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レディース暴走族のトップで覚醒剤の売人だった女性は、改心し「みんなの母親」目指す(下) 過去を武勇伝のように語る彼女に、正直な思いをぶつけると―

47NEWS / 2024年11月10日 10時0分

「大伸ワークサポート」の社員旅行ではしゃぐ社長の広瀬伸恵さん=2024年8月、福島県猪苗代町

 「札付きの悪女」で、獄中出産まで経験した広瀬伸恵さん(46)。「居場所があれば人は更生できる」と、栃木県栃木市に建設会社「大伸ワークサポート」を設立した。社員約40人の約8割が刑務所や少年院からの出所者だ。
 何度社員に逃げられ、裏切られても、出所者を雇い続ける。そんな広瀬さんの活動には意義がある。そう考え取材を進めたが、昔の過ちを武勇伝のように語る姿には、戸惑うこともあった。報道していいのか、悩んだ。そのことを正直に伝えると、彼女の答えは―。(共同通信=鷺森葵)

 (上)はこちら:レディース暴走族のトップで覚醒剤の売人だった女性は、改心し「みんなの母親」目指す 何度裏切られても、刑務所や少年院を出た社員を雇い続け…

 ▽受刑者専用求人


受刑者専用求人雑誌「Chance!!」

 大伸への応募者は全国にいる。最も多いのが、受刑者専用求人雑誌「Chance!!」を読んだ人だという。刑務所の中で就職活動ができ、手紙でやりとりを始める。
 広瀬さんは誌面にこうメッセージを寄せている。
 「誰もが過去を変えることはできないけれども、未来は変えることができます。私は決して見捨てたり見放したりしません! 人は誰かの支えで必ずやり直すことができるのです」
 応募してきた全員を雇うわけではない。
 「もう二度としませんは、うそくさい」と広瀬さん。再犯しない理由や犯罪に走った経緯に注目する。そして、面接のため全国各地の刑務所に車を走らせる。

 ▽プレハブに入寮


社員寮として使っているプレハブ=2024年8月、栃木市

 「おかえり」。8月、新潟刑務所から出所した50代の男性2人が広瀬さんに迎えられた。そのうちの1人は、金さん。
 「新潟まで2回も面会に来てくれた。衣食住がそろってるなんて環境、本当にありがたいですよ」
 出所者は、広瀬さん宅に併設されたプレハブで暮らし始める。
 新人2人の「入寮」翌日、広瀬さんはさっそく、2人の新生活準備に取りかかった。
 まずは健康診断。午後は家具店や携帯電話ショップへ。元受刑者は契約できないケースも多いため、広瀬さんが会社名義のスマホを契約して渡す。丸1日を使って手続きと移動を繰り返す間、ひっきりなしに広瀬さんの携帯電話が鳴る。驚くほど忙しい人だ。

 ▽拾ってくれた恩を返したい


半年間限定で働く末吉優一さん=2024年8月

 半年間限定の予定で働いている末吉優一さん(31)は、広瀬さんから「やりたいことやって駄目だったら、帰ってくればいいじゃん」と迎えられた。
 末吉さんは14歳の時から何度も逮捕されてきたと身の上を話す。
 「刑務所は衣食住がそろっていて、何も考えずにすむ。塀の中に戻りたくなる時もある」
 出所してから約4年半。拾ってくれた広瀬さんに「1ミリでも役に立って、成長した姿を見せたい」。
 刑務所と社会を行ったり来たりとトラブルの絶えないたくさんの人が、広瀬さんの下に集まってくる。広瀬さんは今後、女性も働きやすい職種を開拓しようと、ビジネスホテルの運営も始める計画だ。
 こうして会社が成長すると、新たな悩みも出てきた。


ビジネスホテルの改装工事をする大伸社員たち=2024年8月、栃木県栃木市

 ▽家族か仕事か

 「40人規模の母ちゃんにはなれない」
 いま広瀬さんは、大切にしてきた「家族」がおざなりになることにジレンマを抱えている。
 社員から「社長としゃべる機会がなくなった」と寂しさを吐露されたことがある。娘からは「ママは従業員のことばっかりで、ちいちゃんのこと後回しだよね」と言われた。
 娘のために頑張ってきたはずが、昔の自分と同じ寂しい思いをさせているのでは―。娘は、広瀬さんの娘であるが故に、「あの子と遊んではいけない」と後ろ指をさされたことがあるという。
 「罪のないちいちゃんに、私が昔したことが違う形で返ってくるのが怖い。将来の幅も狭めてしまっていると、負い目を感じる」
 広瀬さんの語りは、いつも本音だと思える。

 ▽「元」でも犯罪者


広瀬さん宅で夕飯を囲む社員たち=2024年9月

 広瀬さんが出所して15年がたつ。しかし、「元犯罪者」のレッテルは今も付きまとう。近所では応援してくれる人もいるが、一部からは「犯罪者の集団だ」と見られ、信用されていないと感じるという。
 「関わりたくないと思うのが普通だと思う。『元』でも、犯罪者。ずっと続くと思う」
 娘への負い目、リンチした仲間、薬物を売った客、暴走行為で迷惑をかけた人―。たくさんの「罪」の上に、今の生き方がある。
 「はっきり言って、出所者を雇うのは社会貢献や罪滅ぼしなんかじゃない。自分の居場所作り」
 自分の居場所が、元受刑者らの居場所にもなってきた。この場を守ることが、広瀬さん自身を守ることにもなる。
 「私は弱いから、一番大事なちいちゃんがいなくなったり、会社が駄目になったりしたら、犯罪でお金を作ろうと思うかもしれない。二度と犯罪をしないとは約束できない」

 ▽取材を終えて


2024年6月、全焼したリフォーム中の社員寮を調べる消防隊員=栃木市(大伸ワークサポート提供)

 記者がパワフルな広瀬さんに出会ったのは、2024年6月7日の火災がきっかけだった。
 栃木県栃木市の2階建て一軒家から出火し、2軒が全焼したとの警察発表。火元の家の持ち主に取材のため電話すると、出たのが広瀬さんだった。リフォームしていた社員寮が全焼したという。
 「お隣さんに申し訳ない。残念ですけど、社員に裏切られるよりマシ。人の心はお金じゃ買えないからね。私が前向きで元気じゃないと社員も元気じゃなくなっちゃう」
 初めて言葉を交わす記者に対して、自身の境遇を包み隠さず話し、火災の被害者とは思えない明るさだった。
 その時に広瀬さんの活動を知り、興味を持って取材を申し込んだ。答えは「いつでもいいですよ。元受刑者も真面目に働いて更生できる、頑張っていることを多くの人に知ってもらいたい」という言葉だった。
 大伸の広瀬さんは立派だ。でも、恐ろしい過去を意気揚々と語る広瀬さんは、怖い。嫌な顔をされるかもしれないが、そのことを正直に伝えた。答えは「感じたことを、ありのままを書いていい」だった。「みんなの母ちゃん」として生きる彼女に、一つ言えることがある。裏表のない人。

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