ハリスさんはどんな人?今、世界で1番注目の女性 初づくしの59歳、ジェットコースターの選挙劇の主役に
47NEWS / 2024年9月22日 11時0分
4年に1度のアメリカ大統領選で、2024年7月下旬に撤退を表明したジョー・バイデン大統領(81)に代わってカマラ・ハリス副大統領(59)がホワイトハウス死守を願う民主党の期待を一身に背負っている。短期間で党の支持をまとめ、8月19~22日にイリノイ州シカゴで開かれた党大会で「新たな道を切り開こう」と呼びかけた。9月10日には共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)と初めての討論会に臨み、メディアから「ハリス氏の勝利だった」と評価を受けた。バイデン政権発足から3年半、表舞台に立つ機会が少なかったハリス氏はどんな人物なのか。トランプ氏に勝利し、初の女性大統領になるのだろうか。選挙劇の新主役の登場に全世界が注目。投開票は11月5日に迫っている。(共同通信ワシントン支局 比嘉杏里)
※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。
▽バイデン氏への高齢不安ふくらみ、舞台は回った
大統領候補討論会に出席したバイデン大統領=6月27日、ジョージア州アトランタ(ロイター=共同)
ハリス氏の人となりに迫る前に、アメリカ政府関係者が「まるでジェットコースター」と表現した6~8月の出来事をおさらいしたい。
始まりは6月27日、バイデン氏とトランプ氏による大統領候補討論会だった。弱々しいかすれ声で言葉に詰まるバイデン氏の様子に高齢不安が急拡大し、民主党からも一気に撤退論が吹き出した。支持率がじりじり下がり、バイデン氏は追い詰められていった。
7月13日、トランプ氏の集会中に暗殺未遂事件が発生。銃撃の衝撃に加え、血を流しながら拳を突き上げるトランプ氏の映像や写真が共和党支持者を熱狂させた。軽傷で済んだことが「神のご加護」だとされ、民主党支持者の多くは敗北を覚悟した。
集会で演説中に銃撃されたトランプ前大統領=7月13日、ペンシルベニア州バトラー(AP=共同)
約1週間後の7月21日。バイデン氏がX(旧ツイッター)で撤退を表明したことが状況を一変させた。「結束し、トランプ氏を倒す時だ」と呼びかけたバイデン氏は、ハリス氏への支持を表明。ハリス氏が「光栄だ」と応じると、民主党は雪崩を打ってハリス氏の下に結集した。
これまでの死に体からよみがえり、あっという間に戦闘態勢を整える民主党の様子に、バイデン氏相手の勝利を確信していたトランプ氏は「民主党のクーデターだ」と憤った。
ホワイトハウスのバルコニーから独立記念日の花火を見るバイデン大統領(左)とハリス副大統領=7月4日、ワシントン(ゲッティ=共同)
▽女性、黒人、アジア系のハリス氏、経歴は「史上初」ばかり
ハリス氏はジャマイカ人の父とインド人の母の間に生まれた。両親はアメリカの大学留学中に出会って結婚し、後に離婚。ハリス氏と妹を育てた母の故シャマラ・ゴパランさんは著名な乳がん研究者だ。「不正義に文句を言うのではなく、行動しなさい」「何事も中途半端にやってはいけない」―。母の教えが、ハリス氏の人生に大きな影響を与えたことは間違いない。ハリス氏は「クールで、タフで、勇気があった」と母を懐かしんでいる。
ハリス氏はカリフォルニア州で検事として経験を積み、2011年に女性、黒人、アジア系として初の州司法長官に就任。17年から連邦上院議員を務め、21年1月、女性、黒人、アジア系として初の副大統領になった。
大統領の妻は「ファーストレディ」、副大統領の妻は「セカンドレディ」と呼ばれることから、ハリス氏の夫で弁護士のダグラス・エムホフ氏(59)は、アメリカ史上初の「セカンドジェントルマン」に。ハリス氏が大統領に就任すれば、今度は初の「ファーストジェントルマン」となる。
