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10月登場「はなあかり」に、新型「やくも」と「ウエストエクスプレス銀河」の秘話も JR西日本の人気列車を手がける建築家・川西康之氏インタビュー『鉄道なにコレ!?』【第67回】

47NEWS / 2024年9月26日 10時30分

JR西日本が10月5日に営業運転を始める観光列車「はなあかり」(同社提供)

 JR西日本が敦賀(福井県敦賀市)―城崎温泉(兵庫県豊岡市)間で10月5日に運行を始める観光列車「はなあかり」。そのデザインを手がけたのが、4月に岡山―出雲市(島根県)間で営業運転を始めた特急「やくも」の新型車両273系や長距離列車「ウエストエクスプレス銀河」などを数々の人気列車を生み出している建築家の川西康之氏だ。ゆったりした車内空間となった「はなあかり」のデザインに込めた思いを尋ねると、新型「やくも」の開発過程、「ウエストエクスプレス銀河」に使用した117系の改造秘話も明かしてくれた。(共同通信=大塚圭一郎)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

 【川西康之(かわにし・やすゆき)氏】鉄道デザインなどを手がける一級建築士事務所「イチバンセン」代表取締役。1976年、奈良県川西町生まれ。千葉大学大学院博士前期課程修了。オランダの建築事務所、フランス国有鉄道交通拠点整備研究所で勤務後、イチバンセンを開設。JR西日本の車両のデザインのほか、鉄道友の会の「ローレル賞」を2017年に受けたえちごトキめき鉄道(新潟県)の観光列車「えちごときめきリゾート雪月花(せつげっか)」の開発、土佐くろしお鉄道中村駅(高知県四万十市)のリノベーションなどにも携わった。工学院大学非常勤講師、グッドデザイン賞審査員も務める。


川西康之氏=2024年6月4日、神奈川県箱根町

 ▽「鉄道会社と地域をつなぐ受け皿」

 大型観光企画「北陸デスティネーションキャンペーン(DC)」に合わせてJR西日本が今年10月5日に運転を始める「はなあかり」は、特急「はまかぜ」(大阪―鳥取間など)に使っている3両編成のディーゼル車両キハ189系を改造。車体は黒褐色をベースに金色の花柄で装飾した。車内には、出雲たたら製鉄の一輪挿しや京織物の座布団など、地域の伝統技術が生かされたとっておきの逸品が配置される。「西日本のさまざまな地域のとっておきにあかりを灯し、地域を明るくする列車になること」などを願って命名された。

 うち1両には乗客がゆったりと過ごせる個室を設け、グリーン車を超える「スーペリアグリーン車」とする。川西氏は「ウエストエクスプレス銀河と同様に地域共生の役割を狙う観光列車で、鉄道会社と地域をつなぐ受け皿としてのデザインが求められた」と話す。


「はなあかり」のグリーン車の車内=2024年8月29日、京都市の京都鉄道博物館

 ▽381系からの「縦目」引き継ぎに試行錯誤

 日本国有鉄道(国鉄)時代以来、約40年ぶりの特急「やくも」の新型車両として今年4月6日に運転を始めたのが、ブロンズ色が基調の273系だ。先代の381系は国鉄時代に製造された特急型車両として今年6月15日に最後の定期運転となり、バトンを受け継いだ273系も注目を浴びた。273系は第23回「日本鉄道賞」の大賞に輝いた。

 川西氏が自身の発案で「381系のデザインを引き継げるようにした」と明かしたのが、273系の先頭部の左右にある「縦目」のヘッドライトだ。白い発光ダイオード(LED)の前照灯と、列車が近づいているのを遠方から気づきやすくするだいだい色の補助灯が縦に並び、丸い前照灯と赤い後尾灯が縦に並んでいる381系をほうふつとさせる。

 しかし、「縦目」にすることを試みたところ「LEDと言っても前照灯から発する光の熱がすごく、熱をどのように逃がすかが課題になった」という。このため、製造した近畿車両(大阪府東大阪市)がどのように熱を逃す方法を検討し、「光源から上へ逃げる熱を横に逃がす板を開発できたため現在の形にした」と振り返った。


「やくも」の定期運行を6月15日に終えた381系=2024年6月9日、鳥取県米子市

 ▽親子連れでもくつろげる「セミコンパートメント」

 273系で採用したユニークな座席が、乗客が足を伸ばしてくつろげるように座面を平らにできる「セミコンパートメント」だ。4両編成のうち1両に2人用、4人用が二つずつあり、2人または3~4人で通常の指定席特急券を買えば利用できる。

 川西氏は導入の狙いについて、「やくも」の利用者数が以前より減った中で「特に小さな子どもがいる子育て世代の利用を伸び代と考えたためだ」と説明した。

 小さな子どもがいる家族が帰省や旅行のため、山陰地方までマイカーを長時間運転したり、航空機や高速バスに乗せたりするのは大変だ。

 これに対し、「やくも」ならば「岡山駅で山陽新幹線と直結しているので実は一番便利だ」と指摘。「座敷のような一角があれば、親子連れらが楽に過ごせると思い、JR西日本に提案した」ことがセミコンパートメントシートの導入につながった。


273系に導入されたセミコンパートメント=2024年6月9日、松江市

 ▽ウエストエクスプレス銀河の種車に117系…初めは難色

 一方、2020年9月に運行を始めたウエストエクスプレス銀河は山陽線経由、山陰線経由の両方で京都駅と下関駅(山口県下関市)を結ぶなどしている。国鉄時代に製造された通勤型電車の117系を改造しており、川西氏は改造に使う「種車」を117系にすることを「JR西日本から指定された」ものの自身は当初難色を示したと打ち明けた。

