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「痴漢は犯罪です」もう泣き寝入りしない、女子生徒の決意から生まれた缶バッジ 10年間配布してきた松永さんが話す「被害者でも加害者でもない、あなたにできること」

47NEWS / 2024年9月30日 10時0分

痴漢抑止目的の缶バッジ

 「痴漢は犯罪です 私たちは泣き寝入りしません」。松永弥生さん(59)は10年間、こうした痴漢抑止を目的とした缶バッジを製作し、希望者らに無料で配布してきた。

 松永さん自身も痴漢に遭った経験があったが、当時は周囲に相談することはなかった。

 「自分が警察に被害届を出さなかったから」。一向になくならない痴漢。黙殺してしまった自分にもその責任の一端があるのではないか、とさえ思っている。どうすれば社会から痴漢がなくなるのか―。松永さんは一般社団法人「痴漢抑止活動センター」を設立し、学生らを巻き込んでバッジ製作を始めた。きっかけは、ある女子高生の経験を耳にしたことだった。(共同通信=丹伊田杏花)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

 ▽手作りのカード
 約10年前。女子生徒は高校入学直後から、通学電車で度々痴漢に遭っていた。2年生になり、「今日はもう我慢しない」と決意し、勇気を出して自分で犯人を捕まえた。

 痴漢されたら声を上げることはできたが、「そもそも痴漢に遭いたくない」。思い悩んだ末、母親と相談し、「痴漢は犯罪です」と書かれた手作りのカードをカバンに付けた。すると、ぱったりと被害がなくなった。


バッジのモデルとなった手作りのカード

 ▽忘れていた自身の痴漢被害
 女子生徒の母親が、痴漢で悩む誰かの参考になればと、カードを付けるようになった経緯をSNSにつづった。元々、母親と知り合いだったという松永さんはSNSを見て、自分がかつて受けた被害を思い出したという。

 「8歳から20歳頃まで電車で何度か痴漢に遭っていた。体を触られたら手で払ったり、自分のカバンで防御したりしたが、慣れもあって被害届を出さなかった。当時の私に、彼女のような知恵と勇気もなかった」

 「たった一人でカードを付けて戦った彼女をひとりぼっちにしたくない。被害者は彼女だけではなく、他にもいるはず」


一般社団法人「痴漢抑止活動センター」代表理事の松永弥生さん=7月、大阪市

 松永さんは2015年、「痴漢は犯罪です」と書いた女子生徒の手作りカードをモデルに缶バッジを考案。2015年はデザインをインターネットで募集し、2016年からは学生対象のコンテスト形式にした。

 性犯罪を許さない社会を目指す活動を本格化させようと2016年、痴漢抑止活動センターを設立。現在は松永さんを含めた6人が中心となり、若者向けの防犯講座をしたり、痴漢に関する防犯教育ができるような教材を作成したりしている。


痴漢抑止目的の缶バッジ

 ▽痴漢抑止バッジ、効果は?
 コンテストは今年で10回目を迎えた。これまで約7千点の応募があり、3、4割は男子学生から寄せられた。最優秀賞、優秀賞などに選ばれた5点を製品化する。

 2023年に最優秀賞に選ばれたのは、制服姿の女子高校生がこちらを指さしているデザイン。「いつでも見ている」との意味を込め、加害者が人混みに紛れてもずっと見ていることを訴えた。2021年の特別審査員賞は「相手が誰でも痴漢はダメ」。性別問わず被害に遭う可能性があることを表現したという。

 実際に被害者の話を聞いてからバッジをつくる人もいる。利用者からは「バッジを着けてから痴漢されることがなくなりました」といった声も届く。

 参加対象は中学生以上の学生だ。松永さんはその理由を「若い頃に痴漢の実態を知ることが重要。そうした経験を持つ大人が増えれば、社会全体が痴漢について真剣に向き合えるようになると思う」と話す。


バッジを身に着けた人から届いた声

 ▽被害増加も「氷山の一角」
 新型コロナウイルス禍で一時は減少した痴漢だったが、日常が戻り始めると、徐々に増えている。

 警察庁によると、都道府県条例に違反した痴漢摘発件数は2019年に2789件だったが、コロナ禍となった2020年は1915件と減少。2021年も1931件だったが、行動制限が緩和された2022年は2233件に増加し、2023年も2254件だった。


迷惑防止条例に違反した痴漢の摘発件数

 しかし、こうした摘発件数は「氷山の一角」と松永さんは言う。7月に公表された内閣府調査では、これまでに受けた痴漢被害について回答者の約3割が「どこにも相談しなかった」と答えた。

 警察庁で犯罪被害者支援に携わったことのある追手門学院大の桜井鼓教授は「煩雑な刑事手続きや、学生であれば親や学校を巻き込むかもしれないなど精神的、時間的負担を考えて、相談をためらうケースもある」と分析する。

 内閣府調査のアンケートには「警察などに被害を話した時に、理解があるか気にする人も多い」とのコメントも寄せられた。桜井教授は「対応する警察官によって差が出ないように、性被害者特有の心理を理解する必要がある」と指摘。その上で、「許可なく触られたときに『嫌です』と声を上げることを学校教育で教えていくことが大切だ」と訴える。


警察庁が作成したパンフレット

 ▽社会全体でできること
 内閣府アンケートにはこのような被害者の切実な声が並ぶ。

 「知らない異性が近くにいると吐き気を催し、心拍数の上昇やめまいなどが頻繁に起こる」

 「加害者に『何年たっても、その瞬間の記憶は薄れない。トラウマになっている』と伝えたい」

 「被害者の話を否定しないでほしい」

 松永さんは「痴漢は、する側が100%悪いのであって、被害者は何も悪くない」と訴える。

 最近では髪のにおいをかぐ、空席なのに隣に密着して座るなど一見判断し難いケースもある。そんな場合でも「3回続いたら偶然ではなく痴漢だ」と言い切る。

 警察庁の統計によると、痴漢の発生場所は列車や鉄道施設内が約半数を占める。「駅構内だけではなく、電車の中にも『痴漢は犯罪です』といったポスターを貼ってほしい」と訴えている。

 松永さんは「被害者でも加害者でもない私たちにできることがある」と言う。「目撃した第三者が被害者に『大丈夫ですか』と声をかけたり、加害者に注意したりするなど、一人一人が周囲に目を配ることで、痴漢をさせない環境を社会全体でつくっていくことが重要だ」。


警察庁が作成したパンフレット

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