「ネットとリアルの融合」で躍進した国民民主党、研究したのは石丸伸二氏 SNSと人流データが示す今後の選挙戦略とは?【データ・インサイト】
47NEWS / 2024年11月16日 11時0分
衆院選(10月27日投開票)は自民党、公明党が合計獲得議席で過半数を割り込む大敗を喫した。対照的に、議席を4倍に伸ばして脚光を浴びたのが国民民主党だ。一躍、永田町の「キャスチングボート」を握る存在となり、玉木雄一郎代表の注目度は急上昇している。
躍進の要因について玉木氏はこう語る。「インターネットとリアルの融合が起きた」。選挙戦では、SNSや動画の生配信で有権者との直接対話に力を入れた。親近感のアピールと、「手取りを増やす」とうたった生活者目線の公約を浸透させることに成功。街頭演説には多くの聴衆が詰めかけた。玉木氏いわく、参考にしたのは7月の東京都知事選でSNSや動画配信を駆使し支持を拡大した石丸伸二氏だった。
来年の夏には参院選を控える。ネット選挙はどこまで影響力を伸ばすのだろうか。専門家はこう指摘する。「SNS戦略は比例代表の得票に影響する可能性が高く、政党が本気で対応しなければならない時代になった。動画配信を通じた有権者との直接的な対話が鍵になる」(共同通信衆院選データ分析班)
▽国民民主党の比例議席は5倍超
今回の衆院選で、国民民主党は28議席を獲得した。公示前の7議席から4倍も増えた。このうち11議席が小選挙区、17議席が比例代表だ。小選挙区では、埼玉14区で公明党の石井啓一代表(当時)を公認候補が破った。
小選挙区以上に目を見張るのは、比例代表での躍進ぶりだ。得票は前回2021年の衆院選の259万票から倍以上となる617万票に急伸し、獲得議席は前回の3議席から5倍超。北関東ブロックと東海ブロックでは獲得議席が候補者の人数を超えてしまったため、計3議席を他党に譲ったほどだった。
▽裏金事件で躍進?
なぜこれほど躍進したのか。派閥裏金事件を起こした自民党に「逆風」が吹き荒れていたという事情はもちろんある。特に、裏金事件に関与して自民党が非公認とした候補者が支部長を務める政党支部に対し、自民党本部が2000万円の「活動費」を支給していたことが明るみに出たことが「だめ押し」(自民党関係者)になった。
衆院選で最後の訴えをする石破首相=2024年10月26日、東京都江東区
今回の投票率(小選挙区)は53・85%と前回2021年より下がったのを見ても、投票に行く人が増えたから国民民主党の得票が増えたというより、与党支持層や無党派層の一部が国民民主党に票を投じた可能性が高い。
ただ、玉木代表の街頭演説の盛り上がりを踏まえれば、「与党に入れたくないから」という消極的な支持だけとは思えない。政策の浸透や党の好感度アピールが、積極的な評価に結びついた面があるのは確かだろう。
▽「リアルだけじゃだめ」
衆院選の開票が進み躍進が確定的になった直後の記者会見で、玉木氏は支持拡大のポイントについてこう述べている。「リアルだけじゃだめ。ネットとの融合ができて初めて票につながる」。どういうことだろうか。
衆院選最終日、国民民主党・玉木代表の街頭演説で、スマートフォンのライトを照らす有権者ら=2024年10月26日、東京都内
まず、リアルな活動について、従来型の選挙運動である街頭演説から考察してみよう。10月26日に行われた選挙戦最後の街頭演説会場の人流データを紹介したい。会場を含む500メートル四方のプライバシー保護された位置情報をNTTドコモが統計加工し、IT企業「ロケーションマインド」が分析したもので、共同通信が時間帯を絞り込むなどして詳細を調べた。増減は今年9月の同じ曜日(土曜)の平均値も用いて比較した。
玉木代表の東京駅前における演説が盛り上がったのは写真を見れば一目瞭然だが、まずこの演説会場付近について見ていく。普段から人出が多いエリアだけに、明らかな人流の変動は観測されなかったが、玉木氏の登壇中はそれ以前より少なくとも1000人超が増加した。
ロケーションマインドのデータをもとに作成
より顕著な変化が確認されたのは与党だ。自民党総裁の石破茂首相が演説した東京・豊洲では、午後7時半前から人流の増加が確認され、集会が終わる午後8時には前月平均から4割超増えていた。公明党の石井啓一代表(11月9日に代表を交代)が訪れた北海道・岩見沢でも5割近く伸びた。
ロケーションマインドのデータをもとに作成
増えた人流の全てが聴衆とは言えないものの、大敗した自民党や公明党も裏金事件の逆風を受けながら国民民主党と同様か、それ以上の「動員力」を発揮していたことが伺える。
▽際立った国民民主党のSNS戦略
では、玉木氏が躍進要因に挙げた「ネットとの融合」はどのように行われたのだろうか。今回の衆院選における全小選挙区候補者のSNS戦略を分析したネットコミュニケーション研究所の中村佳美代表は「国民民主党はショート動画や、生配信などを通じ『有権者の声を聴く政党』というアピールに注力した」と分析。「全政党の中でもSNSや動画戦略が際立って秀逸だった」と語る。
