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学校の健康診断、脱衣必要?  「不快な経験」訴える子も、疾病見逃しには懸念

47NEWS / 2024年9月26日 10時0分

京都市教育委員会による通知に添付された聴診・視診時の工夫例

 学校での健康診断を巡り、近年、脱衣の必要性など在り方の議論が各地で起きている。文部科学省は健診に関して、1月に通知を出した。正確な検査に支障のない範囲で「原則、体操服や下着の着衣、タオルなどで身体を覆う」とし、プライバシーと心情への配慮を求める内容だった。
 学校で毎年行われる健診は、疾病をスクリーニングするのが主な目的だ。そのため、着衣での健診には疾病の見逃しを懸念する声もある。日本医師会と文部科学省は、学校医らが健診を行う上での留意点をまとめ、9月に公表した。
 学校健診はどうあるべきか。子どもや保護者の思い、医療者らの考えを聞いた。(共同通信=小川美沙)

 ▽健診が「不快な経験に」


横浜市役所

 今年5月以降、健診に関するニュースが相次いだ。5月末、横浜市で小学校16校で、保護者や児童に十分な説明がないまま、上半身裸で行ったことが明らかになった。さらに群馬県みなかみ町立小で、小児科医が本人や保護者の合意を得ずに、児童の下半身を視診したことが判明。北九州市立小でも、複数の児童が学校医から下腹部を触られたなどと訴えたケースが表面化している。


 一連の問題を受け、最近健診を受けた家庭に取材した。
 横浜市の田中洋子さん=仮名=には小学低学年と高学年の娘2人がいる。2人は6月に行われた健診のあとに繰り返し訴えた。「恥ずかしかった」。普段のかかりつけ医の診察では脱衣することはない。しかし、学校健診では低学年の娘は上半身裸。高学年の娘は体操服を着て首元までめくり上げたと話した。田中さんは驚きを隠せなかった。
 内科検診に関しては5月上旬、学校が保護者向けにアプリを通じて「ほけんだより」の配信があった。それには主に次のように記されていた。
・原則体操着を着用、自分で上げ下げ
・下着の上からでは心臓の音が聞きづらいので、検査時は着用しない
・脊柱のねじれやわん曲、胸郭の陥没や突出など疾病の有無を確認する際、正確な診断のため脱衣の上、視診・触診をする場合がある
 服を脱ぐかどうかはプライバシーに関わる重要な問題だ。田中さんは、「ほけんだよりを配るだけでは配慮とは言えない」と話す。娘たちは幼い頃から、プライベートゾーン(水着で隠れる部分)は大切で、他人に見せる必要はないと学んでいる。「なぜ脱ぐ必要があるのか事前に十分な説明がないままで、娘にとって不快な経験となってしまった」

 ▽子どもの前で発達の話

 横浜市の工藤明子さん=仮名=の小6の娘は、「脱衣は嫌だ」と訴えた。親子で話し合い、検査項目も踏まえ、スポーツブラを着用して受診できるよう学校側に申し入れた。「健診で嫌な思いをしている子は多いと思う。ただ、学校が全て個別対応するのは難しいだろう。校医によってやり方が違うのも問題。標準化されるべきだと思うが…」と複雑な思いを口にする。
 学校健診の在り方が報道されるようになり、過去の経験を保護者に打ち明けた子どももいる。横浜市の橋本早苗さん=仮名=は、中3の娘、里美さん=仮名=から「小6の時の健診ですごく嫌な思いをした。ショックだった」と明かされた。里美さんは上半身裸で健診を受けた。その場を立ち去らないうちに、校医が近くにいた養護教諭に「最近の子は発達が早いね」と話すのを耳にした。
 橋本さんは「セクハラだと思う。娘は自分の体の変化に一番敏感な時に自尊心を傷つけられ、ずっと嫌悪感を抱えていた」と指摘する。正確を期すためやむを得ないこともあるかもしれないが「1人の人間として子どもの思いを尊重してほしい」と訴える。
 横浜市教育委員会によると、市医師会と健診の在り方に関する話し合いを続けていて、来年度の健診までに一定の方針を出すという。市教委の担当者は「子どもたちの病気を見逃さないことも、心情に配慮することも大切。そのバランスがどう取れるか、方法を探っている」と話した。

