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大手の独壇場に風穴をあけたLCCジップエア、国際線利用で浮かび上がった「注意点」は? 成田―ホノルル線をANAと比較した 『鉄道なにコレ!?』【番外編】

47NEWS / 2024年10月5日 10時0分

ジップエアトーキョーのボーイング787=2024年8月20日、千葉県成田市

 一時期ほどではないが円安ドル高が続き、海外旅行は手が届きにくくなった。海外に行くための航空運賃や宿泊料金を見ると、ひるんでしまう。そうした中、少しでも割安に海外へ行ける手段として、中・長距離国際線に特化した格安航空会社(LCC)、ジップエアトーキョーの利用が広がっている。

 今年4~6月期の旅客収入は前年同期の約1・5倍の172億円となった。今後も航空機を増やして路線や便数を広げる計画で、「海外旅行がより身近になる」と期待する声が出ている。

 だが、私が夏休みの休暇で利用したところ、全日本空輸(ANA)などの航空大手とはサービス面で異なる「注意点」が浮かび上がった。(共同通信=大塚圭一郎)

 【ジップエアトーキョー】航空大手の日本航空(JAL)の全額出資子会社で、いずれも成田空港発着の中・長距離国際線を運航するLCC。本社は千葉県成田市。2020年6月に運航を始めた。矢などが素早く飛ぶ様子を示す英語「ZIP」が社名の由来で、ビジョンとして新しい基準を作る「ニュー・ベーシック・エアライン」を掲げる。

 ジップエアは、成田と海外9都市の間を運航している。具体的には成田とアメリカのハワイ州ホノルル、西部カリフォルニア州ロサンゼルス、サンノゼ、サンフランシスコ、カナダ西部バンクーバー、シンガポール、タイ・バンコク、フィリピン・マニラ、韓国・ソウルを結んでいる。(成田―ホノルル線は2024年10月27日~25年3月15日の期間は運休)

 2023年度決算の売上高は前年度の約1・9倍の604億円、最終的なもうけを示す純利益は前年度の約2・7倍の61億円だった。24年7月に累計搭乗者数が200万人を超えた。

 ▽航空機の大半はJALの〝お下がり〟
 ジップエアはボーイング(アメリカ)の中型機787―8型を8機使っている。うち大半の6機はJALが用いていた〝お下がり〟で、残る2機は新造機だ。整備はJALの整備子会社、JALエンジニアリングに委託している。

 LCCは大手航空会社に比べて座席数を増やすとともに、空港で折り返す時間を短くし、客室乗務員が機内清掃をするといった合理化によって割安な航空運賃を提供している。

 ジップエアの客室には就寝しやすいように座席が平らになるフルフラットシート、「スタンダード」と呼ぶエコノミークラスの2種類があり、座席数は計290席。JALが運航する同型機は186席または206席より、やはり多い。

 2025年度には同型の新造機を2機追加し、計10機にする計画だ。


ジップエアのエコノミークラスに相当する「スタンダード」の座席。背もたれの後ろに画面がない=2024年8月20日、千葉県成田市

 ▽安いものには理由がある
 成田とホノルルを結ぶ路線のエコノミー運賃を比較すると、ジップエアは片道最低3万円(旅客サービス施設使用料などを除く)だ。ANAは同じ路線をエアバスの総2階建て大型旅客機A380で運航しており、運賃は往復で最低9万7千円。単純計算すると片道最低4万8500円なので、ジップエアの方が割安だ。

 しかし、安いものには理由がある。ANAの場合は出発後の機内食と到着前の軽食が提供され、飲み物も振る舞われる。しかもエコノミーでもワインやビールも無料で注文できた。

 これに対し、ジップエアはミネラルウオーター付きの機内食が有料だ。牛丼やカレーなどから選ぶことができ、悪くない味付けだった。他の飲料も有料で、驚いたことに何も入っていない透明なカップさえも10円で売っていた。

 ジップエアは、旅行に持参する荷物でも制約を受ける。機内に持ち込める2個の手荷物は計7キロまでと、ANAの計10キロを下回るのだ。

 預け入れ荷物でもジップエアは別途料金がかかる。一方、ANAは重量23キロ以内の規定を満たした荷物ならば、2個まで無料で預かってくれる。


全日本空輸(ANA)が成田―ホノルル線で運航しているエアバスA380=2024年6月29日、千葉県成田市

 ▽座席指定にも追加料金
 ANAなどの航空大手では当たり前のように事前に選べる座席指定も、ジップエアは通常ならば追加料金がかかる。もしも座席指定をしていない場合は搭乗前に空席を割り当てられ、同行者がいた場合は離れ離れになる可能性がある。

