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3頭身で描く「野ざらしの死」…漫画家の武田一義さん、激戦の島が舞台 「体験せずになぜ描ける」。生還者からの問いに感じた責任とは【つたえる 終戦79年】

47NEWS / 2024年10月8日 10時0分

インタビューに答える武田一義さん

 太平洋戦争末期の激戦地で、日本軍が玉砕したことで知られる南洋・パラオのペリリュー島。この島を舞台にした漫画「ペリリユー 楽園のゲルニカ」は2016~21年、漫画誌「ヤングアニマル」で連載された。3頭身のかわいらしいキャラクターで描かれた「戦場のリアル」は、若い読者にも受け入れられ、広く読まれた。作者の漫画家武田一義さんも戦後世代。どのような思いを作品に込めたのか聞いた。(聞き手 共同通信=兼次亜衣子)

 ▽戦場にいたのは、僕らと変わらない「普通の人」だった


 極限状態に置かれた人間を深く描けると思い、戦争というテーマに興味がありました。最初のきっかけは戦後70年の2015年、戦争をテーマにした読み切り漫画を描いたことです。その後、連載が決まり、当時の天皇、皇后両陛下(現上皇ご夫妻)が慰霊で訪問していたことから、ペリリューを舞台にすることも決まりました。


戦後70年の慰霊の旅で、パラオ・ペリリュー島を訪れ拝礼される上皇ご夫妻=2015年4月

 連載に当たり、生還者を取材した太平洋戦争研究会主宰の平塚柾緒さんに原案者になってもらいました。僕自身も資料を読み込み、生還者に取材。ペリリュー島現地にも足を運びました。戦争を知らない自分が描く責任は、ずっと感じています。
 作品の中で心がけたのは、今生きている僕らと変わらない「普通の人」を描くこと。島にいた兵士たちはけんかもすれば恋もする、夢だってある。戦場で彼らが食べたいものの絵を描いたり、故郷のことを語り合ったりする“日常”を意識して切り取りました。
 一方で、尊厳なく命が奪われる「野ざらしの死」からも逃げたくなかった。人の体が飛び散るような残酷な場面もありますが、3頭身のキャラクターでデフォルメした絵だからこそ伝えられた部分があると思います。

 ▽米兵を殺した…つぶやいた声は、消え入りそうだった


漫画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」ⓒ武田一義/白泉社

 生還者への取材では、戦争の傷は今も地続きで残っていると思い知らされました。
 取材したある生還者は、米軍の攻撃から命からがら逃げたエピソードをユーモアたっぷりに語ってくれました。一方で、自身が米兵を殺したという話は消え入りそうな声でつぶやきました。
 別の生還者には「あなたは戦争を体験していないのに、なぜ漫画が描けるのか」と問われたことがあります。「島で死んだ1万人の兵士への責任があるので、あなたに協力できない」とも。自分の中で、とても大きな言葉でした。

 ▽いとも簡単に始まるのに、終わらせるのは難しいのが戦争


ペリリュー島=2015年3月

 作品では、日米両軍の戦闘だけでなく、1945年8月の敗戦後も島で戦い続けた日本兵の姿も描きました。どうしても伝えたかったことの一つが、いとも簡単に始まっても、終わらせるのは難しいのが戦争だということ。それは、ロシアのウクライナ侵攻や中東で激化する戦闘など、今の国際情勢を見ても明らかだと思います。

 ▽語り継いでいく大きな輪に


武田一義さん

 2021年までの連載中に、取材相手が亡くなりました。戦争体験の継承を意識して描き始めたわけではありません。でも、僕はもう当時者の思いを知っている。語り継いでいく大きな輪に、僕も入り込んだことになったと自覚しています。
 連載終了後は、米兵や島民のエピソードを取り上げた「外伝」を手がけています。若い読者が手に取りやすいのが、漫画の強み。戦争や平和について考える入り口となるような作品を、今後も描いていきたいです。
    ×    ×    ×
 たけだ・かずよし 1975年、北海道生まれ。「ペリリュー」で、第46回(2017年度)日本漫画家協会賞優秀賞。

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