日本の成長率、実は「G7首位」?働き手中心の指標で見えてくる別の姿 「人口減少の中、驚くほどうまく対処している」と米大学教授
47NEWS / 2024年11月19日 11時0分
1990年代のバブル経済崩壊以降、景気の低迷が続いてきた日本。「失われた30年」と言われ、最近では名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれて4位に転落したことも話題になった。だが、日本の経済成長率は働き手の減少を考慮すれば先進7カ国(G7)首位だった―。米ペンシルベニア大教授らがこんな調査結果をまとめた。
「長期低迷が常識とされてきた日本が、G7で首位に立てたのはなぜか」。意外な調査結果に関心を持った私は、調査した教授に、日本が良好な結果をたたき出した背景を取材。日本の専門家にも話を聞き、さらなる成長に向けて日本経済が抱える課題を考えた。(共同通信ブリュッセル支局=仲嶋芳浩)
▽実質成長率だと下から2番目
調査したのは、米ペンシルベニア大のヘスース・フェルナンデス・ビジャベルデ教授ら3人だ。調査の基となる主な数値は、世界銀行のデータベースから引用してG7で比較。今年8月に最新版を公開した。
GDPは、国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計を示し、景気動向や経済規模を示す目安とされる。調査によると、2008年から2019年までの日本の成長率は、物価変動の影響を除いた実質で年平均0・58%。G7では最下位イタリアに次いで下から2番目で、首位の米国の1・81%や、カナダの1・79%と比べると大きく見劣りした。
人口1人当たりの成長率では、日本は0・68%とやや改善する。人口そのものが減少傾向にあるためだ。G7全体で見ると4位だった。
▽人口当たりの比較は「誤解を招く」
今回の調査で着目したのは、15~64歳とされる生産年齢人口1人当たりのGDPだ。生産活動や消費の中心的な担い手になるとみなされているが、急速に高齢化が進む日本では大きく減少している。その分、日本の成長率を生産年齢人口当たりで見ると1・49%にまで改善し、G7では首位に躍り出る。ドイツの1・35%や、米国の1・34%を上回った。
日本の労働生産性はかねて低いと指摘されている。日本経済について研究するシンクタンクの日本生産性本部によると、2022年は経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国中30位だった。だが、今回の調査では、成長率で比較すると、現役世代が付加価値の向上で健闘している可能性を示している。
論文は、先進国で高齢化が進んでいることに触れ「経済成長率を人口1人当たりの指標で比べるのは誤解を招きやすくなっている」と指摘し「より良い指標を探そう」と提唱した。
▽少子化対策「何よりも優先」
8月下旬、フェルナンデス・ビジャベルデ教授にオンラインで話を聞いた。
オンラインで取材に応じる米ペンシルベニア大のヘスース・フェルナンデス・ビジャベルデ教授=8月(共同)
―日本の生産年齢人口当たりの成長率が良好だったという調査結果は、どのように受け止めればよいか。
「私が言いたいのは、日本は不利な人口動態を考慮すれば、きちんと結果を出しているということだ。日本は1970年代に出生率が大きく低下した。生産年齢人口が少ないということは、モノやサービスの生産が少なくなることを意味する。他の先進国でも高齢化が進んでおり、日本は他の先進国の将来の姿だと言える。日本は生産年齢人口が減るという状況にもかかわらず、驚くほどうまく対処していると考えている」
―日本の労働生産性の低さは各種の調査で指摘されている。この事実とのギャップはどう捉えればよいか。
「水準と率を区別する必要がある。日本の生産性は1990年代に既に低かった。現在でも比較的低いが、成長率としては悪くない。日本の経済政策や金融政策は批判にさらされてきたが、人口動態の悪化という強い逆風を乗り越えてよくやっていると思う」
―日本の成長には何が必要か。
「まず、少子化対策が何よりも優先される。そうすれば、子どもが成長する20年後に多くの働き手が生まれ、経済を助ける。また、日本の生産性は現在でも比較的低いので、生産性を向上させる対策はどんなものでも有効だ」
▽問題は「労働者の頑張りではない」
今回の調査結果について、日本の専門家の評価を聞きたくなった。マクロ経済に詳しい第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「イノベーションによって生産性が上がったというよりも、働き手が減る中で経済活動を維持してきた結果ではないか」と指摘する。その上で、女性の労働参加が進んだことも背景にあるとの見方を示す。
日本では、働く女性の割合を折れ線グラフにすると、20代が最も高く、子育て世代の30代でいったん落ち込み、再び40代後半に2度目のピークを迎える「M字カーブ」を描いてきたが、最近は30代で仕事を離れる人が減り、M字の底が浅くなってきている。
第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミスト
星野さんは「仕事と、家事や育児との両立が難しい状況がある程度解消してきた」とみる。生産年齢人口が減る中で、子育てをしやすい職場環境を整える企業が増えれば、経済の活力を高めることにもつながりそうだ。
生産性を向上させる方法について、星野さんが「誤解があると思っている」と指摘するのは、労働者の役割に関する考え方だ。生産性が低いと言われると、労働者の頑張りが足りないと非難されている気になるが、星野さんは「生産性を高めるには、労働者が頑張れば良いというわけではない。ビジネスをどうやるかという点にかかっている」と強調する。
▽「おもてなし」過剰は課題
業種別で見ると、金融機関の生産性が高い。それは稼ぎやすいビジネスモデルを構築しているためだと説明する。日本の「ものづくり」を支える製造業が生産性を高めるためには、従業員に頑張りを求めるのではなく、ロボットや人工知能(AI)の活用を一段と進める必要があるとの認識を示した。
星野さんは「おもてなし」の国として知られる日本の課題として、過剰とも言えるサービスの提供も挙げる。例えば、コンビニエンスストアの24時間営業は地域住民にとっては便利で、防犯上も有効とされるが、夜間の利用客が少ない地域で展開すれば企業にとってはコストが増加する一因となる。確かに欧州では、日本のような24時間営業の小売店は珍しい。
ただ、最近では日本でも人手不足を背景に24時間営業をしていない時短店舗数が増加。共同通信の調査によると、2024年2~4月時点で、セブン―イレブンなどコンビニ主要6社の時短店舗数は全体の1割超に当たる約6400店に上った。星野さんは、こうした店舗の増加も、生産性向上につながるとみる。
共同通信による4月の調査
▽広がる「カスハラ」対策
星野さんは、大手小売りや外食各社が来店客による店員への理不尽な要求「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の対策に乗り出していることも評価する。かつて日本企業には「お客さまは神様」との意識から、従業員への無理難題にも明確な「ノー」を示しづらい風潮があった。だが、カスハラは離職の深刻な原因となっており、社員を守る姿勢を明確にする動きが広がっている。
過剰なサービスをやめたり、来店客の理不尽な要求に毅然として対応したりすることが、日本ならではの「おもてなし文化」を損なうことにはならない。むしろ労働者が働きやすい環境を整え、生き生きと仕事に向き合うことで生まれるメリットの方がずっと大きいはずだと感じた。
カスハラ抑止に関する記者会見で撮影に応じる全日本空輸(左)と日本航空の担当者=6月、東京都港区
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