日本軍は捕虜に過酷な生活を強いた。資料は終戦直後に焼却。「ふたをされた負の歴史」を掘り起こした女性に聞く【つたえる 終戦79年】
47NEWS / 2024年11月3日 10時0分
太平洋戦争中、日本軍は捕虜にした連合国軍の兵士らを日本国内に連行した。彼らは各地の収容所で強制的に働かされ、その数は約3万6千人に上るとされる。過酷な労働や栄養不足が原因で多くの死者が出たが、実態はあまり知られていなかった。
捕虜はどこで、どんな扱いを受けていたのか。そんな疑問に向き合い、仲間と一緒に20年以上にわたって調査を続けた女性がいる。元捕虜たちの声に耳を傾け、記録をまとめた事典を刊行した笹本妙子さんに話を聞いた。(聞き手 共同通信=福島聡)
▽自宅近くの墓地、調査のきっかけ
新潟県の「直江津捕虜収容所」で死亡したオーストラリア兵捕虜の碑(右)と捕虜虐待の罪で死刑になった8人の日本人所員の碑(左)。離れて立つ2つの慰霊碑の間には収容所跡地を示す碑(中央)も建てられている=新潟県上越市の平和記念公園
捕虜収容所は国内に約130カ所もありました。その他に日本に住む連合国籍の民間人が、スパイ活動防止などを理由に約30カ所の抑留所に収容されていました。これについて「捕虜収容所・民間人抑留所事典」(すいれん舎)にまとめて昨年末に刊行しました。千ページ近い分量です。
出発点は横浜市の自宅近くにある英連邦戦死者墓地です。墓碑を見ると、死亡したのは1942年から45年にかけてでした。なぜ英国やオーストラリアの兵士の墓がここにあるのか、と疑問を持ちました。
▽「戦争の知識なし」から自費出版
近所に住む人に聞いても、知らないと言われ、地元の図書館で調べても資料がない。1997年、この墓地で慰霊行事が日本人によって行われた、という新聞記事を読み、彼らが捕虜として連れてこられ死亡したのだと分かったのです。
衝撃的でした。身近にあるのに全然知られていない。自分で探るしかないと思いました。
それまで戦争に関する知識はそれほどありませんでした。まずは京浜地区の収容所について調べ、1999年に自費出版で冊子をまとめました。これが新聞記事で取り上げられると、読者から多くの情報が寄せられました。全国各地に捕虜について調べている人たちがいることも分かりました。
そこで仲間と2002年に「POW(Prisoner of War=戦争捕虜)研究会」をつくって全国的な調査を始めました。
▽焼却された資料、ふたをされた歴史
日本側は関係資料を終戦直後に焼却しています。戦犯裁判で連合国に追及される恐れがあるので「ふたをしたい歴史」だったのでしょう。米国の国立公文書館などで資料を探し、施設があった地元で証言や資料を集めました。メンバーで手分けをして米国、英国、オーストラリア、オランダなどを訪ね、元捕虜らの話も聞きました。
調べていくと、例えば東京・大森の収容所には、捕虜にすさまじい暴力を振るうことで有名な下士官がいたことが分かりました。理不尽な扱いが横行するような実態があったのです。
▽捕虜虐待の問題、若い世代に
笹本妙子さん
米国の元捕虜の会合に参加した時には、日本人と分かると「つらい記憶を聞いてほしい」と私の前に行列ができるほどでした。深刻なトラウマを抱えていて、私と話しているうちに激高する人もいました。
捕虜に暴力を振るっていた人も、家に帰れば「いい父親」「いい息子」だったのかもしれません。軍隊が人間性を奪ったり、戦争によって人間性がゆがめられたりしてしまう、という面もあったのでしょう。捕虜の扱い方について、正しい教育を受けていなかったことも問題でした。こうした歴史を知ると、何とか多くの人に伝えたいと思うようになりました。
捕虜虐待の問題は今も世界で起きています。戦争の一断面として知らなければならないことではないでしょうか。特に若い世代に読んでほしいと思っています。
× ×
ささもと・たえこ 1948年宮城県生まれ。POW研究会共同代表。著書に「連合軍捕虜の墓碑銘」がある。
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