 川西氏が代わりに提案したのが廃止された寝台列車(ブルートレイン)に使われていた客車や、JR西日本が大阪駅と北陸地方を結ぶ特急「サンダーバード」などに使ってきた特急型車両681系だった。

 681系はあまり活用されていない編成があったのに加え、北陸新幹線の敦賀―金沢間の延伸開業後にサンダーバードの運転区間が短縮されるため余剰車両が出ることも想定したためだ。しかし、「駄目ですと却下された」と苦笑する。

 川西氏が117系に難色を示したのは1979年に登場した古い車両なのに加え、「利用者が長時間を過ごす長距離列車に使うには中途半端な仕様だと考えていたからだ」と解説する。「車内の(床から天井までの高さの)天井高が2・1メートルと低い上、通勤型電車なので冷房装置が1両当たり1カ所しかないため個別空調や換気が難しいことが課題だった」と話す。

 これに対し、JR西日本発足後の1992年に登場した681系は比較的新しい上に「天井高が2・3メートルと高い」のも魅力的に映った。

 実際、JR西日本はウエストエクスプレス銀河を開発中の2019年に681系の先行試作車を廃車、解体した。川西氏は「後になり、JR西日本から『(種車を)あれにしても良かったな』と言われた」と苦笑いした。


JR西日本の長距離列車「ウエストエクスプレス銀河」=2020年12月13日、山口県下関市

 ▽くつろげるいすやテーブルを配置できるゆとり「結果的に良かった」

 ただ、「結果的に種車が117系で良かったと思う」と川西氏は振り返る。117系は客室の側面の扉が2カ所あり、車端部に空間ができるため「利用者がくつろげるようにいすやテーブルを設けたフリースペースを設置できるなどゆとりにつながった」と指摘する。

 一方、681系の扉は車両の端に近い位置にある上、「扉に面した乗降部分のデッキは固定されていて変えられない」という。このため、681系を種車に用いていた場合、車端部にフリースペースを設けるのが難しかった。

 117系のどの編成を改造するかを選ぶため、川西氏が向かったのはJR西日本の車両基地「岡山電車区」(岡山市)だった。初期に造られた「0番台」と、窓や台車などを新しい仕様に変えた1986年製造の「100番台」が選択肢にあったが、種車に使ったのは80年製の0番台の6両編成だった。

 川西氏は古い編成を選んだ理由を「0番台の方が改造しやすかったからだ」と話す。ウエストエクスプレス銀河の最上級座席となる「グリーン個室」を広く確保するのに0番台のレイアウトの方が好ましく、床下の台車も良いという判断だった。

 「100番台は(空気ばねを使って構造を簡素化した)ボルスタレス台車の初期の製品を履いており、乗務員から『ぼよんぼよんと揺れる』という声を聞いた。それならば特急用車両と同じ台車だった0番台の方が良いだろうと思った」


JR西日本の681系=2012年3月3日、大阪市(土居武文氏提供)

 ▽たまたま同乗した社長に「走る音がうるさいですね」

 もっとも、100番台の客室の窓は一部が下降して開けられる簡素な窓なのに対し、0番台の窓は開閉できる2段式で「走るとガタガタと音を立てる」のが難点だった。しかし、「当初は予算がかなり限られており、窓もそのまま使うように言われていた」という。

 風向きが変わったのは、岡山電車区からの帰りの出来事だった。「実際の車両に乗ってみようということになり、岡山駅から倉敷駅(岡山県倉敷市)まで117系の快速電車に乗ると、たまたま目の前にいたのが当時社長(前社長)の来島達夫氏だった。『この電車(と同じ117系)を改造するのですが、走る音がうるさいですね』と話したところ、『そうですね』と同意してもらった」

 それをきっかけに「改造に使える予算が上がり、客室の窓を総取っ換えすることができた」そうだ。


JR西日本が運行していた117系=2020年12月26日、広島県福山市

 ▽2段ベッドのような座席「クシェット」を実現

 だが、客室の天井が低いことは課題として残った。川西氏が目玉の一つとして導入を思いついたのが寝台列車の2段ベッドのような座席だ。

 ところが、天井高が2・1メートルと低いため「かつての寝台車のような仕様で造るとお客さんが起き上がろうとすると頭がつかえ、長時間乗るのに耐えられなくなる」ことが難題となった。

 モックアップ(模型)を製作して検証したところ「下段座席の床からの高さを15センチにすればお客さんが起き上がることができ、居住性を確保できると確認した」という。

 ただ、下段座席が低い位置になったため「寝そべった状態だと窓からの景色を眺めることができない」ことが次の課題として浮上した。解決策として編み出したのが大きな窓への交換で「構造計算をしたところ強度などの問題もなかった」という。

 できあがったのが、普通車指定席の上下2段の平らな座席「クシェット」だ。夜行列車として走る際には寝台列車のように横たわることができ、普通車指定席料金で乗れる。


ウエストエクスプレス銀河の「クシェット」(JR西日本提供)

 ▽「地域が幸せになる仕組みと空間をつくりたい」

 比較的手ごろな料金で快適に長距離を移動できるように配慮したウエストエクスプレス銀河は高く評価され、2021年度のグッドデザイン賞ベスト100に輝いた。今年9月で運行開始4年を迎えても予約を取りにくいほどの人気が続いている。

 川西氏にデザイナーとして採点してもらったところ「百点満点で80点は取れているのではないか」と合格点を付けた。今後の鉄道デザインでも「お客様や地域の人々が鉄道に参加することで、その地域が幸せになる仕組みと空間をつくりたい」と意気込む。

 ※『鉄道なにコレ!?』とは:鉄道に乗ることや旅行が好きで「鉄旅オブザイヤー」の審査員も務める筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。鉄道以外の乗り物の話題を取り上げた「番外編」も。ぜひご愛読ください!

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