長の十倉雅和氏ら)現在の(財界)人たちにするのは適当ではない」と強調した。
丸山氏は「(財界の)人たちの意見だけを聞いて良いのか。政治が考えないといけない」とも指摘。「あなたがたはそれで良いのかもしれないが、他の人は困るから半分くらいしか聞きませんよというふうに(政治家)はしないといけない」と語った。
経団連の十倉雅和会長=2024年5月31日、東京・大手町
▽人口は半分に
丸山氏は「給料を10倍もらう人が子どもを10倍持つことはない」と高所得者に所得を集中させても人口は増えないと指摘。消費税引き上げで中間層が疲弊すれば少子化にも拍車をかけかねないと憂慮した。「生活が厳しいので子どもを2人持ちたかったけど、1人にしているとか、結婚自体を諦めている」といった現状があるとし、「(経団連側が)ご存じないのかも知れない」と皮肉った。
女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は、2023年に過去最低の1・20に落ち込んだ。
丸山氏は「親から子どもに代が変わったら人口は半分になる」との認識を示し、「厳しい国際環境の中で生き残っていけるのか。国家の存立に関わる(出生率に)なっている」と危機感をあらわにした。
JR三江線の運行最終日、大勢の人に見送られる江津駅発の最終列車=2018年3月31日、島根県江津市
【丸山達也(まるやま・たつや)氏】1970年生まれ。東京大学卒。総務省職員、島根県政策企画局長などを経て2019年4月から現職。現在は2期目。福岡県出身。
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