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屈辱的だった無精子症、「精子提供」を選んだ家族の子への告知の在り方は

47NEWS / 2024年11月7日 10時0分

AID当事者支援会の寺山竜生さん(右端)と家族=2024年8月、東京都内

 「親切な人がたまご(精子)をプレゼントしてくれて本当に良かったよ」。一般社団法人AID当事者支援会代表理事の寺山竜生さん(51)は、第三者の提供精子による人工授精(AID)で生まれた2人の娘がいる。不妊治療の一つであるAIDを受ける選択は、自分以外の男性から精子提供を受けるということ。無精子症と判明してから屈辱的な気持ちを鼓舞し、悩んで夫婦で話し合った結論だった。国会では第三者が関わる生殖医療のルールに関する法整備の議論がなかなか進まない。寺山さん夫婦は子どもの成長に触れながら「事実を伝えるだけでなく『大切な家族の1人』と伝えたい」と子どもたちに日常的に〝告知〟できる環境作りを大事にしている。(共同通信=寺田佳代)

 ▽原因は妻じゃない

 「見えませんね」。2013年、不妊治療の通院先に一人で行った妻が、精子の数や動きを調べる「フーナーテスト」の結果を見た医師に告げられた。性交後に子宮の出口にあたる「子宮頸管」の粘液に含まれる精子の状態を調べる検査で、精子が確認できないという。
 男性の100人に1人とされる無精子症だった。「よせば良いのに、何も知らずに駅に迎えに行っちゃったんですよ」と寺山さんは苦笑する。迎えに行った最寄り駅で、妻は泣いていた。
 まさかと思った。自分が原因を作っていると思わず、屈辱的な気持ちを隠せなかった。親のせいと考え、学生時代に打ちこんだスポーツで海外から取り寄せていたサプリを原因と疑っては含有成分をひたすら調べた。「自分の逃げ道をとにかく作りたかった」。夫婦の会話は減り、最終的には考えるのも嫌になった。
 「(無精子症の)判明からAIDに進むまでが一番つらかった」と妻は振り返る。「本当に子どもが欲しいのか」「血縁が本当に重要なのか」夫婦で話し合いを重ね、養子縁組やAIDの説明会に足を運んだ。選択肢は頭文字で呼び合い、帰り道や外出先でも話題に出しやすくする工夫をした。
 意見がぶつかることもあったが「事実を受け入れ、子どもを迎える土台を作るために必要だった」と寺山さんは話す。それでも、周囲に無精子症の人はおらず孤独だった。怖くなると手帳に貼った世界地図を広げ「1人じゃない」と自分を鼓舞した。自分の心を支えるために「恥ずかしくて言えないような習慣がたくさんありました」

 ▽覚悟


AID(非配偶者間人工授精)について語る寺山竜生さん=2024年8月、東京都内

 2年の話し合いの末、夫婦の考えに一番合っていたAIDを受けることにした。妻に「(私がいなくなっても)1人でも育てていけるの」と聞かれ、血縁がないことを言い訳にしないと決めた。「第三者の精子を使うことは2人で出した結論。それなら、2人の子どもだ」
 人工授精を20回行ったが結果が出ず、不妊治療が充実している台湾へ渡航。匿名の同じドナーからの提供で2018年に長女、2023年には次女が生まれた。「正直、本当に受け入れることができたと実感したのは生まれてから」と寺山さんは喜びをかみしめる。覚悟は決めていたが本当に愛せるのか、生まれる瞬間まで不安だった。
 本や生まれた当事者から、出生の事実を隠されたことで深く傷ついたという話を聞き、子どもへの告知はすると決めていた。寺山さんは「当事者の声を聞いていたから、僕らはより良い形で告知ができている」と感じている。娘の顔を見ると、思わず告知せずにいたいとも思ったが「しない選択肢はなかった。子どもの人生だから」。

 ▽居場所


寺山竜生さんが子どもへの読み聞かせに使っている絵本

 「うちはどんな家族か分かる?」。告知は出産前から、妻のお腹に向かって準備運動のつもりで自分の言葉で伝えてきた。成長につれて絵本を使った説明や、何げない生活の場面でも話しているが「親切な人って誰?」「妹の時もたまごはなかったの?」と聞かれることも。「どんなことが伝わっていて、どんなことが伝わっていないか娘から学ぶことばかり」と妻は話す。疑問をすぐに聞ける環境作りが大切とも感じている。
 寺山さんはAIDで生まれた女性に、自分の出自を親からどう伝えてほしかったか相談したことがある。「『あなたの居場所は永遠にここで、帰る場所も変わらない』と伝えてほしかった」と言われた。寺山さんは気付かされた。「事実を伝えることが告知だと思っていたが、そうじゃなかった。大切な家族の1人だと伝えることが告知なんだ」

 ▽子が生きやすい社会に

 現在、国内で議論されている第三者の精子や卵子を使った不妊治療に関する新法の最終案では、子が18歳になった後に要望すれば、身長・血液型・年齢などの提供者情報を開示することを柱としている。寺山さんは「今の状態では、告知する時に人となりを伝えることが難しい」と考えている。
 一方で、最終案には出生した子が事実を知ることができるよう、夫婦が適切な配慮に努め、国は必要な体制の整備を図らなければならないと明記された。この点は「良い一歩」と歓迎する。「僕らの存在も社会に伝えていかなければいけないし、子ども達にも隠れた生き方はしてほしくない」と告知の必要性を訴える。2022年にはAID当事者支援会を立ち上げ、同じように悩む夫婦のカウンセリングや講演活動にも力を注いでいる。
 子どもたちが成長しても「質問されたらどうしよう」とは思わない。家と外でダブルスタンダード(二重基準)を作らないよう、長女には「大切な話だから、誰かにお話しするときはパパとママと一緒に話そうね」と伝えている。「親が全部答えを持っている必要はない。ありのままを伝えて、一緒に考えていきたい」
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AIDに関する情報を共同通信・生殖医療取材班、science@kyodonews.jpまでお寄せください。

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