アメリカ大統領選最終盤、勝敗決める激戦州はどんな場所? 争点をおさらい、ホワイトハウスの主になるのは誰だ
47NEWS / 2024年11月4日 10時0分
11月5日に投票日を迎えるアメリカ大統領選。その勝敗は、七つの激戦州が握る。選挙戦最終盤、民主党候補のハリス副大統領(60)と共和党候補のトランプ前大統領(78)はそれぞれ激戦州を駆け回り、資金をつぎ込んで大量の広告を流すなど支持獲得に必死だ。なぜ激戦州は重要なのか。各州で何が争点になっているのか。ホワイトハウスの主になるのはどちらなのだろうか。(共同通信ワシントン、ロサンゼルス支局)
※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。
▽総得票数で負けても大統領に?
アメリカの大統領選は得票総数ではなく、50州と首都ワシントンに人口に応じて割り振られた選挙人計538人の獲得を競い、過半数の270人を得た候補が当選する。人口が多い西部カリフォルニア州で勝てば54人、南部テキサス州では40人の選挙人を得られる。人口が少ない東部デラウェア州や首都ワシントンは3人ずつだ。
大統領選挙人制度と呼ばれ、憲法で規定されている。2000年に共和党のジョージ・ブッシュ氏、2016年にトランプ氏が、総得票数では相手候補に及ばなかったものの、選挙人270人を獲得して大統領の座に就いた。両選挙で敗北した民主党からは「制度を廃止すべきだ」との声が上がるが、憲法改正が必要なこともあり、ハードルが高い。
▽パープルステート
勝敗を握る七つの激戦州
大多数の州は民主党、あるいは共和党の優勢が明確で、今回の大統領選でも投票日の前から結果が見えている。これを基に計算するとハリス氏は226人、トランプ氏は219人の選挙人の獲得が確実視されている。
どちらが勝つか予測がつかない激戦州は今回七つ。大統領選のたびに勝者が入れ替わるスウィングステート(揺れる州)、民主党のシンボルカラーの青と共和党の赤が混じったパープルステート(紫の州)とも呼ばれる。ハリス氏とトランプ氏が7州の選挙人計93人を争う構図だ。
▽さびた工業地帯の揺れる有権者たち
七つの激戦州の特色を順に紹介しよう。
まず激戦州のうち三つは、アメリカ東部から中西部にかけ、鉄鋼や自動車などの主要産業が衰退したラストベルト(さびた工業地帯)に位置する。もともと民主党地盤のブルーウォール(青い壁)と呼ばれていたが、産業構造の変化に取り残されて不満を募らせていた白人労働者が2016年大統領選でトランプ氏を支持し、勝利に貢献した。
(1)東部ペンシルベニア州(選挙人19人)
USスチール工場に続く、廃墟が並ぶ大通り=10月4日、ペンシルベニア州ピッツバーグ近郊(共同)
七つの激戦州の中で最も多い選挙人19人が割り当てられており、今回の大統領選の最重要州と目される。かつては世界有数の鉄鋼の町として栄えたピッツバーグは、日本製鉄による大手USスチール買収計画で揺れる。全米鉄鋼労働組合(USW)は強く反発するが、実際に工場で働く労働者には生活維持を期待し賛成する意見も多い。さびれた町で聞こえてくるのはトランプ氏への期待だ。「トランプ時代は今よりもずっと暮らしがよかった」(30代男性)
(2)中西部ミシガン州(選挙人15人)
パレスチナ自治区ガザの犠牲者を追悼するアラブ系米国人ら=10月7日、ミシガン州ディアボーン
四つの湖に囲まれたミシガンには、自動車産業の中心地として知られるデトロイトがある。これまでの大統領選とは違い、今回は中東情勢が重要争点となっている。州人口のうち全米で最も高い割合の2%をアラブ系住民が占め、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃やレバノン空爆で家族や友人を失った人も多い。イスラエルへの軍事支援を続けるバイデン政権への怒りが広がり、以前は民主党寄りだった有権者も「ハリス氏にもトランプ氏にも投票しない」と話す。
(3)中西部ウィスコンシン州(選挙人10人)
同じ町内で、住宅の庭先に飾られたハリス氏とトランプ氏の看板=10月4日、ウィスコンシン州スタージェンベイ
酪農やビール醸造が有名なウィスコンシンは、2020年に民主党バイデン大統領が勝利したが、トランプ氏との得票率の差は0・63ポイントだった。ハリス氏とトランプ氏への支持が拮抗する地域では住民同士が対立し「俺は民主党支持者に囲まれている」と警戒心をあらわにし、近隣を見渡す高齢男性もいた。最大都市ミルウォーキーの近郊でトランプ氏を支援する70代の女性は「昔は誰も自宅に鍵を掛けなかった」と話し、治安悪化はバイデン政権の移民政策の失敗が原因だと批判する。一方、元教師でLGBTQなど性的少数者を支援する団体のアビゲール・スウェッツ事務局長(42)はバイデン政権下で進んだ少数者の権利擁護政策は「トランプ氏が再び大統領になれば大きく後退するだろう」と懸念した。
▽温暖なサンベルト、焦点は移民と中絶
残りの激戦州四つは南東部から南西部にかけての温暖地域サンベルトにある。両陣営が支持獲得で焦点としているのは、世論が真っ二つに割れる人工妊娠中絶の権利とメキシコとの南部国境から押し寄せる不法移民への対応だ。
