通勤形も動態保存の時代に 東急8500系電車
47NEWS / 2024年11月15日 11時0分
東京と神奈川を走る東急電鉄が8500系電車を動態保存すると聞いて、喜びがじわじわ湧いてくるとともに、大きな驚きを感じた。復活の時期は「2024年秋頃」と発表され、このコラムを準備しているうちに、「試運転を撮影できた」や「車両工場の公開イベントで展示された」という歓喜の声がネットに投稿されはじめた。掲載される頃には、復活運転のスケジュールが発表されているかもしれない。いずれにしても、8500系が元気に走る日はすぐそこだ。
少年時代の筆者は8500系に何度も乗った。動態保存を喜ぶのは当たり前として、なぜ驚いたのかというと、この電車が世間的には「平凡」と思われがちな銀色の通勤形電車ということに尽きる。動態保存といえば蒸気機関車(SL)が広く知られているが、電車はなかなか珍しい。さらに通勤形電車の動態保存となると、東武8000型ぐらいしか思いつかない。
しかも発表の時期は、JR東日本がイベント用としてせっかく大事に残してきた電気機関車とディーゼル機関車を引退させると公表した直後だった。東急の英断に感銘を受けつつ、「ついに通勤形電車も動態保存される時代になったのか」と感傷にふけった。
広告装飾のため青帯に変更された8637編成が東急に最後まで残り、動態保存も決まった
ステンレス車体の都会的なルックスをして、自社の地下鉄プロジェクトを成功へと導き、爆音を響かせて激走した8500系。デビューは1975年だった。路面電車の東急玉川線を地下化して77年に開通した新玉川線(現在の田園都市線渋谷~二子玉川)向けの車両として、8000系をマイナーチェンジして開発された。翌78年に開業した営団地下鉄(東京メトロの前身)の半蔵門線にも乗り入れた。いや、それどころか、営団の独自車両が製造されるまでの数年は、半蔵門線を走るすべての車両が東急8500系という珍現象が続いた。
秩父鉄道では緑帯に変更されて山岳電車らしい印象になった
8500系の外見的な特徴は、コルゲートと呼ばれる凸凹のラインが印象的なステンレスの車体だ。カラーはそれまでに製造された東急のステンレス車体やアルミ車体の先輩車両と同じように、塗装を施さない金属むき出しの銀色だった。ただ、車体正面の運転席窓の下だけは、先輩たちと違って太めの赤帯が付いた。
今でこそ銀色のアルミ電車が全盛になったが、8500系の登場時は、鋼鉄の車体に塗装を施した電車が一般的。銀色の電車には先進的なイメージがあった。そこへ先頭車の赤帯がスマートさを付け足した。真夏の太陽を浴びればキラキラと輝き、夕焼け空の下を走ればオレンジ色に染まった車体。旅情はないけど都会的な電車だった。テレビドラマ「私鉄沿線97分署」や「金曜日の妻たちへ」をはじめ、東京郊外を舞台とする作品にたびたび“出演”した名脇役でもある。
乗車して分かる特徴は、高速走行時の爆音をはじめとする独特の走行音と、メリハリのある加減速だ。8500系はため息みたいなブレーキ緩解音をさせてから走り出し、何とも例えようのない「東急サウンド」を奏でて、あっという間に高速域に達する。その加速ぶりは、運転席にかぶりつくと気持ちよかった。高速時は大きな音を立て、地下鉄区間では会話が聞き取りにくいほどの爆音を響かせたものだった。
長野電鉄では東急時代の雰囲気を保っている。奥に元地下鉄日比谷線の車両が見えて東横線を思い出した
駅のホームには「突進する」ような速さで滑り込み、すうっと停止する。当時の国鉄や他の私鉄に乗り慣れていると、減速の性能に感心するばかりだった。ただし、雨や雪の日には、加速や減速が滑らかではなく、「ガクン、ガクン」と無秩序な速度変化を繰り返すのが玉にきずだった。駅の停車位置を通り過ぎてしまい、正しい位置までバックすることが何度もあった。それも懐かしい思い出だ。
8500系は10両編成が40本、計400両が製造され、一時は東急の最大勢力だった。新玉川・田園都市線だけでなく、東横線にも投入され、同社のフラッグシップのような存在になった。しかしどんなに最新技術を詰め込んだ車両でも、いつかは新しい車両に世代交代する運命にある。8500系も例外ではなく、少しずつ次世代の車両へバトンタッチしていった。
長野電鉄に行っても、つり革は東急時代のままだ
2023年に東急を退いたが、一部の車両は秩父鉄道や長野電鉄などのローカル私鉄で活躍している。はるばるインドネシアに渡った仲間もいる。東急で復活するのは短い4両編成だが、大井町線(大井町~溝の口)、田園都市線(二子玉川~長津田)、こどもの国線でイベント時の臨時列車として使われるという。往年の走りに期待したい。
☆共同通信・寺尾敦史
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