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劣悪な環境に人手不足…日本が誇るアニメ制作のスキル継承に赤ランプ 業界団体が人材育成目指し「検定」制度をスタート

47NEWS / 2024年9月26日 11時0分

福井智子さん

 海外で高く評価される日本のアニメ。その市場規模は3兆円に達する見込みともいわれているが、制作現場では劣悪な労働環境が問題となっている。約30年間で制作本数は3倍以上に増加する一方で(日本動画協会より)、スタッフ数は大きく増えておらず、人員不足の深刻化が進む。現場では新人を育成する余力がなく、これまで日本のアニメ業界が培ってきたスキルの継承が困難な状況に陥っているという。
 このままでは、アニメ制作の技術がなくなってしまう―。そんな危機感を強く抱いた業界団体「日本アニメフィルム文化連盟」(NAFCA)は人材獲得、育成を目的にした「アニメータースキル検定」を創設。その申し込みをスタートした。
 同団体の理事でアニメ監督のヤマトナオミチさんと、同じく理事で動画監督の福井智子さんに、業界の現状や問題点、検定への期待感などについて詳しく聞いた。(共同通信=高坂真喜子)

 ▽後輩指導に手が回らない


ヤマトナオミチさん

 ―「アニメータースキル検定」はアニメーターの技術の土台となる「動画」の実技試験などをするそうですね。このような検定を始めた背景や、アニメ業界を取り巻く環境について教えてください。
 福井 (1990年代後半以降)制作環境のデジタル化で効率化が進み、制作時間が短縮されたことなどで、作品の量もかなり増えました。元々アニメーターは師弟制度で技術が継承されてきましたが、人手が足りないため、新人にもどんどん仕事を任せるようになり、うまくできなければ先輩が修正することに…。すると先輩の負担が増え、後輩を指導するところまで手が回らなくなったのです。
 ヤマト 技術の基本となる、動きを表現する「動画」の作業を人手不足で海外に発注することが多くなったことも影響しています。
 福井 通常、動画を学んでから従事する原画の作業に、動画の経験があまりないまま担当することが増えました。

 ▽「格付け」にはせず


アニメータースキル検定の概要(日本アニメフィルム文化連盟提供)

 ―NAFCAによると、制作本数は増加していますが、アニメーターの人数は大きくは増えてはいないそうですね。
 福井 技術継承がうまくいかない悪循環の中で、技術を持っていない人たちがそのまま数多く仕事をするようになりました。そんな状態が20年ほど続き、修正する立場の人たちの中にも、間違ったやり方でやっている人が増えています。
 一見きちんと動いているように見えるけれど、人や物の動きを理論的に理解していないので、おかしなことになっています。一方で、今まで活躍してきたベテランも引退していきます。

 ―検定は「何級を持っているからすごい」というような「格付け」にはしたくないとのことですね。
 福井 はい、できるだけ早くからアニメ制作に興味をもってもらい、必要なスキルに気付いてもらうことなどが目的です。今は、(日本のアニメ業界が)ずっと継承していた技術が全部無駄になる方向に向かっている状態だと思います。何とかしたいですが、現場で数人に教えているだけでは間に合わない。検定を通じて、より多くの人に技術を伝えたいです。

 ▽芸術として見てくれる人のために

 ―制作現場のスキル不足などが続いている状況は、作品の質に影響する可能性もあるのでしょうか。
 福井 昨年、ドイツのアニメイベントで講演をしたところ、終わった後に聴衆の女性から「日本のアニメが好きで、昔の作品から今のものまでたくさん見ているが、最近のアニメは心がこもっていないように感じるが、なぜか」と聞かれて、驚きました。
 原因として思い当たったのは…。昔はキャラクターの動きのカギとなる「原画」は5~6人でやっていましたが、1話にかけられる時間が減って、多人数かつ短時間で完成させるようになりました。一つの場面を細切れにして複数人で描くので、キャラクターの演技のまとまりが薄れてしまいます。
 そうしたことが一因ではと考え、説明すると「日本のアニメが好きなので、良くなることを祈っています」と話してくれました。
 アニメを、文学や映画と同じように芸術的な感覚で見てくれて、真面目に好きでいてくれる人たちがいる。こういった人たちの期待を裏切ってはいけないと思うのです。

 ▽アニメーターは消耗品ではない


アニメータースキル検定のイメージ図(日本アニメフィルム文化連盟提供)

 ―人手不足や待遇改善も大きな課題ですね。
 福井 アニメーターはフリーランスで出来高制のことが多く、新人時代には多くの枚数を描けず単価も安いため、収入が低くなりがちです。1枚約300円だとして、リテイク(描き直し)もあって、1枚仕上げるのに1時間かかるとなると、時給300円。1カ月に300枚仕上げても月9万円。これではとても食べていけません。
 私も若いころは近所のお店で廃棄予定のパンの耳をもらって食べていました。若ければそんな暮らしが楽しいかもしれないですが、30、40代でそんな生活はできないでしょう。有望な学生に声をかけても、「お金を稼げず生活できない。親が反対する」と言われ、業界に入ってきてくれません。
 こんな状況で新人が入ってきても、5分の1、10分の1に減ってしまいます。代わりはいくらでもいると考えている会社も多いですが、アニメーターは鉛筆や消しゴムのような消耗品ではない。待遇を改善すべきです。

 ▽楽しい気持ちを持ったまま仕事を


日本アニメフィルム文化連盟の設立発表会見=2023年5月、東京都豊島区

 ―検定で技術を磨き、リテイクを減らして仕上げる枚数を多くすることができれば、収入の増加や、業界を去る人を減らすことにもつながるかもしれません。
 福井 私たちはアニメが大好きですから、いいものを作りたいという気持ちがすごく大きい。子供の頃から好きなアニメを見ていて「楽しかった」という気持ちを持ったまま、一生懸命仕事をしてくれる人を増やしたいです。
 ヤマト アニメの制作費は10年前に比べると数倍に増えていますが、同時にクオリティーもより高いものを求められています。(作業が増えた分)制作現場にもお金がより行き渡るようにすることが必要です。
 いまやアニメは海外でも見られ、アニメーターが世界に影響を与えるほどの職種になっています。そんなアニメづくりの現場をおざなりにしないために、検定が必要だと感じています。
   ×   ×
 NAFCAは、アニメーターを目指す人の技術向上や、広くアニメ制作の現場に興味を持ってもらうことを目的に「アニメータースキル検定」を11月9日に実施する。9月30日まで申し込み受け付け中で、活動費のためのクラウドファンディングも行っている。
 検定の初回は、アニメーターの技術の基礎である線をなぞるトレスなどの技術を測る「トレス・タップ割り検定」の6級と5級を、東京、新潟、名古屋、大阪、福岡で実施する。全受検者の回答をプロのアニメーターらが採点、添削して返送する。
 NAFCAは検定のための練習用の教科書も作成している。詳細はアニメータースキル検定の公式サイトで。
   ×   ×
 【ヤマトナオミチさん】アニメ監督。代表作に「ヤマトよ永遠に REBEL3199」(監督)など。
 【福井智子さん】動画監督。45年以上現場で働き、デジタルハリウッド大で教えながら現役で制作に関わる。代表作に「機動戦士ガンダムUC」(動画検査)など。

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