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不法移民に「みかじめ料」を払い、不法労働で稼ぐ。それでもメキシコは祖国よりましだ 背後には犯罪組織?「無法地帯」で見た現実と埋めがたい格差

47NEWS / 2024年9月19日 10時0分

テントが並ぶ「ソレダー教会」前の広場=6月、メキシコ市(共同)

 「この国で家族と暮らしたい」。まだ3歳の娘を祖国・ハイチに残してきた男性は、過酷な旅路の果てにこう語った。
 ここはメキシコ。中南米からの移民の目的地といえばアメリカのイメージが強く、実際にアメリカを目指す人は後を絶たない。一方で、以前はただの「経由地」とみなされていたメキシコでの定住を望む人が増えている。男性もその一人だ。


 アメリカとメキシコ両国による国境地帯の取り締まり強化や強制送還のリスクから米国入りが以前より難しくなっていることなどが背景にあるが、メキシコでの滞在許可取得の手続きが長引き、不法滞在が長期化するケースも目立つ。2024年6月、首都メキシコ市を訪れると、移民が別の移民に「みかじめ料」として金銭を支払っている実態があった。背後には犯罪組織の関与も指摘される。現地で垣間見た不法移民間の格差と、当局も手をこまねく「無法地帯」の現状を伝える。(年齢は取材当時、敬称略 共同通信ロサンゼルス支局 井上浩志)

 ▽並ぶテント、移民の生活拠点に


「ソレダー教会」前の広場=6月、メキシコ市(共同)

 大規模な市場があることで知られるメキシコ市の「ラ・メルセー」の周辺。どことなく不穏な空気が漂う。駐車のため公共駐車場に入ると、壁に大きく「小便禁止」と書かれているのが目を引いた。車を降りて鼻を突く臭いを感じつつ、出入り口を通って外に出て徒歩約10分。カトリックの「ソレダー教会」にたどり着いた。


「ソレダー教会」に隣接する公園=6月、メキシコ市(共同)

 教会前の広場や、隣接する公園にはテントが並んでいた。その数、500超。周囲を歩き回りながら中をのぞくと、ベッドやソファ、タンスまで置かれているテントもあった。長期にわたって滞在している様子がうかがえる。広場の一角に置かれたスピーカーからは、音楽が大音量で流れていた。公園内には屋台もあった。無料の炊き出しではなく移民が商売として営んでおり、「青空食堂」といった雰囲気だ。
 スピーカーの前でたむろしたり、屋台で食事を取ったりする移民の写真を撮りたかったが、同行してくれたメキシコ人助手や移民の支援者から「刺激しない方がいい」「撮るなら離れた場所から」と制止され、断念した。

 ▽「娘と暮らすため」


寝泊まりするテントの前に座るマキン・デスティン=6月、メキシコ市(共同)

 「目的地をアメリカから変えた」。広場にテントを置いて寝泊まりするハイチ人のマキン・デスティン(26)は、このままメキシコに住む決意だ。カリブ海にあるハイチは2021年にモイーズ大統領が武装集団に暗殺されて以降、政情不安が広がり、治安も極度に悪化。デスティンは2023年8月に妻のレイモンド・アリストス(39)と共に国を離れ、2024年2月ごろにメキシコ市に着いた。ハイチから飛行機で中米ニカラグアに向かい、そこからはひたすら歩いて北上したという。
 目的地を変えた最大の理由は、ハイチに残してきた娘(3)の存在だ。アメリカよりもメキシコの方が合法的に娘を呼び寄せやすいと知り、目的地をメキシコに変えた。北部の工業都市モンテレイに移り、妻とレストランを開くのが夢だ。


取材に応じるマキン・デスティン=6月、メキシコ市(共同)

 国際移住機関(IOM)が2024年1~3月、メキシコの南部国境付近で流入者に実施した調査では、46%がメキシコが目的地だと回答、51%のアメリカに続いた。前年の調査では、メキシコが目的地だと回答したのは9~53%だった。月によりばらつきはあるものの、メキシコはもはや「アメリカ行きの通過地点」ではない。ただ、滞在許可申請の手続きを行う人員が不足しているようで、専門家は滞在許可を得るのに数カ月を要するようになったと指摘する。アメリカへの移民希望者についても手続きの遅れが常態化しており、メキシコでの足止めを余儀なくされているという。

 ▽移民間の「みかじめ料」


マキン・デスティンが妻のレイモンド・アリストスと寝泊まりするテント。大小のテントを二重に置いた構造になっている=6月、メキシコ市(共同)

 滞在許可を得るための手続きを待つデスティンとアリストスは、不法労働に従事する。デスティンはハイチ人から紹介を受けて工事現場で働き、1日8時間、週6日の労働で週に2300ペソ(約1万8千円)ほどの収入を得ている。アリストスはテント前で軽食を調理して販売し、売り上げが好調な時の利益は週に2500ペソほど。2人ともメキシコの最低賃金である1日約250ペソは上回ることになる。
 その一方で、「1日50ペソ」をベネズエラ人移民に支払わなければならないという。一体どういうことなのか。
 その背景を教えてくれたのは、ハイチの公用語の一つ、クレオール語の通訳として同行してくれたジェプテ・レオン(42)だ。移民の中で多数派を占めるベネズエラ人の一部が、ハイチ人らが商売を営む場合に「場所代」として金銭を要求しているというのだ。レオンによれば、ベネズエラ人の一部は電気や水道を盗んで移民らに供給しており、移民らはその利用料も支払う必要がある。もし「場所代」の支払いを断れば電気や水道の利用も止められるため、生活インフラを維持するためには従わざるを得ない。
 ソレダー教会から1キロあまり離れると、「テピート」と呼ばれる治安の悪い地区がある。日本の外務省が「麻薬に関するトラブルや拳銃強盗・殺人などの凶悪事件が発生するなど犯罪の温床となっている」として、立ち入らないよう呼びかけている場所だ。他の移民から金銭を徴収するベネズエラ人は、ここに拠点を置く犯罪組織の関係者と結託している場合もあるという。
 移民問題に取り組む団体の連合体「移民アジェンダ」でコーディネーターを務め、不法移民や周辺住民への聞き取りを行うエウニセ・レンドン(45)も、移民間で金銭の徴収が行われていると語る。ただ犯罪組織の関与については「全体像が分からない」と述べるにとどめた。

 ▽高まる排外感情


6月、メキシコ市で取材に応じるエウニセ・レンドン(共同)

 レンドンは、広場や公園で過ごす移民の中には違法薬物の使用者がいて、暴力沙汰も起きていると説明した。「共生のための最低限のルールすらない」。周辺住民の間では外国人に対する否定的な感情が高まっているという。一方、不法移民の多くが目の前の生活のために不法労働に従事し、雇用者から足元を見られて低賃金や重労働で搾取されているとも指摘した。
 警察や行政は何をしているのか。こう問うと「責任を押しつけあっている」との回答。事実上、何もしていないとの見解だ。不法移民の長期滞在という「未経験の事態」を前に、政府は対処能力を欠いているようだ。


メキシコの次期大統領となるシェインバウム前メキシコ市長=6月、メキシコ市(ゲッティ=共同)

 メキシコでは2024年6月に大統領選が行われた。ロペスオブラドール大統領の路線継承を掲げる左派与党、国家再生運動(MORENA)のシェインバウム前メキシコ市長が勝利し、10月に大統領に就任する。レンドンは「不法移民を登録するなど最低限の管理を行い、労働力として位置付ける仕組みが必要だ」と注文を付けた。

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