中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード」判決は、2022年6月、最高裁によって覆された。トランプ氏が大統領在任中に最高裁に保守派の判事3人を送り込み、判事9人のうち保守派が6人となったことが背景にある。
バイデン政権下では、アメリカでの滞在許可を得ないまま南部国境を超える移民希望者が急増した。多くは出身国の政情不安や治安悪化により、アメリカに移り住むことを希望して押し寄せてくる。警備をかいくぐって秘密裏に入国するため不法移民と呼ばれる。トランプ氏は「不法移民は暴徒や犯罪者」として、大量の強制送還を約束している。
(4)南部ジョージア州(選挙人16人)
人工妊娠中絶医療を提供する施設の前で「中絶をなくすために祈ろう」と書いたプラカードを設置する女性=10月3日、ジョージア州アトランタ
州都アトランタにコカ・コーラなどグローバル企業の本拠地が集積する一方、ジョージア州はキリスト教福音派が多い保守的な側面がある。ジョージア州では2022年7月、妊娠約6週より後の中絶を禁じる州法が発効した。厳格な規制のため、流産の医療措置が必要な場合でも拒否する病院があり、母胎が危険にさらされ、死亡するケースが後を絶たない。双子を妊娠し、うち1人を流産した可能性が高まった際に、中絶規制を理由に必要な医療措置を受けられなかったジュリア・カラハンさん(26)は「中絶は女性の権利。規制があるから必要な妊婦検診を受けられずに母親の命が危険にさらされ、死亡する危機が生じている」と訴え、権利擁護を訴えるハリス氏を支持する。「妊婦にとって安全な州法ができるまでは、もう子どもを産むつもりはない」
(5)南部アリゾナ州(選挙人11人)
米国とメキシコの国境沿いに設置された鉄柵=9月、アリゾナ州ダグラス近郊
大リーグの大谷翔平選手が所属するドジャースのキャンプ地があるアリゾナはメキシコと国境を接する。そのアリゾナでは2024年1~8月、税関・国境警備局が不法越境者25万人以上を摘発した。不法移民を運ぶ車を追う捜査車両のサイレンは日常の一部という。イボンヌ・メイヤーさん(81)は、自衛のため自宅玄関に拳銃を置く。国境を巡る混乱を解消してくれると信じ、トランプ氏に1票を託す。一方、同州ダグラスで長く国境警備隊員を務めたロバート・ビクターさん(56)は、移民の大規模強制送還を掲げるトランプ氏はアメリカが必要とする労働力も排除しかねないと感じる。バランスの取れた移民政策を望み、ハリス氏に投票するつもりだ。
(6)南部ノースカロライナ州(選挙人16人)
ハリケーン「ヘリーン」による洪水で泥にまみれた町=10月2日、ノースカロライナ州アッシュビル
ノースカロライナはライト兄弟が1903年、初飛行に成功した場所として知られる。トヨタ自動車が車載用電池工場を建設中で、岸田文雄前首相が2024年4月の訪米の際に視察した。この年の9月末に来襲したハリケーン「ヘリーン」で甚大な被害を出した。トランプ氏は被災地支援が共和党に不利になるように進められ、災害支援金が不法移民のために使われたなどと虚偽の主張を繰り返した。ハリス氏はハリケーンを巡る偽情報が流布され、支援活動が妨げられていると批判するなど、最終盤で被災対応が新たな争点として浮上した。
(7)西部ネバダ州(選挙人6人)
ネバダ州ラスベガスで開いた集会で、ハリス副大統領がスクリーンに映し出される中、演説するトランプ前大統領=9月13日
ネバダといえば、ラスベガスだ。2008年以降の大統領選では民主党が勝利しているが、両党候補の差は縮まっており、前回はバイデン氏が2・4ポイント差で競り勝った。最近の世論調査でハリス氏が約1ポイント上回る程度で、接戦が続く。注目は「チップ課税撤廃」政策だ。トランプ氏は、観光業が盛んで接客業の従事者が多いラスベガスで、チップ収入に対する課税を撤廃する案を打ち出した。ハリス氏も追随。両陣営は支持獲得につなげようとしている。
▽ハリス氏はラストベルト3州獲得が「勝利への道」
ハリス、トランプ両氏は激戦州のうちどの州で勝利すれば、選挙人270人に到達できるのか。米メディアは、ハリス氏の「確実な勝利への道」としてラストベルトのペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの勝利を挙げる。
この3州は、2016年に民主党のクリントン元国務長官がトランプ氏に敗北した以外は、ほぼ民主党候補が勝ち取ってきた。3州の選挙人の合計は44人で、勝てばハリス氏の選挙人は270人ちょうどとなる。ただ世論調査では各州で両氏の支持率にほとんど差がなく、どの州もどちらの候補が勝つのか、最後まで予断を許さない状況だ。
▽トランプ氏はサンベルトにプラス1州で過半数
トランプ氏はサンベルトの州の支持率でハリス氏を上回るケースが多い。このためジョージア、アリゾナ、ノースカロライナで勝利した上、ラストベルト3州のうち1州でも取れば270人を超える。
最後に、選挙人が269人対269人になった場合はどうなるのか。来年1月招集の新議会で下院が大統領、上院が副大統領を選ぶことになる。下院は州ごとに1票を与えられ、過半数の26票を集めた候補が大統領に選出される。選挙人が同数で決着がつかず下院での投票にもつれこめば、1824年の大統領選以来200年ぶりの出来事になる。
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