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難聴に悩む人の孤独を減らすメタバース空間「手話の壁」も越えて広がる交流 「みみトモ。ランド」20代と70代が仲間に!?

47NEWS / 2024年11月18日 10時0分

メタバース空間を紹介する高野恵利那さん=10月10日、東京都千代田区

 インターネット上の仮想空間「メタバース」。自分の分身である「アバター」を操作してさまざまな体験や交流ができる。聞いたことはあっても日常生活に取り入れている人はゲームの利用者など一握りに過ぎないのではないだろうか。

 そんなメタバースの一角に、難聴を抱える人や支援者らが毎晩のように集い、交流を深めている。聴覚障害者コミュニティー「みみトモ。ランド」は、およそ1年前の公開からのアクセス数は3万回以上。運営しているのは両耳が聞こえづらい高野恵利那さん(27)だ。看護師をしながら特定非営利活動法人(NPO法人)の代表理事を務める。「難聴に悩む人たちの孤独感を減らしたかった」。いじめられ、愛想笑いをしていた日々―。自身の学生時代のつらい経験が新しい〝つながり〟を生んだ。(共同通信=村川実由紀)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。


メタバース空間「みみトモ。ランド」(高野恵利那さん提供)

 ▽聞こえたふりをして愛想笑い
 高野さんは山梨県で育った。5歳ぐらいのときに中耳炎にかかり、両耳が中等度の難聴になった。全く聞こえなかったわけではなかったこともあり、小中高は特別な指導は受けず、通常の学級で過ごした。

 状況にもよるが、例えば1対1の大きな声の会話の内容は分かっても、4人以上になると会話が聞き取りづらくなる。聞こえたふりをして愛想笑いしてしまい、コミュニケーションがうまくいかない。すぐに謝ってしまい、いじめられたこともあった。「私は普通ではないから仲間ができないんだ」と孤独感が強まり、自分のことをなかなか好きになれなかった。

 ▽孤独を解消できる居場所
 周囲に自身の難聴のことを知ってもらえるよう丁寧に説明したことが影響したのか、後に友人ができた。

 そんな経験からかつての自分のように障害を抱えた人や孤独を抱えた人に寄り添える仕事はないだろうかと模索し、看護師になる道を選んだ。夜勤をこなし、忙しい日々を過ごす中、仕事だけでは交流できる人の範囲に限界があることが気になった。

 インターネット上に家や学校、職場とは異なる居場所「サードプレイス」を作れば、たくさんの難聴当事者の孤独を解消できるのではないか。そう考えて行き着いたのがメタバースだ。交流サイト(SNS)のX(旧ツイッター)ほど不特定多数を対象としないが、匿名性が高く、交流に適している。「参加者とリアルに近い感覚でやりとりができるのが魅力」という。


メタバースについて紹介する高野恵利那さん=10月10日、東京都千代田区

 ▽「自分らしく過ごす」
 メタバース空間では、半屋内の集会所のような場所の中で、自由にアバターを動かしたり、壁に貼ってある関係団体のイベントのポスターをクリックして閲覧したりできる。メタバース専用のゴーグルを使わなくても、スマホやタブレット、パソコンなどから、無料で利用できる。

 ニックネーム、アバターを介し、チャット機能を使って文字で会話するので、ウェブ会議のようにカメラを気にする必要もない。24時間利用可能だが、「お風呂上がりに集まる人が多く、共通の話題で盛り上がれる」という。チャットの記録が閲覧できるため、後からメタバース空間に入ってきても会話に加わりやすい。

 「みみトモ。ランド」を立ち上げる過程でSNSなどを通じて仲間も増えた。学生時代は自分に自信がなかったが、最近は「表情が明るくなったり、人の目を見て話せるようになったりした」と周囲に言われることが増えた。「普通という言葉に捕らわれず、自分らしく過ごすことが大事だ」と今は思える。


メタバース空間「みみトモ。ランド」で開いた「難聴万博」(高野恵利那さん提供)

 ▽世代を超えたつながり
 難聴に悩む人、医師、言語聴覚士、特別支援学校の先生など「みみトモ。ランド」にはさまざまな人が集まる。東京都品川区に住む真野守之さん(72)もその1人。NPO法人人工聴覚情報学会の代表理事をしている。

 真野さんは40代で聴力を完全に失った。何も聞こえない状態で3年過ごした後に人工内耳の存在を知り、埋め込み手術を受けて聴力を回復した。音を電気信号に変換し、脳に伝えるこの機器をもっと早く知っていれば良かったとの後悔から「医療情報を正しく伝える活動をしよう」と、治療のバリエーションや専門家が集う学会の情報を伝えるホームページを開設した。専門家のインタビュー動画の公開やイベントの情報の紹介など難聴に関係のある情報を集約している。

 真野さんは高野さんたちの活動を知り、難聴の人に適した新しい交流の手段だと思い、協力を申し出た。自身も利用する中で、メタバース空間では「年齢を意識せずにやりとりができる」と感じている。20~30代を中心に幅広い世代が集っている。

 真野さんは、高野さんらからメタバースを含む新しいプラットフォームの利用のノウハウなども学んでいる。「つながりあえるはずがなかった人と出会える。オンライン会議も教えてもらってできるようになった。キーボードのタイプも速くなったんです」とうれしそうに話す。

 つながりを生かし、メタバース空間で難聴をテーマに最新の情報に触れられるイベント「難聴万博」を3~4月に実施することもできた。高野さんは「私は今でも長期にわたる人間関係を築くのが苦手。苦労しないよう、できるだけ若いうちに補聴器、人工内耳という手段を知ってもらえれば良い」と願う。


高野恵利那さん(手前)と真野守之さん(左)、メタバースを利用する男性=10月10日、東京都千代田区

 ▽手話という言語の壁
 難聴といっても状態は人それぞれ。全く聞こえない人もいれば片耳だけ難聴の人、補聴器や人工内耳を使って問題なく会話ができる人もいる。「みみトモ。ランド」をよく利用するある男性は人工内耳を使っても聞き取りづらいため、手話を第1言語にしている。メタバース空間ではチャット機能を用いた文字で会話するため、読み書きさえできれば手話が分からない人とも交流ができる。

 高野さんは「手話ができないことで、リアルだと仲良くなれる可能性が低かった人とも友だちになれたことってすごいことじゃないですか」と話す。高野さんはもともと手話ができなかったが、この男性らと交流をしている中で少しだけ手話を覚えた。

 「困っている人を支援できるポジションに居続けたい」。これからもメタバースの運用などを通して、難聴を含む障害がある人がストレスなく働き、収入をしっかり得られるような社会環境づくりの一助になりたいと考えている。

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