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「必ず来る」フェンシングがパリ五輪でブレークした背景は 医科学・情報支援のトップが語る日本のメダルラッシュ

47NEWS / 2024年9月24日 11時0分

インタビューに応じる国立スポーツ科学センターの久木留毅所長

 今夏のパリ五輪で日本選手団は金メダル20個、銀12個、銅13個を獲得した。自国開催だった前回の東京五輪を除けば、金メダルの数もメダル総数も過去最多の華々しい活躍だ。
 この好成績について、国立スポーツ科学センター(JISS)の久木留毅(くきどめ・たけし)所長は「日本の取り組みは間違っていなかった」と確信を深めたという。久木留さんは、スポーツ医科学や情報面から日本選手団を支える日本スポーツ振興センター(JSC)で、トップアスリートが対象の「ハイパフォーマンススポーツセンター長」も務める。今回、メダルを量産したレスリングとフェンシングを例に「成功の背景」を振り返るとともに、今後の展望を語ってもらった。(聞き手 共同通信=村形勘樹)

 ―パリ五輪はどんな位置付けの大会だったか。
 「自国開催の東京五輪後の大会であり、多くの人が日本の本当の実力を気にしていた。スポーツ庁は選手強化の予算を維持し、真価が問われる大会になると考えていた」

 ―日本選手団の成績をどう評価するか。


 「日本オリンピック委員会(JOC)は金メダル数で海外開催の五輪で最多更新を目標に掲げ、2004年アテネ五輪の16個を上回る20個を獲得した。メダル総数も海外最多だった2016年リオデジャネイロ五輪の41個を超えた。大きな地の利があった東京五輪(金27、銀14、銅17)からは落としたものの頑張った結果と言える」

 ―活躍の要因は。
 「東京五輪前から『オールジャパン体制』を掲げてきた。今回も国やJOCが連携し、スポーツ庁所管のJSCが選手村の外に設置した支援拠点の場所を決める際も、みんなで複数の候補地を見て回った。選手団が選手村に入ってからも綿密に連絡を取り合ってサポートに取り組んだことが功を奏した」


日本選手団のサポート拠点に設けられた交代浴の施設=パリ郊外(共同)

 ―印象に残ったことは。
 「日本が取り組んできた施策が間違っていなかったと確信できた。一つはJOCが寄宿制で有望選手を育てる『エリートアカデミー』。その象徴がメダルを量産したレスリングとフェンシングだった」

 ―金メダル2、銀1、銅2を獲得したフェンシング躍進の理由は。
 「国際競技力向上の基盤となる要素は四つある。①メダルを取れる選手②それを支えるコーチ③拠点の練習場や宿泊所といった場所④どの大会に出場していくかの戦略。フェンシングはこの全てがそろっていた。
 まず、エリートアカデミーやタレント発掘がしっかりしていてフルーレ、エペ、サーブルの全種別でいい選手がそろっていた。
 コーチの面では、東京五輪の男子フルーレ団体で優勝したフランス代表メンバーのエルワン・ルペシューさんをコーチに迎えたのは画期的だった。
 場所という意味では、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC・東京都北区)にピストが30面整備されている。
 大会出場の選択も新型コロナウイルス禍の時期から計画的に進められていた。
 フェンシングは東京五輪前から『必ず来る』と言われながらなかなかブレークできなかったが、この形で強化していけば大丈夫だと実感できた」


フェンシング男子フルーレ団体で金メダルを獲得した日本代表=パリ(共同)

 ―レスリングは過去最多の金8個を含む11個のメダルを獲得した。
 「見落としてはいけないのが、2001年から協会が始めたナショナルトレーニングシステム。全国6ブロックでジュニア選手を集め、さらに有望選手を育成する仕組みをつくった。10年かけた後に2012年ロンドン五輪を迎え、当時優勝候補として出場した男子選手が今では指導者となった。その人たちが今回躍進した選手を支えたことは注目すべき点。(今大会で日本代表コーチを務めた)ロンドン五輪フリースタイル66キロ級で金メダルに輝いた米満達弘さんらの存在は非常に大きかった」


レスリング男子グレコローマン60キロ級で金メダルを獲得し喜ぶ文田健一郎=パリ(共同)

 「コーチには大学院での勉強を勧め、医科学を学んだ人材が育った。今回の成功は約20年をかけて耕した土壌が組み合わさった結果。たまたまではない」

 ―レスリングは海外の大会で東京五輪からの飛躍を遂げた。背景は。
 「フェンシング、体操(金3、銅1)もそうかもしれないが(ウクライナ侵攻に伴って)ロシア勢がほぼ出ていなかったことに触れなければいけない。レスリングは東京五輪で金メダルの約2割をロシアが占めた。不在だったことを冷静に分析し、ロサンゼルス五輪に向かうことが大事」

 ―競技人口が少ない近代五種で男子の佐藤大宗(自衛隊)が日本勢初メダルとなる「銀」を獲得した。
 「強化プランづくりの話し合いで他競技との合同練習をアドバイスしていた。工夫により力は引き上げられる。(競技人口という)直径は小さくても、高さを積み上げられる『円柱方式』で勝てる。フェンシングやレスリングもこれに当てはまる」

 ―総合馬術団体は3位で、日本勢92年ぶりの表彰台も話題になった。
 「2016年からJOC、JSC、競技団体が合同で4年、8年先を見据えた強化プランづくりを始めた。馬術は日本中央競馬会(JRA)などの支援に加え、中長期的な強化が実を結んだと思う。スケートボードなども同じ取り組みをしている。オールジャパン体制の仕組みは絶対に機能している」


馬術の総合馬術団体で銅メダルを獲得した「初老ジャパン」の選手=パリ郊外(共同)

 ―2028年ロサンゼルス五輪の鍵は。
 「(複数のメダルを獲得する)マルチメダリスト、マルチメダル競技をつくれるかどうか。(メダル総数トップの)米国は陸上、競泳が強い。パリ五輪で競泳男子のマルシャン(フランス)が1人で四つの金メダルを取ったのが典型例。エースを育てられるかどうかは大きい」

 ―今後力を入れていく取り組みは。

 「『ビハインド・ザ・シーン』と呼んで、ライバルとなる他国がどんなサポートをしているかといった舞台裏を調査している。今後の開催地関係者とミーティングし、選手村の使い方などいろいろな情報を集めている」

 ―スポーツ支援でかなりの医科学的な知見が蓄積されてきた。将来の活用は。
 「成果をどう還元していくかが大切。私たちは健康や体力増進など国民の生活の質向上につなげるため、知見を地域に展開しようとしている。大学生、高校生、中学生、小学生、そして高齢者にも届けられれば、スポーツ研究に国費を費やすことがいかに重要かを示せる。それが、私たちが力を入れている『ハイパフォーマンスからライフパフォーマンスへ』という考え方だ」

  ×  ×
 くきどめ・たけし スポーツ庁参与、JOC情報戦略部門部門長、日本レスリング協会ナショナルコーチ兼テクニカルディレクターなどを歴任。筑波大大学院体育研究科、法大大学院政策科学専攻修了。1965年12月28日生まれの58歳。和歌山県出身。

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