米国製長射程ミサイルでロシア本土を攻撃すれば何が起きるか 核報復の可能性は、NATO加盟国への介入も
47NEWS / 2024年10月13日 10時30分
ロシアによるウクライナ侵攻で、同国への欧米供与兵器を巡る情勢が混沌としている。ウクライナはロシアの継戦能力を奪うため、欧米供与の長射程兵器によるロシア領直接攻撃を主張。対して米国などは容認に慎重姿勢を見せている。防衛省の研究機関である防衛研究所の研究者で、ロシアの安保問題などに詳しい山添博史・米欧ロシア研究室長に背景を聞いた。(共同通信=太田清)
―米国は自国製の地対地ミサイル「ATACMS」(射程300キロ)などによるロシアの大都市や深部攻撃を容認していない。ロシアによる戦術核使用などによるエスカレーションを恐れているのか。
山添博史氏(本人提供、共同)
「ロシアが核使用をすれば、欧米は必ず何らかの対応をするが、どのような対応となるかは読めない。それだけリスキーで、必要に迫られない段階でいきなり使用する可能性は低い」
「むしろ、ハイブリッドな攻撃をしてくる恐れがあり、サイバー攻撃や、同盟国ベラルーシから移民をポーランドなどに越境させる作戦、ロシアに隣接するエストニア、ラトビアなどでロシア系住民による騒乱を起こして介入することなどが考えられる」
―エストニア、ラトビアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国だが、ロシアとNATOの武力衝突に発展する恐れはないのか。
「もしNATO内で結束できていないならば、ロシアのハイブリッド攻撃に正規軍で対抗するか否かなどで一致することは難しく、そういった点をついてくることもありうる。欧米供与兵器によるロシア領攻撃に対して、ロシアにはさまざまなオプションがあり、メッセージとして伝えているものとみられる」
―プーチン・ロシア大統領は9月、長射程兵器によるロシア領攻撃が容認されれば、NATO諸国がロシアと戦うことを意味し、紛争の本質を変えると言明した。
9月12日、ロシア北西部サンクトペテルブルクで、記者の質問に答えるプーチン大統領(ロシア大統領府提供・タス=共同)
「プーチン氏が警告のレベルを上げたのは確かだが、(欧米が容認すれば)『適切な決定をする』と述べた部分の口調からすれば、脅しとしては最高のものではない。ロシアには対抗手段があると警告することで、米国に決定をちゅうちょさせ、その実行を遅らせようとする狙いがある」
―プーチン氏は、ウクライナには欧米供与の精密ミサイル攻撃に必要な人工衛星がなく、ミサイル発射任務はNATO加盟国の軍人しかできないと主張し、NATOの直接関与の証左だと主張した。
ミサイル攻撃を受けて煙を上げるロシア黒海艦隊司令部の建物=2023年9月、ウクライナ南部クリミア半島セバストポリ(タス=共同)
「地上での発射運用はウクライナ側が行っている。衛星システムからの情報を基に運用しているのは事実だが、ウクライナはこれまで同様のシステムで、クリミア半島などロシアが占領している領土での軍事施設を攻撃しており、国際的に認められたロシア領土内を攻撃しても、NATO側の作戦上の関与が変わることにはならない」
「ただ、プーチン氏のこの論理の当否より、紛争の本質を変えるという主張は警告の意味があり、後にもし攻撃激化を決定する場合にはそれを正当化する効果を持つ」
―ウクライナのゼレンスキー大統領は、長射程兵器による攻撃に備え、ロシアが軍用機を両国境界から離れた場所に移動させたと述べた。ロシアが備えれば、たとえ攻撃が容認されても効果がそがれるのではないか。
巡航ミサイル「ストームシャドー」=7月、英ファンボロー(ゲッティ=共同)
「軍用機をそれだけ遠距離に移動させれば、ウクライナ領への攻撃出動には労力も時間もかかり、その間に、ウクライナ軍は自軍の損耗を少しでも回復させることができる。大規模に攻撃できれば、ロシア軍用機の破壊も期待できる。現状のような長期の消耗戦では、こうした効果の積み重ねが効いてくる」
「ロシア領深くへの攻撃が容認されれば、現状では地上発射型のATACMSが最も効果を上げるとみている。ストームシャドーなどの空対地ミサイルは攻撃のたびに毎回、航空機に少数のミサイルを積載しなくてはならず、敵地に近づけば、レーダーシステムに捕捉される恐れもある。それに対し、ATACMSは多量の弾薬を高い頻度で敵地に投射できる利点がある」
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1975年大阪府生まれ。ロンドン大スラブ東欧研究所修士。京都大博士。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)客員研究員を経て現職。
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