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年間スポンサー収入「0円」の競技団体も…障害者スポーツ「マイナー」に危機感 助成金頼み、窮状を打開できるか

47NEWS / 2024年11月23日 10時0分

パリ・パラリンピックの競技会場

 障害者スポーツのうち馬術や射撃など「マイナー」とされる競技の運営が、助成金に頼らざるを得ない状況に陥っている。2021年のパラリンピック東京大会後、スポンサー支援などが低迷し、収入に占める助成金の割合が7~9割の競技も。9競技の団体は2023年6月に新組織「P.UNITED」を設立し、窮状の打開に向けて連携することでスポンサー収入などを増やしたい考えだ。パリ大会が閉幕し、4年後のロサンゼルス大会を見据えた取り組みが注目される。(共同通信=稲本康平)

 ▽年間スポンサー収入はフェンシング0円、アーチェリー30万円…

 「助成金がいつまでも続く保証はない。このままでは運営が立ちゆかなくなる」。日本パラ射撃連盟の理事でP.UNITEDのプロジェクトマネージャー、野口尚伸さん(59)は危機感を募らせている。


 P.UNITEDを設立したのは▽射撃▽馬術▽フェンシング▽アーチェリー▽カヌー▽カーリング▽パワーリフティング▽知的障害部門の卓球▽知的障害部門の競泳―の9競技団体。


 各団体への9月11日までの取材によると、直近の事業年度収入は2770万~9340万円(平均5270万円)。助成金は1970万~8770万円(平均3960万円)だった。収入に占める助成金の割合はフェンシングが99%と最も高く、馬術は9割、パワーリフティングは8割、射撃と知的障害競泳、カーリングの3競技は7割を超えている。
 スポンサー収入は▽フェンシング0円▽アーチェリー30万円▽パワーリフティング170万円▽馬術290万円▽知的障害競泳390万円。残る4競技団体は440万~700万円だった。

 ▽資金難、競技に集中できず…選手の苦悩


 射撃の運営状況は厳しい。2021年度に0円だったスポンサー収入は550万円に増えたものの、現在5人の強化指定選手でさえ、選手1人当たりで平均50万円程度かかる海外遠征では、選手への補助は10万円。国内遠征は原則全て選手の自腹という。
 射撃はライフルやピストルで最大50メートル先の的を狙って得点を競う。銃口の角度や位置を定め、トリガー(引き金)を引く。球技のように体を大きく動かすことはないものの、高い集中力が求められる。障害があっても取り組みやすい競技だ。野口さんは「この競技が運営できなくなると、重い障害がある人の可能性を閉ざすことになる」とこぼす。


射撃の岡田和也選手(手前、提供:IPC)=2024年、パリ

 パリ大会の射撃に出場した岡田和也選手(55)は「資金難をダイレクトに感じ、強いストレスがある」と語る。
 カヌーも同様の境遇にある。パリ大会に出場した宮嶋志帆選手(33)は、会社員として働いた給料から遠征費などを負担して競技を続けている。「競技に集中したいのに、お金のやりくりについて考えないといけない」と嘆く。

 ▽助成金だけでは競技の普及や選手の発掘は難しく

 各競技団体は、日本財団パラスポーツサポートセンターや日本パラリンピック委員会が拠出する助成金のほか、スポンサー収入などを元手に、選手の遠征費や強化合宿費、職員の人件費、イベント開催費などを賄っている。
 ただ助成金の使い道は原則として、遠征費など選手の活動費に限られているという。スポンサー収入や寄付金がなければ、競技の普及や選手の発掘などは難しい。
 知的障害部門の競技は身体障害部門の競技と比べてスポンサー獲得の難易度が「高い」という声も。日本知的障がい者卓球連盟の石川一則理事長は「身体障害部門の競技のように選手の外見で障害が分かれば『頑張っている』と共感してもらいやすいが、知的障害部門は本人の苦労が見た目だけで分からないので、社会的に応援してもらいにくい」と話す。

 ▽かつては「門前払い」だった企業に変化も


パラアーチェリーの競技体験の様子=9月22日、東京・秋葉原

 P.UNITEDはパラリンピック対象競技を含む障害者スポーツの体験会や、選手が登壇する講演会などのイベントを手がけている。9月22日には東京・秋葉原の「ベルサール秋葉原」でパラスポーツの体験イベントを開催。延べ約1万2千人が参加した。各ブースは、パリ大会に出場した選手らと交流したり、競技を体験したりする人たちでにぎわった。


竹守彪選手(知的障害)と卓球ができるブース=9月22日、東京・秋葉原

 設立から1年以上が経過し、効果が少しずつ出始めている。
 日本障がい者乗馬協会の事務局長でP.UNITEDの副代表、河野正寿さん(50)は「点で活動していた団体が団結することで活動の幅が広がっている」と手応えを感じている。かつては競技団体が個別に営業で企業を訪問しても「門前払いされることが多かった」というが、近年は「話を聞いてくれる企業が増えた」としている。
 2024年7月には物流大手「山九」がP.UNITEDの公式スポンサーとなった。選手の雇用も念頭に「競技で培ったチャレンジ精神やチームワークを社内で生かしてもらいたい」(山九担当者)と期待する。

 ▽「情報発信の強化」→「スポンサー収入増」→「選手の成績と競技人気がアップ」


パリ・パラリンピックの車いすラグビー決勝で攻め込む日本選手(中央)

 一方、パリ大会で金メダルを獲得した車いすラグビーや、車いすテニスのように、多くの大手企業がスポンサーとなっている競技の収入規模には届いていない。身体障害部門の卓球は6社から計2700万円の支援を受けている。競技や選手の魅力に実際に触れてもらえるよう力を入れてきたという。


パリ・パラリンピックのブラインドサッカーでトルコ相手に攻め込む日本選手

 ブラインドサッカーはスポンサー収入や事業収益を含めた収入総額が年3億9千万円に上り、助成金の割合は3割程度。クラウドファンディングで寄せられた600万円を活用し、3カ国を招いた大会をパリ大会の直前に主催した。
 「情報発信の強化」が「スポンサーの獲得と収入増」へ、さらに「選手の成績向上」「人気アップ」へ発展する好循環が生じている。
 障害者スポーツに詳しい立命館大の金山千広(かなやま・ちひろ)教授は「財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な競技団体が結集するのは画期的だ」と評価する。
 イベントの合同開催などで「支援したい」と思えるような魅力や意義を協力して発信すれば、それぞれのスポンサーやファンも増える「相乗効果」が見込めると話している。

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