北欧フィンランドのファーストレディー、実は日本で先生をしていた 22歳新卒女性が経験した1990年代の日本と石川
47NEWS / 2024年11月2日 10時30分
「私の名前はストゥブです」。2024年2月、フィンランド大統領選後の囲み取材のことだった。当選したストゥブ元首相に日本の通信社から来たと名乗ると、突然日本語で返された。驚いた記者にほほえみ、英語に切り替えて「妻が石川県で先生をしていました」とひとこと。それならと、妻のスザンヌさんにインタビューを申し込んでみた。(共同通信ロンドン支局 伊東星華)
▽日本は特別な場所
石川県の復興を願うフィンランド大統領妻スザンヌ・イネスストゥブさん
夏、首都ヘルシンキ中心部から少し離れた住宅街にある大統領公邸を訪ねた。丘の上の門で警備員を呼ぶと、手荷物検査や身体検査もなく公邸に招き入れられた。
現れたスザンヌ・イネスストゥブさん(54)は2024年3月1日にフィンランド大統領に就任したストゥブ氏の妻で、ファーストレディーだ。「日本は私にとって、とても特別な場所なんです」。法律専門家でもあるスザンヌさんは20代前半のころ、石川県で1年間、英語指導助手(ALT)として働いていた。
▽私にぴったり
教え子と一緒のイネスストゥブさん(右から2人目)=1992年(撮影日時不明、本人提供、共同)
生まれ育ちは英中部の小さな町、ソリハル。英国の大学を卒業した22歳の1992年「どこか知らない国で有意義な時間を過ごしてみたい」との思いを抱いていた。日本の地方公共団体などが展開する外国青年招致事業(JETプログラム)を知った。事業は1987年に開始、当時は3千人ほどを受け入れていた。
「私にぴったり!」と応募した。日本側から都会、田舎、小さい町のどれに滞在したいかと聞かれ「小さい町」と答えた。派遣先は、石川県の能登半島の付け根にある羽咋市に決まる。知りもしなかった町で、1992年7月から1年間滞在することになった。
▽初めての日本
「日本語も、日本のこともほとんど何も知らなかった」。初めて訪れた東京でJETプログラムの研修を受けた。ひらがなとカタカナを覚えたが、漢字には悩まされた。「駅の表記すら読めなかった」と苦笑いする。
羽咋市のアパートに住み、数駅先の中学校と高校で毎週、英語指導に携わった。バブル期を経て日本の国際化の必要性が議論されていた時期だった。1998年長野冬季五輪を控え「もっと英語が話せるようになりたい」という生徒が多かった。授業ではゲームやクロスワードパズルを取り入れ、英語を話す楽しさを伝えようと工夫した。
着物の着付けを習うイネスストゥブさん(撮影日時不明、本人提供、共同)
「特に大変だったという記憶はない」。30年以上前の能登地方はまだ外国人が少なかったが、人情に助けられた。「地元の方が珍しがってくれ、いろんなことを教えてくれたし、困ったときには多くの人がすぐ手を差し伸べてくれた」。生け花や料理を通して日本文化を少しずつ学び、「郵便局や病院で困らないくらい」の日本語を覚えた。近所の人に英語を教える代わりに日本の伝統楽器、琴の演奏を教わった。得意の曲は「さくらさくら」だ。その時に手に入れた琴は、大統領公邸に大事に保管しているという。
能登の食や自然も楽しんだ。「肉は食べないので魚のある食卓は助かった」。刺し身やてんぷらといった定番はもちろん「家庭料理が好き」。マウンテンバイクで能登半島や長野県などを巡った。
▽地震の恐怖
琴を演奏するイネスストゥブさん(撮影日時不明、本人提供、共同)
2024年元日の能登半島地震はニュースで知った。「(天災だから)手の施しようがない分、すごくショックだった」と沈痛な表情を浮かべた。「現在でも仮設住宅で暮らしている方も多いと聞き悲しい。美しい町が被災してしまい心が痛む」
羽咋市に滞在中の1993年2月、現地で地震を経験した。近所の寺でのぼりのポールが大きく揺れたことを覚えている。「当時、地震がほとんどないと周囲の日本人から聞いていた。今年の元日の地震にも驚いている」
