加藤シゲアキさん「戦争の中でも人が生きていること、忘れない」 秋田の空襲描いた小説「なれのはて」、執筆に覚悟【つたえる 終戦79年】
47NEWS / 2024年9月17日 10時30分
アイドルグループ「NEWS」のメンバーとしても活動する作家の加藤シゲアキさん(37)は、日本最後の空襲の一つとされる秋田市の土崎空襲をテーマに据えた小説「なれのはて」を2023年に出版した。戦争を扱った作品を執筆するまでの経緯や葛藤、平和への思いを語ってもらった。(聞き手 共同通信=上脇翠)
▽出生地の広島への思い、物語にする難しさ
広島で生まれ、幼少期に大阪へ引っ越したんです。戦争とは違うかもしれませんが、そこで阪神淡路大震災を経験し、当たり前の日常がすごく尊いものだと思った記憶があります。
広島で過ごしたころのことをあまり覚えておらず、「広島だから」と仕事をもらうことに罪悪感があったため、デビュー後はあまり出生地について言っていませんでした。
しかし、「それでもいい」と広島の方からオファーをいただき「僕にも力になれることがあるのだ」という考え方にだんだん変わっていきました。
広島での仕事で、被爆者の話を聞く機会が増えていったことや、年齢を重ねたことで、次第に戦争が遠い話ではないと実感するようになりました。
作家として広島に呼ばれ「いつか広島をテーマに戦争の話を書いてくださいよ」と言っていただくこともありましたが、原爆については既に幅広く作品が発表されており、物語にする余白を探し出すのは難しいと感じていました。
一方で、戦争は広島や長崎の原爆や、東京大空襲など、多くの人が知っている場所だけでなく、日本中であったのではないかと考えるようになりました。
父方の岡山の祖父が予科練に入っていたことは聞いており、エッセーで書いたことがありました。書いていなかったのは、母の地元の秋田。親族に戦争の話を聞くのは、なかなか難しいと感じており、「作品を書くから」という理由があれば、話すきっかけになるとも思いました。
▽戦争をコンテンツにする悩みと作家としての覚悟
空襲の目標となった秋田市内の製油所=秋田市提供
軽い気持ちで、「秋田 空襲」などとインターネットの検索窓に入れて調べてみると、日本最後の空襲の一つとされる土崎空襲が表示されました。
1945年8月14日深夜から翌15日未明まで、秋田市の製油所を中心に続いた空襲です。読んだ瞬間に「あと1日早く降伏していれば」と思い、物語になると感じました。
石油に由来する空襲で命が失われたということは、そこには人々の引き裂かれた思いがあるんですよ。石油があったからこそ地域は潤ったけれど、その一方で失うものも大きかった。僕が小説で書こうと思うのは、そのような人々の引き裂かれた気持ちなんです。
戦争をエンターテインメントのコンテンツにして良いのかというのは、すごく悩みました。
それこそ、20代のころ、戦争について知れば知るほど、戦争の映画を見て楽しんでいる自分に葛藤したんです。戦争の苦しみや痛みを描いている作品でも、興奮したり、感動したりするじゃないですか。
戦争を扱っている作品というのは優れたものばかりではなく、その映画が描いているテーマについて調べてみると、こういう描き方はまずいのではないか、戦争賛美になってはいないか、と思うものもありました。
そのため、戦争について書くという発想がそもそもなく、より詳しい人がすればいいと思っていました。
ただ、作家として年齢を重ね、直木賞候補にもしてもらい、責任を伴うようになってきて、社会性から逃げているのは、それはそれで甘えているなと思いました。
また、土崎空襲を知った上で書かないことにもすごく葛藤がありました。作家としての責任から逃げず、覚悟を持って、たとえ非難されたとしても書くべきと考えて執筆したのが、2023年に出版した「なれのはて」でした。
▽犠牲者にもそれぞれの人生、心の奥を描きたい
土崎空襲後に撮影された秋田市内の様子(秋田市提供)
出版前の2023年8月に秋田へ行かせてもらい、祖母に戦争の話を聞きました。
印象に残っているのは、祖母の家が建具屋をしており、戦後はアメリカの軍人から製作依頼を受けていたという話です。
空襲の恨みで、アメリカ人を許せないという気持ちになるのかなと思っていましたが、割と普通にやりとりをしていたそうです。もちろん金銭的な理由かもしれず、当時の曽祖父の気持ちは分かりません。
しかし、国を憎んで人を憎まずではないですが、アメリカとアメリカ人は別で、もっと言えば、アメリカ人の中にもいろいろな人がいて、それは当然日本人もそうです。最後は人と人の関係になるのかなと想像して、心に残りました。
戦争は一度始めてしまうと、戦争自体が人格を持って動くようなところがあり、ブレーキを踏めないんです。
そして大きな犠牲を払うことになります。対話をして戦争を起こさないことが大事だと思います。
戦争の犠牲者は、亡くなった方の一部のように片付けられてしまいます。その人たちにもそれぞれの人生があったはずなのに。
だから小説では、犠牲者名簿に名前のあるその一人にフォーカスしていきます。心の奥の奥にどんな思いを持っていたのだろう、と考えるんです。「なれのはて」で描きたかったのは、戦地にも人間がいるということです。
戦地でも人は生きているという当たり前のことを、忘れたくないし、書きたいし。それが伝わったらうれしいなと思います。
▽「二元論で話すのはやめよう」平和は他者を理解することから
戦争をしないためには、相手を理解することが必要だと思います。
どの国も歴史が違うので、摩擦があったり、単純に共感することが難しかったりするのかもしれません。それでも、理解しようとする姿勢が大事だと思います。
2020年代に戦争が頻発しているのは、本当に胸が痛みます。僕もウクライナとロシアの関係を調べ、戦争について考えることがあります。
たまに「どっちが悪者なの」と聞かれますが、二元論はすごくまずい。「まず二元論で話すのはやめよう」と伝えています。
彼らが何に怒り、何を求めているのか、何を守っているのか。歴史を学び、他者を理解していくしかありません。
加藤シゲアキさんの小説「なれのはて」(講談社)
自分ができることは限られていると思いますが、NEWSの一員として思うのは、エンターテインメントはすごく重要だということです。
人を楽しませる人間的に豊かな営みは、この世界を守りたいと思う平和への願いへつながっていくと思います。
作家としては、作品で人間を描いていくことが、平和につながるといいなと思います。できることを一生懸命、優しさを持ってしていきたいです。
× × ×
かとう・しげあき 1987年、広島市生まれ。2003年に男性アイドルグループ「NEWS」としてデビュー。12年に「ピンクとグレー」を出版し、作家としても活動している。
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