8月18日、イリノイ州シカゴの空港で飛行機から降りるハリス副大統領(左)と夫のエムホフ氏(ロイター=共同)
数多くの経歴に「初」が付くハリス氏は、検事や政治家として「常に人々のために働いてきた」と自負する。8月に開かれた民主党大会の演説で、トランプ氏を「自分や富裕層のために闘っている」と批判する一方、「私のキャリアを通じて唯一の顧客は国民だ」として違いを強調した。
▽夫の元妻や子どもたちとつくる新しい家族のかたち
エムホフ氏の元妻との間の子ども2人は、「ママ」と「カマラ」を掛けてハリス氏を「ママラ」と呼ぶ。娘でデザイナーのエラさん(25)は民主党大会で、ハリス氏と「家族になったとき私は14歳。思春期の子どもにとって気楽な時期でしょ」と、当時の複雑な心境をユーモラスに表現。多感なティーンエイジャーと向き合ったハリス氏が「どんな時でもそばにいてくれた。忍耐強く、思いやりがあり、真剣に受け止めてくれた」(エラさん)。
民主党大会で登壇したハリス副大統領=8月22日、イリノイ州シカゴ(ロイター=共同)
ハリス氏を支える家族にはエムホフ氏の元妻カースティンさんも含まれる。共和党副大統領候補のバンス上院議員(40)がハリス氏らの名前を挙げて出産経験がない女性を中傷した発言が取り沙汰された際、カースティンさんはすぐに声明を発表した。自身とハリス氏が「10年以上、一緒に子育てに関わってきた」として出産経験の有無は関係ないとして援護射撃。「私は私たちの『混合家族』(ブレンデッドファミリー)を愛しており、彼女が一員であることに感謝している」と強調した。民主党大会にも駆け付け、支援を惜しまない。
▽期待高める若者や女性、移民政策や経済対策では疑問符も
ハリス氏が民主党の大統領候補に名乗りを上げた7月21日以降、大統領選は「近年まれに見るデッドヒート」だと表現されるようになった。バイデン氏とトランプ氏による前回大統領選と同じ顔触れの高齢候補対決を敬遠していた有権者、特に若者や女性がハリス氏への期待を高めており、支持率が拮抗しているためだ。
だがハリス氏の政策に不安を抱く人も少なくない。特にメキシコとの南部国境から押し寄せる移民を巡り、トランプ陣営はバイデン政権で移民政策の一部を担当したハリス氏に「ボーダーツァー(国境の皇帝)」というあだ名をつけ、責任を激しく追及する。トランプ陣営の新しい広告は、ハリス氏が「国境責任者として入国を許可した1千万人の不法移民に恩赦を与え、社会保障の対象にすると約束した」と虚偽の説明で移民への恐怖や嫌悪をあおる手段に出た。ハリス氏は不法越境には厳しい対応を取ると訴えるが、有権者の信頼を取り戻すのは容易ではない。
8月22日、アリゾナ州のメキシコ国境近くで話すトランプ前大統領(AP=共同)
経済政策もやり玉に挙がる。バイデン政権で始まった歴史的なインフレに苦しむ国民には、トランプ政権の方がアメリカを豊かにしたとの認識が根強い。ハリス氏は食品の不当な値上げ禁止や住宅価格引き下げによる家計負担の軽減策を打ち出し、子どもが生まれた家庭への減税も掲げる。価格統制を伴う政策をトランプ氏は「共産主義的だ」と非難。ハリス氏が副大統領就任後、3年半を経ても事態を改善できていないとして「無能」のレッテルを貼る。
▽「後戻りしない」。トランプ氏の土俵に乗らない戦略
トランプ氏のハリス氏に対する人格攻撃も激しさを増している。ハリス氏が黒人有権者にアピールするため「突然黒人になった」とやゆ。よく笑うハリス氏の笑い声が普通ではないとけなし、共産主義者だとの意味を込めてハリス氏を「同志カマラ」と呼ぶ。
8月29日、立候補後初の報道機関による単独取材となったCNNテレビのインタビューで、中傷攻撃に対する考えを問われたハリス氏は「いつもと同じ、古くさい戦術。次の質問をお願いします」とかわしてみせた。同じ土俵には乗らないとの意思表示で、トランプ氏にへきえきとする女性や穏健な無党派層を引きつける狙いだ。ハリス氏が掲げるのは「自由」と「喜び」で、エムホフ氏はハリス氏を「陽気な戦士」と表現。選挙スローガンは「Not going back!(後戻りしない)」。アメリカを前進させ、トランプ氏の時代には戻らないとの意味を込める。