ネットコミュニケーション研究所の中村佳美代表
一方、自民党は「裏金事件を踏まえて『炎上』を警戒したのかもしれないが、発信は控えめで、多くが政策の説明など従来型のものにとどまっていた印象だ」と述べている。
中村代表によると、国民民主党は政策の訴えに加え、ショート動画などを通じて玉木代表や榛葉賀津也幹事長らの人柄を前面に押し出した。支持者が作成したゲームを玉木氏自身がスマホで操作する動画を投稿するなど、支持者との距離を縮めようとする姿勢を積極的に示した。
また、ユーチューブの生配信では視聴者のコメントにリアルタイムで応答し、「有権者の声を聴いている」という姿勢をアピール。街頭演説の生配信では、終了時に玉木氏がカメラに駆け寄り「皆ありがとう!」と語りかけ、視聴者との一体感を演出した。こうしたSNS活用の積み重ねが「リアルと融合」し、新たな支持層の獲得や街頭演説の聴衆の増加、ひいては得票の大幅な伸びにつながったと見ている。
聴衆と握手する国民民主党の玉木代表=2024年10月19日、三重県四日市市
普段からのネットにおける発信も訴求力を高めた。玉木氏は2018年からユーチューブで公式チャンネル「たまきチャンネル」を運営し、ユーチューバーとしても活動してきた。玉木氏自身、「選挙になったからSNSを使い始めるのでは票は取れない。普段からの『ネットどぶ板』が大事だ」と語る。選挙がない時期にも一軒一軒、選挙区の有権者宅や企業を訪問するなどして、地道にPRする「どぶ板選挙」になぞらえた発言だ。
▽フォロワー数増とユーチューブ視聴数で断トツ
ネットどぶ板の効果はデータにもはっきりと現れている。ネットコミュニケーション研究所の集計で、公示日(10月15日)から投開票前日(26日)までのX(旧ツイッター)のフォロワー数の伸びは、玉木氏が全候補者の中で断トツで多かったのだ。フォロワー増加数は約29700に上り、2位の自民党・高市早苗元経済安全保障担当相の約8600に比べ3倍を超えていた。榛葉賀津也幹事長の存在感も上昇し、Xのフォロワー増加数は党首で3位の参政党の神谷宗幣代表を上回った。
期間中のユーチューブ動画視聴数も玉木氏は群を抜いている。228万回に上り、100万回を下回る2位以下を引き離していた。
インスタグラムでも「快進撃」が見て取れる。フォロワー増加数は玉木氏が2100超で、政党公式アカウントと党首の中で唯一2000を超えた。
▽石丸伸二氏を研究
データを見ると、衆院選期間中、SNSや動画配信で最も「バズった」のは玉木氏だった。そして、それはリアルな得票に現れた。
今年行われた選挙で、同じような例がある。7月の東京都知事選で、落選はしたものの知名度のある蓮舫氏を得票で上回った石丸伸二氏だ。動画のライブ配信や、自身の演説などを編集した「切り抜き動画」の拡散を呼びかけて支持を急拡大し、小池百合子都知事に次ぐ2位につけた。
東京都知事選で街頭演説する石丸伸二氏=2024年6月、東京都品川区
玉木氏も躍進が判明した直後の記者会見で、石丸氏の手法について「ずいぶん研究し、参考にさせてもらった」と述べている。10月26日の東京駅でのマイク納めの演説では「私の写真を撮って、動画でもいい。それを拡散してください」と呼びかけた。都知事選で石丸氏が訴えた言葉だ。
▽ネット選挙は比例票に影響
今回の衆院選で国民民主党が比例代表で617万票を獲得したことは既に書いた通りだ。では、小選挙区での総得票数はどうだったのか。234万票だ。小選挙区と比較して380万を超える票を、比例で獲得したということになる。
国民民主党の立候補者がいなかった選挙区で相当数の「国民民主票」が投じられたのだ。ネットコミュニケーション研究所の中村代表は、政党代表らのSNSフォロワー数や動画視聴数の伸びは「比例票の動向に影響する可能性が高い」と述べている。
それも納得だ。選挙区に候補者がいなければ、政党代表らはなかなか街頭演説に足を運ばない。応援する候補者がいないからだ。一方で、ネットではスマートフォンやパソコンを持つ全国の有権者にアプローチできる。街頭演説のネット中継の視聴者数は、時にリアルの動員数の何倍にもなる。こうした「飛び道具」が、政党や代表の人気に影響されやすい比例代表の得票を左右する時代が本格的に来たのかもしれない。
来年夏には参院選が待ち受けている。比例代表が衆院選のように全国11ブロックに分割されておらず、まとめて集計される参院選では、ネットでのアピールがより影響力を増す可能性がある。また参院選の選挙区は都道府県単位か2県にまたがり、候補者の活動範囲は知事選規模か、それ以上になる。選挙区で戦う候補者にとってもSNS戦略は欠かせないものになるとみられる。
では、どんなやり方が効果的なのだろう。中村代表の見解はこうだ。「今後は、単なる情報発信にとどまらず有権者と直接対話を行うなど、より身近に感じてもらえる動画配信の活用が支持拡大の鍵となるだろう」
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