 ▽イラストを付けて説明

 国の通知などを受け、方針を転換した自治体もある。
 京都市教育委員会はこれまで市内の小中高校に対し、原則、上半身を脱衣して健診を受けるよう通知していた。しかし、プライバシーと心情への配慮を求めた1月の文科省通知後、市学校医と協議の上で対応を見直した。2月末に各学校に通知を出し、24年度からは「原則、体操服や下着の着衣、タオルなどで体を覆った実施」とした。
 内科・脊柱検査については、留意点として次のように記載した。
 『児童生徒や保護者に、正確な検査・診察の重要性(疾病の見逃しの可能性など)を伝えた上で、胸部を隠す工夫など配慮を行いながら対応』
 「工夫例」として、体の前面を見る場合、胸部を隠して聴診するイラストを付けて説明した。
 市教委の担当者によると、学校医側からは「皮膚や脊柱の疾患を正確に診られるのか、(着衣によって)リスク面もあることを保護者に理解してほしい」との声が寄せられた。着衣による脊柱検査に不安を感じ、脱衣を希望した子どももいたという。

 ▽「発見率低下の可能性」


日本医師会の渡辺弘司常任理事(日本医師会提供)

 医療者側はどう考えているのだろうか。
 日本医師会(日医)の渡辺弘司常任理事は1月の定例記者会見で、文科省の学校健診に関する通知に言及。側彎症は成長期に発症し、脊柱が左右や前後に曲がる。衣類を着けたままだと、「診断率が低下することが報告されている」と指摘した。皮膚の疾患についても「外傷があれば虐待の可能性の発見にもつながることがある。見落としをできるだけ避ける必要がある」。
 どこまで正確な判断を求め、具体的な実施方法をどうするか。健診項目の一部について「児童生徒や保護者の考え方、変化する社会情勢に必ずしも適応しているとは言えないものもある」と認め、関係者と協議するとした。
 渡辺常任理事はその後、6月の会見で、法令に定める健診項目以外の検査を行う場合や、プライバシーに関わるケースは「事前に保護者に説明し、同意を得ておく必要がある」とした。9月の会見では、文科省とともに学校医が健診を行う上での留意点をリーフレットにまとめたことを明らかにした。健診項目が社会的状況に見合っているか検討を求める要望書も8月に文科省に提出したという。
 側彎症ついては、日本側彎症学会も5月にホームページに見解を発表している。早期発見、治療が必要な疾患で、学校検診には「医学的意義がある」とした。体表面や背部が覆い尽くされると「発見率が低下する可能性」を危惧。近年はプライバシーを尊重し、検査機器を用いている地域もあるという。

 ▽同意のプロセス、形骸化


京都大の児玉聡教授(本人提供)

 学校健診を巡る議論はこれまでも繰り返されてきた。公衆衛生の問題に詳しい京都大の児玉聡教授(倫理学)によると、学校での集団健診は子どもたちの健康状態を効率良く調べるという重要な役割を担っているという。
 児玉教授は「保護者や子どもたちの同意を取るプロセスが形骸化したまま、プライバシーに関わる検査が行われていることは問題だ」と話す。学校側は十分な説明を行い、それでも保護者らが納得がいかない場合は、かかりつけ医などでの受診を選択できる体制を整える必要があると指摘する。
 健診での脱衣は学校医によって考え方が異なり、「学校や各教委が対応を決めるのは難しいのが実態では」とみる。
 混乱が繰り返されないためにどうすればいいのか。必要なのは国としての対応だという。脱衣するとしない場合で側彎症の診断率にどのような差があるのかなど、エビデンスを取り「国として健診の在り方をきちんと議論し、指針を示すべきではないか」と提案した。

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