9月10日、フィラデルフィアで開催された大統領選討論会で、トランプ前大統領の発言を聞くハリス副大統領(ロイター=共同)
9月10日、ABCテレビが主催し、激戦州の東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれた討論会では、国民の関心が高い経済や移民問題でトランプ氏と激しい応酬を繰り広げた。ハリス氏は人工妊娠中絶の是非や議会襲撃事件を巡るトランプ氏の姿勢を追及。メディアは「トランプ氏をいらつかせることに成功した」と指摘した。守勢に回らざるを得なかったトランプ氏は「不法移民がペットを食べた」などと支離滅裂な主張を繰り返し「オウンゴールを繰り返した」(国際政治学者のイアン・ブレマー氏)。討論会後のCNNテレビの緊急世論調査によると、ハリス氏が勝者と答えた人は63%、トランプ氏は37%だった。
民主党候補ハリス副大統領(左)と共和党候補のトランプ前大統領(ロイター=共同)
9月に入り、ワシントンDCでは一軒家の庭先に支援候補の看板が飾られ、街中で支援候補の名前がプリントされたTシャツや帽子をひんぱんに見かけるようになった。数カ月前は「退屈」だと言われたアメリカ大統領選だが、今や全世界がハリス氏、トランプ氏の一挙手一投足に注目している。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
大統領選・議会選全敗の民主党 内輪もめで離れる有権者 立て直しへの機運盛り上がらず ポトマック通信
産経ニュース / 2024年12月13日 7時0分
-
「不法移民のままなら安く雇える」アメリカの総人口の3%・1100万人にも達する不法移民をめぐる人権尊重と自国本位のアンビバレント
集英社オンライン / 2024年12月3日 7時0分
-
トランプを勝たせたアメリカは馬鹿でも人種差別主義でもない
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月27日 18時41分
-
トランプ次期大統領の経済対応を信頼するも、国内団結は懐疑的、米シンクタンク調査(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月25日 13時0分
-
トランプ劇場第二幕の始まり…第47代米国大統領に選出されるトランプ氏…就任後の政策は?国内インフレでドル高円安は避けられない
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月25日 11時15分
ランキング
-
1ブラジル南東部でバス事故、38人死亡
AFPBB News / 2024年12月22日 9時40分
-
2中国民主化活動家の草分け王炳章氏の釈放求め「フリーダムハウス」ら世界の人権団体がキャンペーン 広東省の刑務所の独房に22年間収監され生命の危機に
NEWSポストセブン / 2024年12月22日 7時15分
-
3ドイツの車暴走、容疑者は「反イスラム」主義者…移民に対する憎悪に拍車の恐れ
読売新聞 / 2024年12月22日 9時40分
-
4「受刑者はすべて殺人犯」ギャング4万人を収容 エルサルバドルの「巨大刑務所」の実態 食事はすべて手づかみ、運動時間は1日30分
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年12月22日 7時30分
-
5トランプ氏、NATO各国に防衛費2・5倍要求か…GDP比2%目標から5%へ
読売新聞 / 2024年12月21日 17時41分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください