「プロ野球90年」ティモンディ・高岸宏行さんが振り返るプロ選手を目指した日々 「諦めたのは挫折ではありません。あの経験があるから今がある」
47NEWS / 2024年11月15日 10時0分
発足から90年を迎えたプロ野球への思いを聞くインタビューシリーズ。今も独立リーグでプレーするお笑いコンビ「ティモンディ」の高岸宏行さんが、プロを夢見て野球に打ち込んだ日々を振り返った。(聞き手 共同通信・小林陽彦、児矢野雄介)
▽日本シリーズに憧れて
西武時代の松坂大輔の投球フォーム=2006年8月、千葉マリンスタジアム
最初にプロ野球に憧れたのは小学4年の頃、2002年の日本シリーズかな。巨人の上原浩治さんが投手で打者が西武の松井稼頭央さん。テレビ中継も試合前から緊張感があって、すごい祭典なんだなとわくわくしてながらプレーボールがかかるところを見たのがすごく印象に残っています。あれを見て「この中の人たち格好いい。目指してみたい」と思いました。
少年野球のチームに入ったのは3年生の時。友達に誘われて、なんとなく入ったという感じで、野球にはまっていったのは4年生の頃だったと思います。5年生ぐらいからはピッチャーでプロ野球にいきたいと思い、全ての時間を野球にかけたいという気持ちで生活していました。朝起きたら家の前で壁当てや素振り、ダッシュをして、みんなが登校し出したら道具を置き、ランドセルを背負っていくのが日課でしたね。
2006年の巨人戦で1安打完封したソフトバンクの斉藤和巳=ヤフードーム
上原さん、西武の松坂大輔さんにソフトバンクの斉藤和巳さん。フォームの連続写真を見て、その時のすごい投手はみんなまねした。140、150キロと球速が上がっていくにつれて、どんなタイプの投手としてプロに入り活躍するのか、明確にイメージするようになりました。
▽応援される側から応援する側に
愛媛・済美高の時に、2球団がドラフト下位か育成選手での指名を検討しているという話を監督づてに聞きましたが、指名されるかどうか分からないぐらいの実力で待つよりは、大学にいってからドラフト上位を目指した方がいいんじゃないかということで東洋大に進みました。
でも練習に参加した初日から、こんな高いレベルの中でやれるのかという焦燥感。毎日200球ぐらい投げ込みをしたり、そこからイップスになったり。自分に課しすぎてしまったというか、1年生のうちに公式戦で投げないとドラフト1位なんて言っていられないと思って、自分で必要以上にプレッシャーをかけてしまった。イップスを治そうとしてもっと投げ込んで、肘を壊して投げられなくなってという悪循環でした。
3年生の終わりごろに退部しました。僕は全額免除の特待生だったのですが、1年ごとに更新する仕組み。イップスで打撃投手もできず、戦力にもなれない自分がその待遇を受けるのは違うのではないかと思って監督に相談したところ、「じゃあ最後の1年は自分でアルバイトをして、学校だけは卒業しなさい」ということで退部した形ですね。
プロ野球選手になりたいという一心で生活してきたのに、その原動力となっていた〝ガソリン〟を失い、何のために生きるかまで考えてしまった。野球のことを考えるのがつらかったので、考える時間ができないように無理やりアルバイトを詰め込みました。うどん屋さんの早朝のバイトから、ジムトレーナーだったり、居酒屋だったり、一時は三つぐらい掛け持ちしていましたね。
大学4年生になって、地元の人たちに「野球やめたよ」と報告にいきました。小中学生の頃のチームメートや親戚から、「お疲れさま。ありがとう」って言われたんです。いかにみんなが僕を応援してくださっていたか。こういう人たちに恩返しができる仕事がしたいと思いました。
色紙を掲げる高岸宏行さん=2024年7月11日、東京都品川区
応援されてきた人生から、応援する人生に。サンドウィッチマンさんが東日本大震災の復興支援で「東北頑張れ!」ってみんなを鼓舞しているのを見て、芸人さんってこうやって勇気を与える仕事なんだというのが印象的で、「これだ」と思いました。
プロを目指して諦めた経験が挫折だとは、今は感じません。あの経験があるから今があると思っているので。一生懸命に夢を持って、ひたむきに、魂を燃やして生きる大切さを、自分の体験もメッセージの中に乗せて伝えることができます。夢を持って頑張ることで人って輝きますから。
▽人と人とをつなぐツール
独立リーグのルートインBCリーグ栃木で登板した高岸宏行さん=2022年8月、宇都宮市
今は独立リーグのルートインBCリーグ、栃木ゴールデンブレーブスで野球をしています。独立リーグって月に10万円とか、ぎりぎり生活していけないぐらいの待遇なんです。他にアルバイトをしないと生きていけないぐらいの給料。でも毎日、本気の本気で朝から晩まで練習しているわけですよ。プロ野球はそれほど目指したくなる舞台、人間にパワーを与えられるような存在なんだなと日々感じています。
どの収録の現場でも、楽屋や本番の横のたまり場ではプロ野球の話題になります。初対面の先輩でも「野球をやっていたんだよね?どこファンなの?」と聞かれるなど、人と人とをつなぐツールで、性別や年齢を問わずみんなで一つになれる共通言語になっています。食レポやバラエティー番組では「ストライクゾーン」「うちの4番バッター」と野球に例えるとうまく伝わる。長い歴史と、愛される存在であることを感じます。間違いなく人間が熱くなれるコンテンツ。
高校野球も応援しています。僕も甲子園という夢や目標を持つことで、つらい経験も自分の成長のためだと思って乗り越えることができました。何よりも好きな野球を全力で楽しむことを忘れずに、目の前の勝負に挑んでほしいと思います。
いろんな結果がありますけど、悲観的にならず、自分を責めずに、どんな結果も前向きに捉えてほしい。成功か失敗かに関係なく、一生懸命に本気でトライしたことは、必ず自分自身の成長につながります。皆さんなら「やればできる!」と伝えたいです。
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