パンダで変わった「インドア派」の人生。13年写真を撮り続けた男性が見たリーリーとシンシン
47NEWS / 2024年10月1日 10時30分
上野動物園(東京都台東区)のジャイアントパンダ、雄リーリーと雌シンシン=いずれも19歳=が中国に返還される。繁殖研究目的で中国から東京都が「借りる」形だった。日本に来たのは2011年2月。直後に東日本大震災が起きて以降は傷ついた人々の心を癒やし、3頭の子どもたちとともに多くの人を魅了した。
さいたま市のウェブデザイナー高氏貴博さん(46)も、パンダに心をわしづかみにされた一人だ。13年以上毎日のように園に通い、2頭やその子たちの姿を撮影。ブログ「毎日パンダ」で発信してきた。高氏さんの人生はパンダで大きく変わった。(共同通信=江森林太郎)
▽「暇つぶし」で訪れた上野で運命の出会い
シンシン=2015年3月、東京・上野動物園(高氏貴博さん提供)
リーリーとシンシンはいずれも中国・四川省で2005年に生まれた。2011年2月に来日。中国名は雄の「ビーリー(比力)」と雌の「シィエンニュ(仙女)」だった。
翌3月に公募で日本名が決まった。リーリーは漢字では「力力」、シンシンは「真真」と書く。リーリーは「活発で力持ち」、シンシンは「優しい」というイメージが決定理由とされた。
応募数は4万438件。雄雌4点ずつに絞った上で「明るい将来への期待を抱かせるもの」として決まった。リーリーの名は359件、シンシンは127件の応募があったという。
高氏さんが2頭に出会ったのは、来日のフィーバーも落ち着き始めた2011年8月。暇つぶしで園に足を運び、それがリーリー、シンシンとの初対面。その愛らしさと人間のような姿のギャップに心を射抜かれた。
▽おっとりリーリー、自由なシンシン
高氏貴博さん
当時の印象をこう振り返る。「2頭は子どもらしくよく遊び、よく寝ていた。偉そうにササを食べたり、だらしなく寝ていたりするしぐさにも魅了された」
当初は2頭を見分けられなかった。でも、1カ月もすると顔立ちの違いが分かるようになった。性格の違いから行動パターンまでをつかめるようになった。家族のように感じた。「元気そうだね」「体調はどう」。撮影しながら心の中で語りかけた。
高氏さんから見た2頭の性格はこうだ。「おっとりして優しいリーリー」「おやつに目がなく自由奔放なシンシン」。理想的なカップルに思えた。
寝そべるシンシン=8月31日、東京・上野動物園
2012年、2頭の間に赤ちゃんが生まれる。しかし、6日後に死んでしまった。肺炎だった。それだけに、2017年に雌シャンシャンが生まれた時の感動はひとしおだった。「子どもだったシンシンがお母さんの顔になった」と語る。2021年には双子の雄シャオシャオ、雌レイレイが誕生した。
▽突然の帰国、「青天のへきれき」
今年8月30日、リーリーとシンシンの返還が突然公表された。リーリーとシンシンは高齢期に差しかかっている。2022年以降、嘔吐や高血圧の症状が出始め、投薬治療を行っていた。こうした状況を受けて日中の専門家が協議。中国に移動可能な健康状態のうちに、帰国させて治療するのが望ましいと判断されたのだ。
高氏さんにとっては「青天のへきれきだった」。それからは観覧に数時間待ちの行列ができるようになった。「笑顔や元気をもらった人の多い証拠だ」と思った。実際に、お別れにと園を訪れた東京都の女性は取材にこう語った。「愛くるしいしぐさに癒やされてきた。中国でも幸せになってほしい」
竹をほおばるリーリー=8月31日、東京・上野動物園
リーリーとシンシンは高氏さんの人生を大きく変えた。「パソコンが友だち」の生活はアウトドア派に。パンダを通じて数百人の仲間ができた。中国にも3回足を運んだ。2023年に返還されたシャンシャンに会うためだ。
これで上野に残るパンダはシャオシャオとレイレイだけになる。高氏さんは最終観覧日の9月28日も園を訪れ、いつものように写真を撮影した。シャッターを切りながら、心の中で何度も「13年間ありがとう」とつぶやいた。「中国で会えるようになったらすぐに行くね」。古里に帰った2頭との再会を心待ちにしている。
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