 私が購入した「バリュー」という商品は、座席指定と機内食、重量30キロまでの預け入れ荷物をセットで販売している。成田―ホノルル間の場合、運賃とは別に9千円の追加料金がかかる。

 他方、ジップエアは航空大手が燃料価格に応じて別途徴収する燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)を設けていない。ANAは今年8月1日~11月30日購入分の成田―ホノルル線に片道2万2500円の燃油サーチャージを設定している。

 ジップエアも、夏休みや年末年始などの多客期には運賃を高くしているのは航空大手と変わらない。それでも燃油サーチャージが別途かからないことには「分かりやすく、透明性がある運賃体系だ」との評価を聞く。


ANAのエアバスA380のエコノミークラスの座席=2024年6月25日、千葉県成田市

 ▽優先チェックインも別売り
 ANAではオンラインチェックインの受け付けが出発24時間前に始まり、登録した電子メールアドレスに案内が届いた。ところが、ジップエアは出発24時間前になっても連絡が来なかった。

 不思議に思って検索したところ、スマートフォンなどからのオンラインチェックインはソウル線やバンコク線など一部便しか対応していないことを知った。

 そこで、成田空港で出発1~3時間前の間にカウンターでチェックインすることが必要になる。一部便は自動チェックイン機でも手続きが可能だが「利用可否はジップエアの地上係員に当日問い合わせてほしい」という。

 カウンターでのチェックインは出発1時間前までに必要となり、ジップエアは「締め切り時刻を過ぎると搭乗してもらえなくなる」と警告している。チェックインに間に合うかどうかを心配する消費者心理を見越して、3千円の追加料金を支払えば優先してチェックインと目的地での預け入れ荷物の受け取りができるサービスを実施している。

 必要とするサービスのためには有料のオプションを購入するのがLCCのビジネスモデルだとはいえ、充実ぶりには舌を巻くしかない。


ANAのエアバスA380から眺めたアメリカ・ハワイ州のオアフ島=2024年6月25日

 ▽機内エンターテインメントでは大差
 ジップエアの機内はエコノミーでも座席の前後間隔が約79センチあり、想定していたより広かった。ANAの約86センチには及ばなかったものの、LCCとしては足元がかなり広い。座席下には電源コンセントがあり、スマホなどを充電できるのも便利だ。

 ただし、航空旅行で楽しみの一つであるエンターテインメントでは大差がある。ANAはエコノミーで世界最大の13・3インチのタッチパネル式液晶画面を備えており、鮮やかな画面で見たかった映画を存分に楽しむことができた。

 だが、ジップエアの座席の背もたれには画面が付いておらず、自分のスマホかタブレットでダウンロードしたコンテンツを楽しんでもらう仕組みだ。Wi―Fiは無料で利用できるものの、運航中に接続しようとしてもうまくつながらなかった。他の利用者から「空港で出発前にダウンロードした方がいい」と聞いた。


ANAのエアバスA380のエコノミー席に取り付けられたタッチパネル式液晶画面=2024年6月25日、アメリカ・ハワイ州ホノルル

 ▽判定は「大満足」も…
 LCCは基本的な運賃に付いてくるサービスが少ないだけに「サービスが悪いのではないか」といぶかしがる声を聞いたのだが、ジップエアの地上職員と客室乗務員は航空大手に引けを取らないほど対応が良かった。私が乗った便は定時で運航したので「大満足」の判定だ。

 もっとも、「安心して利用できる」という点ではANAが勝った。なぜなら、ジップエアは利用者が自己都合でキャンセルする場合、大半の路線で「払い戻しはできません」と明記している。不安がある予約客向けには「旅のキャンセル保険」を追加料金で販売している。

 ANAは手数料がかかるものの、原則としてキャンセルに応じる。
 もっとも、ジップエアが航空大手のほぼ独壇場だった中・長距離国際線に参入し、割安な航空券料金を提供することで消費者の選択肢を増やした功績は大きい。10代の利用者は「ジップエアの就航で、行きたい海外の都市が広がった」と話す。

 しかし、安さと引き替えに基本運賃で受けられるサービスが限られる点には留意が必要だ。運賃とサービス内容を含めててんびんにかけ、自分に合った「空の旅」を楽しむことが良さそうだ。

 ※『鉄道なにコレ!?』とは:鉄道に乗ることや旅行が好きで「鉄旅オブザイヤー」の審査員も務める筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。鉄道以外の乗り物の話題を取り上げた「番外編」も。ぜひご愛読ください!

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