ウクライナ侵攻で投入される北朝鮮兵は「突撃部隊」 兵士報酬ピンハネ、実戦経験のメリットも。日本にも影響?
47NEWS / 2024年11月5日 10時30分
北朝鮮軍がロシアに兵士を派遣したことで、ウクライナ情勢は東アジアを巻き込んだ新局面に入った。北朝鮮の狙いと見返りは何か―。米中央情報局(CIA)などの情報機関で長年、朝鮮半島情勢をウォッチしてきた保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のブルース・クリンナー上級研究員は、北朝鮮兵がウクライナ軍との戦闘でロシア軍を支援し、突撃部隊の役割を担うと指摘。実戦経験を得るほか、金正恩政権にとっては兵士の報酬を搾取することで資金源にする思惑があると見る。日本にとって心配なのは、ロシアから北朝鮮への軍事技術の供与だ。(共同通信ワシントン支局 武井徹)
▽金正恩の賭け、ゲームチェンジャーになりえず
インタビューに答える米ヘリテージ財団のブルース・クリンナー上級研究員(共同)
―北朝鮮兵によるロシア支援について、どのように注目していますか。
「ロシアとウクライナの戦闘にどのような影響を与えるかということだ。派遣されたのが、歩兵や特殊部隊だとすれば、後方支援ではなく戦闘で突撃部隊として使われると推測できる。特殊部隊は敵陣潜入や暗殺の訓練を受けているはずだが、北朝鮮の場合は西側や韓国の特殊部隊のような質に達しておらず、そのような任務には就かないと思う」
―北朝鮮兵の能力をどう見ていますか。
「北朝鮮は、ベトナム戦争や第4次中東戦争に絡んで戦闘機パイロットなどを送り、シリア内戦で2016年に小規模な軍事顧問団や部隊を派遣したことがあるが、大規模な地上軍の海外展開は初めてだ。経験や洗練された武器を欠き、ロシア軍と通信する統合指揮通信システムも持っていない。ロシアの戦力補強にはなるが、戦局を変えるゲームチェンジャーにはなりそうもない。ウクライナ軍相手にうまく戦えなかったり、北朝鮮の外の世界に触れることで多くの兵士が亡命したりすれば、北朝鮮軍全体の士気に影響する。有能な部隊ではないと世界に知れ渡るリスクもある」
―金政権にとっては賭けでもあるわけですね。派兵によって何を得るのでしょうか。
「現代戦の武器や戦術に触れ、北朝鮮軍の近代化や戦力向上につなげられる。金政権が権力を維持し続けるための資金を稼ぐ手段でもある。派遣規模が約1万2千人になるとされる北朝鮮兵は、1人当たり月2千ドル(約30万円)の報酬を得ると報道されている。中国やロシアにいる北朝鮮人労働者と同じように、報酬のほとんどは金政権が吸い上げるだろう。ロシアが北朝鮮の軍事的な大盤振る舞いの見返りに何を与えたかは定かではない。おそらく資金、食料、燃料だが、心配なのは軍事技術の移転だ。一部の専門家は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が大気圏に再突入する際に高熱や振動から核弾頭を守る技術など最先端の軍事技術だと推測しているが、航空機や潜水艦など通常兵器の設計や生産向上に関する支援の可能性の方が高いのではないかと思う」
▽ロシアと北朝鮮は同盟か、それとも政略結婚か
北朝鮮・平壌国際空港で笑顔を見せる金正恩朝鮮労働党総書記(左)とロシアのプーチン大統領=6月19日(AP=共同)
―北朝鮮とロシアは急速に接近し、軍事協力を深めています。
「いわゆる政略結婚なのか、それとも真の同盟なのかについてはまだ議論の余地がある。だがウクライナ侵攻を巡って多くの弾薬やミサイルがロシアに渡ったことは明らかだ。北朝鮮はこれまで推定で約800万発の砲弾と多くの短距離弾道ミサイル(SRBM)をロシアに送っている。西側情報機関の見立てでは、ウクライナでロシアが使った弾薬の半分が北朝鮮製だった。砲弾は何十年も前に製造されたもので不具合も多く、最近製造されたSRBMでも半分に誤作動があった」
―朝鮮半島有事が起きた場合、ロシアは北朝鮮支援で同様に兵力を提供するでしょうか。
「即座には派遣しないのではないか。有事の支援を規定したロ朝包括的戦略パートナーシップ条約の文言にはさまざまな解釈があるが、自動的に参戦を発動するものではない。その時の指導者の判断に委ねられるが、ウクライナ侵攻で疲弊しているロシア軍が北朝鮮に派兵する余裕があるかどうかは疑わしい」
―今、軍事境界線を挟んで韓国と北朝鮮の緊張が高まっています。ロシアへの北朝鮮兵派遣と南北緊張は関連しているのでしょうか。
「そうは思わない。この二つは別のものだ。北朝鮮は現在、ロシア支援に集中している。韓国との衝突を今は望んでいないということだ。韓国を攻撃しようとしているのなら、ロシアに大量の弾薬を送ることはない。北朝鮮軍が韓国との間を結ぶ道路や鉄道の北朝鮮側を爆破するなどして南北の緊張が高まっているのは確かだ。双方の誤算によって緊張がエスカレートする可能性はある」
―北朝鮮は米国との対話を拒み続け、外交対話は望めない状況です。
「2019年10月にスウェーデンの首都ストックホルムで開いた実務協議以降、非核化交渉は5年間も途絶えたままだ。2021年1月に発足したバイデン政権下では一度も実現していない。極秘対話があったかどうかは分からないが、政権高官たちは一様に『あらゆる手段を試したが、北朝鮮は対話に応じない』と話す。少なくとも実のある外交はできていない。対話再開のために米側が譲歩すべきだと主張する人もいるが、私はそうは思わない」
▽日本の政局混迷は安保にどう影響?
インタビューに答える米ヘリテージ財団のブルース・クリンナー上級研究員(共同)
―日本はロシアと北朝鮮の近隣国ですが、厳しい安全保障環境に日米が対応する上で、日本の政局混迷は同盟にどう影響するでしょうか。
「衆院選の結果を受けて石破政権が続くかどうか注目している。石破茂首相は11月11日に見込まれる首相指名選挙は乗り切るかもしれないが、求心力は低下した。内政に集中せざるを得ず、法案の推進力は落ちる。国内総生産(GDP)の2%を防衛費に充てるという公約があるが、財源をどうやって賄うのかについては決着していない。日本が中国に対する政策を軟化させたり、韓国との緊張を高めたり、米国との同盟関係から遠ざかったりするとは思わないが、国内で少しでも論議を呼びそうな政策を進めるのは難しくなる。日米同盟はしばらく弱体化するだろう。さらに影を落とすのが米大統領選だ。民主党のハリス副大統領が勝てば同盟の行方は予想しやすい。共和党のトランプ前大統領が勝利すれば、多くの不確実性がある」
× ×
BRUCE KLINGNER 米中央情報局(CIA)や国防情報局(DIA)で約20年勤務し、東アジアや朝鮮半島の情勢を分析。2007年からヘリテージ財団。
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