▽仕事に役に立った経験
石川県羽咋市に滞在していた時のアルバムを手にするフィンランド大統領の妻スザンヌ・イネスストゥブさん=8月20日、ヘルシンキ(共同)
英国帰国後はベルギーの欧州大学で法学修士を取得した。英政府で法律関係の仕事をしながら1997年に英イングランドで弁護士登録した。企業倫理やコンプライアンス(法令順守)が専門だ。
日本での生活経験は法律専門家としての仕事の向き合い方を教えてくれた。物事の考え方が違う日本人と仕事をする中で「同じ事を何度も質問されるうちに私の回答が的を射ていなかったのかなと感じた」という。そこから「正解とか間違いとかではなく、単に人はそれぞれ視点が異なるだけ」と気づいた。「法律専門家として仕事をする時も物事を多角的に見るよう心がけるようになった」
▽ムーミン人気も当然
日本とフィンランドの共通点を聞いた。「伝統的な木造家屋や、人々が平和と静けさをこよなく愛する点でフィンランドと日本は似ているところが多い」と感じた。「だから(大きな花柄のデザインで知られる)マリメッコやムーミンが日本で人気なのも当然でしょうね」と話した。
フィンランド人の夫、アレクサンデル・ストゥブ大統領とはベルギーで出会い、1998年に結婚。2009年に夫の母国に移住した。趣味は夫と共にできるサイクリングやトライアスロンだ。成人した子どもが2人いるという。
外部リンク
- 違憲判決は「当然の結論」?LGBTQ訴訟に携わる弁護士の思いとは 「座して待つわけにはいかない」権利擁護へ続く挑戦
- 帰省中に能登半島地震で被災―。孤立した古里で、つながりを感じた6日間 来春から社会人の22歳「経験を生かしたい」
- 「若返りに成功した五輪」トルシエジャパンの通訳ダバディーさんが見たパリ五輪の現実 パラはバリアフリーに課題、2人の日本人選手を称賛
- 被爆者運動に携わって半世紀以上の栗原淑江さん。アーカイブ化で次世代に記憶つなぐ【つたえる 終戦79年】
- 大手の独壇場に風穴をあけたLCCジップエア、国際線利用で浮かび上がった「注意点」は? 成田―ホノルル線をANAと比較した 『鉄道なにコレ!?』【番外編】
この記事に関連するニュース
-
能登のきらめき~幾人もの思いが刻まれる心の道「峨山道」~
テレ金NEWS NNN / 2024年11月19日 16時21分
-
復興願い七五三参拝者に輪島塗箸 石川・羽咋の気多大社が授与
共同通信 / 2024年11月15日 10時56分
-
稲作4割減、護岸崩壊で水田が沼に 能登半島地震、国の動き鈍く遠い復興
共同通信 / 2024年11月15日 8時3分
-
石川県羽咋市と『能登震災復興支援便』を開始いたしました
PR TIMES / 2024年11月6日 18時45分
-
能登半島地震復興支援 被災蔵共同醸造支援プロジェクト「能登の酒を止めるな!」が「ACC TOKYO CREATIVE AWARDS」クリエイティブイノベーション部門 ACCゴールドを受賞
PR TIMES / 2024年11月5日 11時45分
ランキング
-
1“長距離ミサイル攻撃”駐日ロシア大使が批判…西側諸国が「露と戦うということ」
日テレNEWS NNN / 2024年11月21日 18時11分
-
2ロシアがわずか1000km先にICBM発射情報、アメリカへ「核攻撃いとわない」警告か
読売新聞 / 2024年11月21日 20時1分
-
3対人地雷供与はロシアの戦術変更に対応するため 米国防長官
AFPBB News / 2024年11月21日 14時9分
-
4ザビエルの遺体に祈り、インド 10年に1度の一般公開
共同通信 / 2024年11月21日 19時49分
-
5ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外務省報道官
ロイター / 2024年11月21日 18時33分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください